ドクター塚本 白衣を着ない医者のひとり言 | ||||||
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ところが、インフルエンザの治療薬・タミフルを巡る動きはめまぐるしく、疑惑の方は一向に収まりそうにありません。患者はもちろんのこと、医療現場にも大きな混乱を来たしているのです。インフルエンザの経過中に発症する「インフルエンザ脳症」と「薬害タミフル脳症」とをキチンと区別し、科学的にタミフルと異常行動の因果関係を明らかにしてほしいと誰しも願わずにはおれません。 タミフル問題が一躍世間の注目を浴びるようになったのは、3月13日発売の週刊朝日3月23日号に掲載された「スクープ!タミフル異常死と『疑惑のカネ』」(ジャーナリスト・鳥集(とりだまり)徹ら)でした。それ以前には安倍首相、柳沢大臣らの主張する「科学的に証明されていない」の根拠になっていたのは、「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」という研究班報告(班長・横田俊平・横浜市立大教授)です。詳細は割愛しますが、05〜06年の流行時にインフルエンザと確定診断された患者を対象にしてアンケート調査を行い、2548人の患者(保護者)からの回答を分析して、@90%もの患者がタミフルを処方されていた(「タミフル消費大国」)、A異常言動の頻度は10.9%で従来の報告より高い発現頻度であった、Bタミフル使用の有無を比較すると、未使用者10.6%に対して、使用者は11.9%で、統計学的な有意差なしという報告でした。横田班長は、取材に応じてきっぱりと「報告書を『因果関係なし』とする根拠に使ってもらって問題はありません」と言っていたのです(浜理事長の反論は前回をご参照)。 週刊朝日取材班が、横田・調査研究班のメンバーがタミフルを販売している中外製薬から資金を得ていないかどうかを調べたところ、横田教授のほか有力メンバーの一人森島恒雄・岡山大教授にも「奨学寄附金」が渡っていたことが判明したのです。資金をもらったから研究結果が歪められることはないと言うのは建前論ですし、産学協同が推進されている今日、企業からの寄付金を咎められたのでは大学はどうやって資金を集めるのですか、と正直に語って開き直る研究者もいます。しかし資金提供会社の製品を中立公正に裁くことができるだろうかという不信感は拭いきれません。 当然のことですが、記者会見に出席した横田、藤田両教授は、「厚生労働省が研究の必要性を認めながら、費用を調達できなかったことが原因で、研究班を辞めなければいけない理由はない」と話し、同省の対応を厳しく批判しました。 国会でも当然のことながら、野党の医系議員から政府の責任を追及する質問が出ています。そのなかには中外製薬からの資金問題だけでなく、厚生労働省OB(医薬局の安全対策課長や審査管理課長などの役職を歴任)がこの会社に天下っているのではないかとの質問もありましたが、個人情報なので答えられないというそっけない回答でした(週刊朝日4月6日号)。 行政側だけを責めるのは片手落ちだと言われかねません。わが国の研究者サイドの長年にわたる製薬会社とのもたれ合いの体質も大いに反省しなければならないでしょう。 タミフル報道を追っかけていると、3月28日の「m3.com」に「9歳女児が異常行動、インフルエンザ無関係、タミフル服用の影響濃厚」という毎日新聞提供の記事(都立八王子病院小児神経科久保田雅也医長の報告)がありました。要するにインフルエンザではなく、タミフルのために異常行動が起きた疑いが濃厚な症例で、タミフル服用後の異常行動でインフルエンザウイルス不在との検査結果が出たのは初めてなので、重要性が高いという大阪赤十字病院救急部長(小児科)のコメントも添えられていました。 まずは3教授を辞任させた研究班をどう立て直すか、首のすげ替えではすみません。これからが厚生労働省の正念場で、しっかりした研究計画に基づいた調査を一日も早く実施して欲しいものです。その際、感染性疫病から始まった「疫学」の真価が今こそ十分に発揮できるよう期待して止みません。 (2007年4月11日)
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