ドクター塚本  白衣を着ない医者のひとり言
No.97 「サプリ」と「トクホ」
Google検索にキーワードを入力すると関連するページを見ることができます。
Google
WWW を検索 ドクター塚本ページを検索
 
 日本列島すっぽりと猛暑のなか、夕刻の冷たい一杯のビールで生き返ったような快感の味わえるのは幸せです。食欲の衰えがないのは嬉しいことですが、夕食にビール以外にも色んなお酒がなくてはならない毎日です。ときどき少し呑みすぎたと思ったら、必ず「ビタミン剤」を服用するのが習慣になっています。私にとってはお呪いのようなもので、二日酔いに苦しむことがなくなりました。もっとも酒量が昔に比べて格段に落ちているからでしょうが。

幸い常用薬なしに暮らしていましたが、「ノコギリヤシ」エキスを毎日服むようになって2ヶ月になります。忍び寄る前立腺症状が気になり、新聞の一面広告に釣られてネット注文したのです(1か月分1365円)。今のところ効果がない一方、副作用も出ていません。お安いのが取り柄で、もう少し続けてみるつもりです。

ご存じの通り、ビタミン剤は医師の処方箋なしに買える大衆薬(今月からこの業界では国際的に通用する「OTC薬」と呼ぶのだそうです。証券用語が入っていて反って分かり辛いと思うのですが)、別名、一般用医薬品です。ノコギリヤシの方は、医薬品ではなく「ハーブ・サプリ」と呼ばれる「栄養補助食品」なのです。ノコギリヤシを購入する際、にわか勉強したのを機会に、巷に氾濫しているサプリとトクホを解説してみましょう。

 まず、サプリもトクホもいわゆる「健康食品」と呼ばれる「食品」であって、治療や予防に有効な「医薬品」ではないことを認識してかからねばなりません。当然のことながら、その効能を表示することは禁じられています。

元々食品には次の3つの機能があると言われています。

@   生命維持のための「栄養機能」

A   食事を楽しむための「味覚機能」

B  体調のリズム調整や生体防御、疾病予防、などの健康を維持する「生体調節機能」

サプリ(元の英語は「ダイエタリー・サプリメント(栄養補助食品)」)は、この3つ目の生体調節機能に着目して、一般食品よりも健康に良いとして販売される食品群のことを指しています。錠剤やカプセルの形に商品化されているので紛らわしいのですが、割り切って言うなら一般食品と医薬品の中間に位置しているものです。

このサプリのうち、法的に規制されている(食品衛生法、健康増進法など)のが「保健機能食品」で、さらに次の2つに分類されています。

 A 特定保健用食品<個別許可型>(これが「トクホ」です。商品には人形が両手を広げ背伸びしているマークが付いています)

  血圧や便通など特定の保健の目的が期待でき、生理学的機能などに影響を与える物質を含む。有効性や安全性などをヒトで試験し、厚生労働省が審査し、許可を得たもの。7月5日現在、693品目が表示許可を得ています(アエラ臨時増刊、No.35、8/1号)。

 B 栄養機能食品<規格基準型>

  身体の健全な成長、発達、健康の維持に必要な栄養成分の補給・補完を目的とした食品。栄養機能食品として販売するには、国の定めた規格基準に適合する必要がある。

こちらは従来からあったビタミンやミネラルなど「保健薬」として用いられていたものが、「食品」として取り扱えるようになったのです。

ゴチックにしてある上記4つの名称が区別できたら及第点が取れます)

 すでに1997年をピークに、風邪薬、胃腸薬、頭痛薬などの大衆薬は、販売単価の切り下げなどもあって、長期にわたって売上高は低落傾向にありました。政府の医療費抑制政策と連動しながら、国民の根強い健康ブームに乗って、食品、化粧品などのメーカーは、ここぞとばかりサプリ市場に参入し、急成長をしてきました。2010年には3兆円に達するという予測すらあり、まさに「サプリ繚乱」(週刊東洋経済 05年1月15日号)と囃し立てられました。

 その一例をして、資生堂の「コエンザイムQ10(CoQ10)」の盛衰をご紹介しましょう。あのテレビ番組「発掘!あるある大事典U」で、04年9月にCoQ10が取り上げられると、翌日から全国のスーパーやドラッグストアの店頭にはCoQ10配合のサプリが姿を消したのでした。まさにサプリ市場を牽引したヒット商品(資生堂の医薬品事業の売上げが前年比182%という驚異的な数字を記録)で、原料の供給が追いつかないという状態となり、04年は「サプリが市民権を獲得した年」とまで言われました。

 しかし、消費者はそれほど甘くなかったのです。「あるある」の放映から丸一年、CoQ10市場は急激に縮小して、資生堂では06年には売上がピーク時の4分の1になってしまいます。ブームに飛びついた若年層が効果を感じることが出来ず、一斉に引いて行ったことが原因です。

健康食品市場全体をみても、05年まで右肩上がりで成長を続けてきたのに、06年には初のマイナス成長に転落して「試練の年」となったのです(週刊東洋経済 07年5月26日号)。

ここで、トクホを含めてサプリを使用する際の注意点を書いておきます。

第1に、サプリはあくまで食品ですから医薬品と同等の効果を期待しないことです。メーカーがマーケティング力を存分に発揮して繰り広げる、テレビ、新聞雑誌の過大な宣伝に、惑わされない賢い消費者になりたいものです。

第2に、通常の食事で摂取できるものは摂ったうえでの補充策として使います。バランスの取れた食事こそ、本当の「健康食品」だということを忘れないでほしいのです。

第3に、サプリの過剰摂取に十分注意しなければなりません。摂れば摂るほど効果があるというものではありません。いくつかの実例を挙げますと、グァバ茶ポリフェノール入りの飲料をがぶ飲みすると低血糖を起こすし、キシリトールガムの食べすぎは下痢を起こします。大豆イソフラボンは妊婦や胎児に悪影響があります。

さて、私の使っているノコギリヤシはどうでしょうか。前述のトクホや栄養機能食品ではありませんので法的な規制を受けないサプリで、アメリカインディアンが古くから使っていた薬用植物(ハーブ)の一種です。手っ取り早く、使ってみようとするサプリがどんなものか、つまり、主な成分、有効性と安全性、作用メカニズム、科学的根拠、摂取方法、注意事項、総合評価などを調べるのに便利なのは、やや専門的ですが正確性に優れている次の2つがお勧めです。

@    独立行政法人国立健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報

http://hfnet.nih.go.jp/

A    蒲原聖可:「サプリメント事典 第2版」 平凡社 07年2月刊

 ノコギリヤシについて、@には掲載されていませんが、Aではかなり詳細で専門的な記載があり、「総合評価」では有効性が4点評価の4点(適切に利用すれば、十分な効果が期待できる)で、安全性も3点評価の3点(安全性は高い)となっています。というわけで只今使用中です。大きな期待をしていないことはもちろん、年に2回のPSA検査をつづけながら、前立腺の自覚症状がさらに進行したら専門の泌尿器科を受診しようと思っています。皆さんもぜひ、責任のある正確な情報を基にサプリやトクホとお付き合いいただきたいものです。

<参考文献>

 小林修平:サプリメント 身体にいいの 「婦人之友 2006年5月号」

      (2007年8月8日)


ドクター塚本への連絡はここをクリックください。