ドクター塚本 白衣を着ない医者のひとり言 | ||||||
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インフルエンザは感染力が強くて、社会的に大きな影響を与える病気です。新型インフルエンザの脅威も怖さの一つです。 ではどれほど怖いのか、年配者はすぐスペイン風邪を思い浮かべるはずです。しかし、1920年当時と現代とでは国民の栄養状態も衛生環境も大きく変化していることに注目してください。一例として乳児(1歳未満)の死亡率をみますと、当時出生千人 対 165.7だったのですが、現在は、2.8(2005年)でほぼ60分の1にまで減少していますから、医学水準、医療制度も含めた環境変化の大きさがおわかりでしょう。 1994(平成6)年に予防接種法が改正されて、それまで義務だった学童への集団接種が廃止されてから、「インフルエンザは怖い」というマスコミの大合唱が始まったとまで言われています(「医者には聞けないインフルエンザワクチンと薬」、ジャパンマシニスト社 2003年)。ワクチンについてはいずれ時期が来たら解説させていただきますが、一つだけ笑えない話があります。1995(平成7)年1月の阪神大震災のときに、被災地でインフルエンザ大流行の恐れがあるとして、厚生省は1月末から65歳以上の高齢者を対象に、無料で予防接種の実施を決め、当初1万人、さらに追加して17万人分のワクチンを用意したところ、実際に希望した人は僅か2858人でした。市民からワクチンの有効性が信頼されていない証拠です。毎日新聞は、「空回り震災対策、ワクチン17万人分ムダに?」という見出しで報じたのです(母里啓子「知りたいインフルエンザ」ジャパンマシニスト社 1997年)。 では怖くないのかという質問には、インフルエンザが普通の経過をたどれば怖い病気ではないというのが答えです。一般には、前触れもなく突然38度以上の高熱が出て、つづいて関節痛、筋肉痛、全身倦怠、それに呼吸器系統の鼻水、喉の痛み、咳などが主な症状ですが、安静にしていれば3日ほどで症状は収まり、長くかかっても1週間で「自然治癒」します。ここで高熱については、病原体ウイルスに対する患者側の生体防御反応だと考えられています。 つぎのA「インフルエンザ脳症」はなかなか厄介です。わが国では国際的にみて多発していることが特徴ですが、年間200〜300人の患者が発生していました。この数年は、解熱剤のアスピリンや非ステロイド抗炎症鎮痛剤の使用が激減したために減少傾向(100人台)にあります(その1参照)。 Bの肺炎は、インフルエンザが長引いた場合に起こす合併症と考えられます。インフルエンザウイルスによって痛めつけられた呼吸器の細胞に、他の細菌やウイルスが混合感染をおこして重症化するのです。とくに高齢者では、それ以前から罹患していた心臓や肺の病気との合併症として、往々にして死に至ることになり重大事です。 さて臨床現場では、ワクチン接種やタミフル服用によって、脳症あるいは肺炎の合併を予防することができるという証拠はないとしながらも、タミフルが使えるようになってから、インフルエンザで入院する小児患者は減ったとか、インフルエンザに関連して死亡する幼児の人数は減ったとする意見が多数派を占めています(4月29日付朝日新聞)。 最後に、タミフル疑惑について不十分なデータしかないのにその効能を過大評価する一方で、副作用については証明されていないとして「疑わしい」まま漫然と使用をつづけてきた行政の姿勢は、やはり患者無視だと言われても仕方がないと思っています。 |
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