高島靖男のインド日記
2009年1月12日(日) 野良犬と予防接種
 インドに行く前に友人・知人からインドは狂犬病が怖いから絶対予防接種が必要だ、と脅かされた。またインド医療事情に関するホームページに記載されているように、一度は採用のオファーをお断りした経緯がある。

 私は「海外勤務者管理センター」(横浜市)に相談し、腸チフス、A・B型肝炎、破傷風の注射をしてインドに赴任した。そして狂犬病の予防接種は現地でする、ということにした。予防注射は1回だけかと思っていたら大違い。A・B型肝炎、破傷風は3回注射が必要とのことがわかった(腸チフスは1回だけ)。更に、予防注射をしてくれるところが限定されているため、あっちこっちに電話して情報を得ることから始めなければならなかった。

予防接種 証明書
 1回目から2回目の注射までに4週間あける必要があり赴任まで時間がなかったため、同時に注射をしてくれる病院を探すのに苦労した。探し、探して最後にたどり着いたのが元会社のすぐ近く東宝ツインタワーの地下2Fにある「Hクリニック」であった。料金は保険がきかないためとても高額である(インドへの往復航空券が購入できる金額)。そして時間切れで3回目はインドで、ということになった。蛇足だが、予防接種をすると「予防接種記録(VACCINATION RECORD)」という黄色い証明書を発行してくれる。これを見せると世界どこへ行っても、予防接種が簡単に出来る、そうである。へ〜っ、と、しげしげと、その証明書に見入ってしまった。(写真添付)

 最初、オファーをお断りした(理由は狂犬病)時も、ヒテーシュさんから「そんなに心配することはないのですよ。確かに犬は沢山いますが決して危害を加えるなんてことはありません」と説得された。それでも不安で採用が決まった後も「インドに赴任後すぐに予防接種がしたいので病院を紹介してください」、とお願いしたくらいだった。

 そして1回目の日記の冒頭のような場面に遭遇し、これは至急、狂犬病の予防接種が必要と思った。
1回目の日記冒頭の場面を再掲すると;

 高速道路(有料ではない)を下りて、アパートまでの道はとても夜一人では歩く気持ちにならない。朝の3時だというのにリキシャ(タクシーの一種)の運転手がごろごろといる。野良犬もいる、狂犬病?と一瞬、これはとんでもないところに来たと思ってしまった。

 ところが1週間もしないうちにこの恐怖は消えてしまった。私の住んでいるアパートの周りには野良犬がゴロゴロいる。半端な数ではない。群をなしているわけではないが、とにかく見渡すと犬がゴロゴロいるのである。皆、太っていて寝ている。全く動かない。お腹が一杯なのと暑いので動く気持ちにならないのだろう。こんなことは全くガイドブックには書いていない。とても重要なことなのにどうしてこんな情報ギャップが生まれるのだろう。日本人は脅かすのが好きなのか?先日、日本で見かけるように犬に鎖をつけて歩いている人を見かけた。少しインド人も豊かになってペットを飼う人も出てきた、ということか?奇異な感じがする。狂犬病も含めほかの予防注射の3回目はやめることにした。逆にアニタさんに「先生、予防注射はいいのですか?」と聞かれてしまった。

 私の住んでいる近所では朝7時になると必ず犬たちが一斉に吠えだす。時計を見ると必ず7時なのだ。これは不思議と思わざるを得ない。アニタさんに聞いてみた。「うちのアパートの近くの犬は朝7時に必ず吠えるのですが理由があるのでしょうか?」。アニタさん家族は隣のアパートの11階に住んでいるので聞こえないらしい。「聞いたことはないですけど、近所で餌をあげる人がいるんだと思いますよ」との回答であった。
毎日、きちんと餌をもらえるのであれば寝ているだけ、ということも頷ける。ある日、犬の写真を撮ろうとそっと近づいた。完全に寝ていると思っていた犬が近づくと、ピクッ、と起きあがった。目が合った。ただ寝ているだけではなかったのだ。やはり、犬は動物、と改めて思った次第である。望遠レンズのついたカメラが必要かも?

 犬とは関係ないがもう一つ悩ませる問題がある。蚊である。上記ホームページの中でも記述されているように、蚊はマラリア、テング熱を媒介する。これもやたら沢山いる。うかつに窓は開けられない。ところが日中メイドさんが来てくれている時に窓を開けて部屋の掃除をしているのであろう、帰宅すると必ず蚊を見かける。日本から持ってきたべープマットを四六時中つけているが、手足のあちこち刺されている。今のところ発熱などしてはいないがこれも不安と言えば不安である。在インド日本国大使館医務官 松木孝道さんが書かれている「デリー医療案内」の最後の一節を紹介しよう。

     ・・・・インドで健康に生きるのは容易なことではありません・・・・。


まさにその通りである。

 全くの余談であるが、先日、ゴキブリを見つけた。世界中どこにでも生息するのだな、と感心した。サイズが日本のゴキブリより小さく、色もこげ茶色でなく、むしろ茶色に近い。スピードが実に鈍いのだ。ゴキブリを仰向けにひっくり返した。日本のゴキブリであれば、あっと言う間に起き上がり、いなくなる。ところがインドのゴキブリは仰向けになったら、自力では元の態勢に戻れないのである。ところ変われば品変わるではないが、インドのゴキブリはやっぱりインド風にのんびりしているのかもしれない。
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