高島克規のインド日記
11月23日(月) 美白ブームとインド美人
  今回はちょっと不謹慎だがインド美人について一考察を行いたい。5月に友人夫妻がムンバイに来られたことは何回もご紹介したが、友人(男性)が一番口にしたことは「女性が太ってる。そして脇腹が服(サリー)からはみ出ている」というものである。
豊満な女性(写真をクリックするとあと二枚あります)
実は私もムンバイに赴任した時から気になっていたが口にするのもはばかれ言うことは出来なかった。実例を見ていただこう。こんな具合である。
  インドでは豊満な女性を美人とする伝統があるそうだ。それは「ちゃんとご飯を食べている、豊かな生活をしている証拠」なんだそうだ。豊満と言っても並みの豊満ではない。太りすぎて贅肉が民族衣装のサリーからはみ出ているのが、最高の美人の証左だった。多くのインド人男性は、豊満な女性と結婚したいと願い、痩せて細い女性には歯牙もかけなかった。
  しかし近年では、インドの都市部では若者を中心に美の基準が変化しつつあり、太った女性よりも痩せた女性が美しいと考える男女が増えている。現在、インドでは経済の自由化を推進しているが、その過程で欧米の文化が急速に流れ込み、マスメディアを通じてスリムな女性を目にしたことで、価値観が変化していったものと思われる。

  また、ミス・コンテストの開催も若い女性のスリムな身体への憧れを醸成するのに一役買っている。
アイシュワリヤ・ラーイ
優勝すると、各種メディアが大々的に取り上げ、その後、一躍スターダムにのし上がることが約束されているからだ。94年のミス・ワールドの優勝者アイシュワリヤ・ラーイ<注1>はモデルから女優に転身し、現在はインドのトップ女優になっている。一方、96年にインドの南部で開催されたミス・ワールドでは「西洋の美」の基準をインドに押しつけるとして、ミス・コンテストの開催に反対するデモや嫌がらせが起こり、焼身自殺する人まで出た。それでも、ミス・コンテストの人気は年々高まっている。
 「美」に関するもう一つの側面である。インド映画を見ていただくとよくわかるのだが、インド映画のヒロインに「色黒」美女はほとんど出てこない。出てくるのは顔立ちこそエキゾチックでも、「色白」の美女ばかり。これは、テレビの普及はまだまだで、映画が第一級の娯楽となっているインドにおいて、彼らが思う「美女像」がストレートに反映されている結果だとみるのが正しいだろう。実は私もインドに行くまでインド映画をみたことがなく、インドのそのような価値観も知らなかった。

ミス・ワールドコンテストの様子

 こんな話がある。とある海辺のレストラン。
インド美人
ある日本人的女性観光客が、日本製の強力日焼け止めをこれでもかと塗り、キャップをかぶって防御していた。すると、レストランの店主がにじりより、「それは何だ!」と聞いてき。「サンスクリーン剤だ。陽射しをブロックして、焼けないようにするのだ」とその女性が答えると、その男はあわててほかの男連中を呼び寄せた。
 そして、「おまえが白いのはそれのおかげか!」。「うん、おそらく」、と答えると、「それはどこで買えるんだ、いくらするんだ!」と質問責め。「何に使うの??」とその観光客がとまどいながら聞くと、「奥さんに!」「彼女に!」「娘に!」と口々に答えたという。
  古代インドの時代、アーリア人という民族が中央アジア方面からインドに侵入してきた。このアーリア人が土着の先民族を支配する過程で作り上げた階級制度が、今日のカースト制度の基礎となる制度である。
インド美人
ヴァルナ制<注2>で上位の身分を独占したのはアーリア人だが、彼らはヨーロッパ人と起源を同じくしており、みな一様に色が白く、彫が深い顔立ちをしていた。  一方、肌の色が浅黒く、平坦な顔立ちをしていた先住民は身分制度で下位の層に位置付けられた。
  そもそもヴァルナという言葉には色という意味が込められているので、肌の色によって身分が決めらたことを暗示している。色白のアーリア人が色黒の先住民を支配する長い歴史のなかで、人々の間に美白願望が芽生えていったと考えられる。
 勿論、カーストの身分は世襲なので、美白したからと言って上位のカーストに移行されるわけではないが、肌の色が少しでも白いほうがより「上流階級」に近づくという強い観念があるようだ。余談だが、デリーに観光に行ってとき、デリーで日本語教師をされている人から聞いた話をご紹介しよう。
 「先生、僕には彼女が出来ないんです。何故なら肌の色が黒いからです」と生徒の一人が言ったそうだ。その先生は「でも人を好きになる、ということは肌の色に関係がないから自信を持ちなさい」と励ました。「でも、本当に肌の黒い人、家族は、肌の黒い人、家族としか結婚していないんですよね」とその先生は説明してくれた。我々日本人にはわからない見えない壁がある。

  カースト制度の残るインド社会では、恋愛や結婚にも制限があり、結婚はたいていの場合、お見合いで決まる。以前にもご紹介したが典型的なパターンは、新聞に求婚広告を出す、というものだ。そして、求婚広告のプロフィールには、色白であるかどうかが必ず記載される。色白であることが、結婚の決め手になることも少なくない。
新聞の求婚広告(写真をクリックすると拡大できます)

  かっては、美白用品の多くは欧米から輸入されていたが、近年ではインド国内でも独自のブランドが次々と立ち上がっている。世界的に有名なインドのブランドとしては「シャナーズ・フセイン<注3>」がある。この会社はデリーに本社があり、ビューティ・サロンなども展開している。美白効果のあるウコンなどを使った自然派化粧品が人気で、値段は高めだが、若いインド人女性から圧倒的な支持を集めている。
  世界中の化粧品が手に入る最近の日本でも、インドのコスメが紹介される機会はまだ多くはない。その中ではハーブを使った基礎化粧品を主力に海外にも進出し、インドのブランドとしては世界的に最も有名な「シャナーズ・フセインShahnaz Husain」(インド現地での発音はシャハナーズ、シャフナーズに近い)は日本でも知られている方だろう。大手デパートにコーナーを出したり、代理店を通じて通信販売、ハーブ美容のエステやカウンセリングを展開している。

  日本人女性だって、胴長短足で和服の似合うという理由で外国人から「美しい!」と褒め讃えられても、「足が長くてスラリとした美女になりたい……」とないものねだりをするのは当然。インドの美意識がどんどん変わっていく、これは当然の流れなのかもしれない。
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