高島靖男のインド日記
1月23日(土) カレー伝説(3)
  またインドに話を戻そう。日本にはインスタントのカレー食品があふれている。「本場インドではどうか?」という疑問に今回はお答えしようと思う。
インスタント食品(写真をクリックするとスライドショウ)
実はたくさん、レトルト・カレー<注1>がある。カレーに限らずたくさんの食品のインスタントものもある。スーパーの内部は写真撮影が禁止されているので内部をお見せできないのが残念である。
  11億人が毎日、「いわゆるカレー」を少なくとも1日1回は口にするインド。しかし、国中どこを探しても、日本にあるような「カレールー」のようなものは存在しない。
  代わりに各家庭の台所やレストランの厨房には、何種類ものペッパー、それと色とりどりのスパイスを種類ごとに保存するための「スパイスボックス」と呼ばれる調味料入れが必ず用意されている。
インドレストランのカレー
インドでは基本的にカレーを作り置きしない。
  「カレーは毎食毎に作り、熱いうちに全部食べる。それが正しいインドの食文化なのだ」と、ヒテーシュさんは教えてくれた。 こうしたインドの「正しいカレー(変な表現ではあるが)」は、毎日の食事の中で、母から娘に代々引き継がれ、それぞれの家庭独自のレシピをもとに作られてきた。
  しかし今、このインド伝統は「お袋の味」の存在を揺るがすものが、都市部を中心に大流行している。それは偉大な日本の発明品「レトルトカレー」である。
  IT産業のメッカであるバンガロール<注2>に、「レトルトカレー」最大手のMTR社<注3>がある。アイスクリームなどの加工食品で急成長したこの会社は、2000年にレトルトカレーの生産を始めた。ちょうどIT産業に火がつき始め、インドの経済成長が注目され始めた時期と重なる。
  「国内シェアは約80%。毎年20%の勢いで売上を伸ばしている」と営業部門の責任者は自信たっぷりに話している。「ピュア・ベジタリアン」。つまり、一切肉や野菜を使わないこの会社のレトルトカレーは、野菜や豆、それにパニールというカッテージチーズに似たインド産のチーズが入ったものばかりだが、その種類は40ほどになる。
MTR社レトルトカレー(写真をクリックするとスライドショウ)
このレトルトカレーの値段だが、このメーカーのものはおおむね30ルピー(約60円)から100ルピー(約200円)。庶民に親しまれる町の食堂でカレーを食べると、せいぜい50ルピー(約100円)も出せば胃袋が満たされるほどの物価の安いインドでは、かなりの高級品と言える。以前にもご紹介したが私のランチは25ルピー(約50円)である。これと比べてもいかに高いか、おわかりいただけると思う。
  それでも、飛ぶように売れている、というのが現状である。インドではこのメーカーのほかに数社がレトルトカレーを生産しているが、中には有名ホテルのシェフのレシピで作った高級インドカレーのレトルトというものがあり、種類は年々増えている。
  決して安い値段とは言えないにもかかわらず、このレトルトカレーがヒットする背景にあるのは、インド女性の社会進出と言える。年8%を超える経済成長を続けるインドで、女性の社会進出は加速度的に進んでいる。
  女性が仕事を持ち、共稼ぎで財を築いてインディアン・ドリームを叶える。大きな都市であればあるほど、こうした傾向は強い。
  私の勤務するユニカイハツに勤めるKさん(女性)もその一人だ。ご主人も別の会社でITエンジニアとして働いているが、KさんもITエンジニアである。自宅を毎朝7時には出る。帰宅は9時ごろというKさんに料理をしている時間はほとんどない。彼女の家では1週間のうち3回は夕食にレトルトのカレーが並ぶそうだ。
「インド人にとって、カレーはなくてはならないものです。だから、短時間で用意ができるレトルトカレーは本当に重宝しています。働く女性にとって、これが最善のオプションです。味も何種類もあって飽きないし、夫もレトルトカレーが大好きなんです」とKさんは話してくれた。
一方、アニタさんにも同じ質問をしてみた。「出来る限り手作りしたいのでレトルトカレーを使うことはしません」と答えてくれた。「時間があれば手作りしたい」、それも本音であろう。私もインドに来る前にはインドにレトルトカレーがあるなんて夢にも思わなかった。ところがスーパーへ行くと、ラーメンをはじめインスタント食品があふれているではないか。
ヒテーシュさん自宅のカレー
  いろいろな意味でインドは変わりつつある、そのことだけは確かなようだ。ただ、日本人の舌に合うか?というと、そうはいかない。やはりインド人にあった味付けである、これはいたしかたない。
  MTR社は日本で「インドレトルトカレー」を通信販売しているので一度試してみてはいかがでしょうか?日本の自宅でインドを味わえるかもしれません。
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