高島克規のインド日記
8月21日(金) 朝の散歩:国立公園
  ある土曜日朝6時30分にヒテーシュさんから電話があった。「先生、もしお忙しくなければ国立公園にこれから行きませんか?」とのお誘いの電話であった。正直、眠いので断ろうかとも思ったがヒテーシュさんが誘うのには誘う理由があるのだろう。7時に二人で隣の公園に出かけた。
  実は公園は公園の壁があるものの、私の住んでいるアパートから中が見えるのである。だが入口はずっと迂回しなければ入場できない。7時15分にサンジャイ・ガンディー国立公園<注1>の入口に到着した。もう汗びっしょりである。湿度は日本の比ではない。

 <注1>
  サンジェイ・ガンディーは、暗殺された元首相ラジヴ・ガンディの次弟で航空事故により死亡。 彼を記念してこの公園は作られた。広さ約100平方キロ、ムンバイの北約40キロメートルにある。

  入場料は40ルピーである。ところがヒテーシュさんは「朝はフリーパスのはずです」と言うのである。いつも入場する門の横に小道がある。そこを沢山の人がフリーパスで通過している。誰もチェックしない。
  「本当は毎日通うパスを発売しているのですが、朝早いのでチェックできないのと、地元の人しか来ないのでフリーチェックなんです。外部、外国の人はこんなフリーパスがあることは知りません。10時開門で通常の料金を払って入場しているのです」とのことであった。その話を聞いて妙に自分が地元の人間になったかのような気持ちになるから不思議だ。
  しかし、この横道を入ったところにスラムの人たちが生活しているのには驚いた。ここは国立公園で居住は認められていない筈。堂々と住居(といってもバラック)を構えて洗濯物が干してある。丁度朝食の支度をしているようである。我々の眼にとまることは何とも思っていないらしい。
公園入口
  中へ入るとこの時間にこんなに人がいるの?と不思議に思うほど人がいる。「大体、朝6時ころが一番人が多いようです」とヒテーシュさんは教えてくれた。老人から子供まで様々な世代が来ている。「これから行こうと思っているのは、ガンディー・メモリアルという高台です」とのことであった。途中、公園の壁の隙間から我々が住んでいるアパートが見える箇所のさしかかると「昔はこの公園は無料で、この壁もなかったのでここからショート・カットでよく遊びに来たんです。それにこの中は携帯の電波が通じないのですよ」と教えてくれた。早速、携帯を操作した。「電波が届かない」との表示が出た!へ〜っ!こんなところに細かいことをしている、と妙に感心すると同時にこんな広い公園が遊び場なんて、なんと贅沢な!と思ってしまった。
公園内から自宅を望む 高台表示、洞窟表示
  この公園には日本の遊園地にあるような鉄道が走っている。と言っても日本のような“ちゃち”なものでなく本格的なものである。走行距離も半端ではない。その鉄道線路の横にガンディー・メモリアルへ登る道がある。登る道すがら動物、植物の解説表示がある。本当に沢山の動物、植物がいることがわかる。
公園内の様子(写真をクリックするとスライドショウ)
  途中、樹齢何百年?なんて木にも出くわす。ヒテーシュさんは、いろいろの木の葉っぱを取っては説明してくれ、食用のものは食べさせてくれた。「正直、この葉っぱ日本では見たこともないけど大丈夫?」と思いながら食べた。午後案の上、下痢をしてしまった。インド人の胃腸は本当に丈夫なのである。でも我々も小さいころは野生のものを食べたりしたことがあるのだが、か弱くなってしまったものだ。
  約10分登ると頂上に到着する。もう息絶え絶え(ちょっと大げさであるが)である。しかし、この苦労は報われる。頂上からのボリバリが一望できるのである。西側にはいつも走る高速道路、以前ご紹介したゴーライ・ビーチも遥か彼方にかすかに見える。真下には我々が住むアパート群れ、それに隣接するようなスラム集落。そして東に目を向けると黒々とした森がある。その森の中に「サファリパーク」があり、さらにずっと奥に「カンヘイリー石窟」があるのだが、ここからは全く見えない。東京都がすっぽり入ってしまう大きさである。
高台の塔(写真をクリックするとスライドショウ)

  高台にはちょっとした建物があって、老人たちがヨガ<注2>をやっている。インドに来たらどこでもヨガが見られる、と思っていたのは大きな誤解である。ムンバイに赴任してからそんな風景には出会ったことはなかった。初めてここでヨガを見たのである。勿論、日本で見るようなヨガもやっているが、むしろ印象的なのは大声を出す、ヨガである。よくあんな大声が出るものだ、と思うほどの大声である。
ヨガ(屋内) ヨガ(屋外・写真をクリックすると拡大)

  インドでは高いところにお花畑を作るのが好きなのだろうか、ここでも高台に花が咲き乱れている。以前ご紹介した「ハンギング・ガーデン<ムンバイの見どころご参照>」にとてもよく似ている造りである。そして印象に残ったのが水仙の花を浮かべている水槽があることである。日本の風景にとても似ているのだ。やはりルーツはインドである、と再認識する。
花壇

  家に帰ると丁度1時間半の散歩であった。汗びっしょり、シャワーを浴びると食欲モリモリである。ヒテーシュさんが朝早く、寝むけ眼で連れって行きたがった理由がよくわかった。これから毎週日曜日は散歩に行かなくては。
  これはインドの話ではないが、以前元会社の同僚がドイツに駐在していて、ドイツ人の友人が休日に「今日はいいことをしましょう」と言うので付いて行ったら「一日中森を歩かされた」、との話を聞いたことがある。日本人は休みになると、どこかでお金を使い、何か特別なことをしないと休んだ・遊んだ気がしない。日本人はどこか異常なのかもしれない。そんな風に思える朝の散歩であった。
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