四国遍路170万歩の旅

−定年遍路道中記−







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お わ り に 

 お遍路から帰り、皆から「生まれ変わったか」とか「仏の道が少しはわかったか」などと言われたが、千日回峰行をした訳でもなし、たった1回お遍路をしただけで、そんな簡単に人生観が変わるものではないし、まして天才弘法大師空海の教えなど凡人の私には到底理解できるはずがなかった。

 歩き終えてみると、今までの人生と同じで道中いろいろあったが、不思議に苦労したことは思い出さずに楽しいことばかりを思い出す。石碑やめずらしいものがあれば足を止め、すばらしい景観があればいつまでも眺め、土地の人がいれば話しを聞き、へんろ仲間と会えば楽しく語りながら歩いた。四国の風とお接待に心和まされて歩いた楽しい旅だった。
 そして、早春から陽春へと移り変わる季節を感じながら、四国の自然、青い空や青い海、花いっぱいの緑の大地との対話を、また自分との対話を楽しみながら歩いていると、少しも寂しさを感じることはなく、ひとりで歩くことも少しも苦にならなかった。

 しかしさすがに42日間、休まずに通しで歩いた1270キロはきつかった。距離からすれば新幹線で東京から博多を経て佐賀までを、富士山を1つ半ぐらい登りおりしながら歩いたことになる。最後の霊山寺に着くまでは、心と体は常に緊張していて不安が消えることのない旅だった。
 そのつらい苦しい時に歩く元気や勇気をくれたのは、「おはようございます」や「お遍路さん、がんばって」の一言であり、またへんろ道に満ち溢れている四国の人たちのお遍路さんへのあたたかい心遣いだった。

 人は誰でも、人にやさしく親切にしたいという気持ちを持っている。その親切に触れ、私も素直な気持ちになって歩いていた。「おはようございます」に始まるあいさつや「ありがとうございます」の感謝の気持ちはコミュニケーションの原点であり社会生活で一番大切な心得だと思う。
 今夏のオリンピックはすごかった。選手たちの大活躍に感動したが、それ以上に強く印象に残ったのは、メダルを獲得した選手たちが、両親をはじめ、支えてくれたコーチや地元の人たちへの感謝の気持ち忘れずに、謙虚にインタビューに応えていたことで、見ていて気持ちよく本当にうれしかった。

 この何十年か、我々は豊かさを求め、豊かさを手にしたが、その反面失ったものも多い。
四国を歩き、オリンピックを見て、日本もまだまだ見捨てたものではないと思う反面、次の世代を考えると、自然保護、家庭のしつけや学校教育、そして地域社会の交流の大切さをあらためて強く感じた。
 
 最後に、10月20日、今年10個目の上陸台風23号が土佐清水市付近に上陸し、また日本列島を縦断した。今年は初夏から深秋まで例年の4倍近い数で、しかもいずれもが大型台風で全国に大きな被害をもたらした。
 とりわけ四国四県はほとんどの台風をまともに受け、各地を襲った猛烈な雨と風が、濁流や土砂、高波が次々にその地で暮らす人々の生活を奪い尊い命をのみ込んだ。自然の強さ・自然の怖さ、またこの地に生まれこれからも住み続ける人たちのご苦労をあらためて思い知らされた。

ご冥福と1日も早い復旧を心から祈念申しあげます。   合掌
                                            2004年12月
                                                              
                                          

お読みいただきありがとうございました。
勤めを終えて2年、遅ればせながら地域の活動に参加、
世田谷の自然を守るボランテアを始めた今日この頃です。
                                           2006年4月
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