ドクター塚本  白衣を着ない医者のひとり言
No.82 「メタボリック症候群」(その11)ダイエットに王道なし
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 「メタボ退治」の大合唱のうちに2006年を送り、新年を迎えようとしています。忘年会シーズンにつづく正月休みは、メタボリック症候群の該当者と予備軍にとって一年中でもっとも有難くない季節かもしれません。大方の人が食べすぎ・飲みすぎと運動不足に陥るからです。小太りの長命学提唱者であり、肥満を一方的に悪者扱いすることを苦々しく思っている私も、だからと言って肥満礼賛者ではありません。平生から自分の体重や腹囲を気にしている人のなかには、「一年の計は元旦にあり」で、新年から「ダイエット」を始めようと一念発起している方もおられましょう。ご一緒に正しいダイエットのあり方について考えてみることにしましょう。

 ダイエットdietは、もともと日常的な食事のことですが、いつの間にか治療・体重コントロールのための規定食や食事療法のことを指すようになり、さらに運動療法、行動療法なども加えた総合的な肥満改善策のことを言うようになりました。摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やせばよいことは誰しも知っていることです。「栄養過多と運動不足」がメタボリック症候群の原因ですから、その逆をやればダイエットになるのです。しかし、「ダイエットに王道なし」という名言があるくらいで、そのハウツウは簡単ではありません。

 まず私流のダイエットの基本方針は次のとおりです。

@    スローなダイエットを目指す。体重減少を維持し、リバウンドさせないためには「長期戦」で臨み、短期間の体重増減に一喜一憂しないこと。

A    「単品」ダイエットは成功しない。有名なこんにゃくはもとより、りんご、パイナップル、たまごなど、一食品重視型はバランスのある栄養摂取に反していること。

B    継続可能な無理をしないダイエットを心がける。日常の活動に支障を来たし、仕事に対する意欲・気力の減退を招くようでは意味がないこと。

C    スポーツ・ジムへ通うことだけが運動ではない。毎日の日常生活で上手なカロリー消費に務めること。

D    「飲むだけダイエット」などは論外で、薬剤、サプリメントに頼らないこと。

 要するに、「ダイエット 成功すれば 周りから 病気ですか?と 心配された(森本耕史 日経歌壇05年8月28日)」ということにはならないよう注意したいものです。

 そこで正しいダイエットの具体的なハウツウとして、2つのヒント、T「グラフ化体重日記」と、U「エクササイズガイド・2006」をご紹介することにしましょう。

 グラフ化体重日記は、1988年に大分医科大学・第一内科の坂田利家教授(当時)によって提唱された肥満の行動療法の一種です。肥満している人には、早食い、どか(かため)食い、ヤケ食い、好きなものならいくらでも食べるなど、食行動の「クセ」や、「食べていないのに太る」と感じている人には、実際の食行動との間に「ズレ」がよく見られます。体重をキチンとグラフ化すると、食行動のクセやズレが本人の目に見える形となり、フィードバックして食行動を変容させることができます。坂田教授らは、一日に @起床直後 A朝食直後 B夕食直後 C就寝直前の4回体重測定を行い、4つの測定値を折れ線グラフにして記録する「日記用紙」まで開発されました。ふつう体重は起床時がもっとも低く、夕食後に最高となるとという山型の波形を描きます。長期にわたって記録したグラフのパターンから本人に自らの食行動を認識させて、行動変容に成功すると順調な体重減少が得られるというわけです。

 この手法は次第に普及して、2004年にはNHKの人気番組「ためしてガッテン!」や「暮らしの手帖 13号〜15号」にも紹介されました。名付けて「体重計でダイエット」です。坂田教授の原法そのままでは、忙しい勤務者には一日4回も測定することはとても無理ですし、かえってストレスになりかねません。今では、起床時と就寝時だけなら測定可能なので2回方式がお勧めです。体重計(50g単位で測れるものが望ましいとされていますが、市販されているのは100g単位です)とグラフ用紙さえあれば続けられるのがミソです。これに加えて、横浜市立大学・栃久保修教授は、朝と晩の体重の差を600g以内におさえるよう努力し、少なくとも毎日8000歩以上歩くよう指導しています。暮らしの手帖には4人の5ヶ月にわたる実体験がグラフ入りで報告されています。4人の結論は、「毎日2回測る。それが成功のひけつ」、「毎日少しずつやせる。それが健康のひみつ」でした。肥満でもメタボリック症候群でもない私も実践してみましたが、1日の体重差600gは当初ちょっと厳しいと感じたものの、ゆっくりよく噛む習慣が身について胃が小さくなるのが実感できて、食事の量も少しづつ減り体重も間違いなく減少しました。

次は運動不足解消の目安です。厚生労働省は今年の7月に、1年かけて「健康づくりのための運動基準2006」を策定しました。この基準がこれまでの対策と大きく違っているのは、特別な運動ではなく、日常生活の活動(生活活動と呼んでいます)を増やして目標を達成しようという点です。この基準を広くわかりやすく伝えるために、具体例やアドバイスを盛り込んでまとめたものが「エクササイズ2006」です。

その内容を要約しますと、われわれが体を動かす「身体活動」を、「生活活動」(仕事や家事、通勤、通学、趣味などいわば日常生活の活動です)と「運動」(体力を維持・増進させる計画的・意図的に行ういわば運動のための運動です)に2分類したうえで、それぞれの活動量を「エクササイズ(Ex)」という単位で表すことにしてあります。運動生理学では、身体活動の強度を表現するのに座位安静時の何倍のエネルギーを消費するかを示すメッツMET(Metabolic equivalent)という単位を用います。普通歩行20分が3メッツというのは、座位安静時(1メッツ)の3倍のエネルギー消費をするということです。ガイドラインには、3メッツに相当する1Ex以上の活動が例示してあります。詳細は、厚生労働省ホームページを見ていただくとして、その一部を表示すると次のとおりです。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/index.html

       1エクササイズの身体活動の例

  生活活動                運動

普通歩行      20分     軽い筋力トレーニング  20分

掃除機をかける   17分     バレーボール      20分

床みがき      16分     ゴルフ         18分

速歩        15分     水中運動、卓球     15分

自転車に乗る    15分     バレエ         13分

このようにExを単位にして、1週間に「23Exの生活活動」を行うのが生活習慣病予防に必要な活動量の目安です。1週間で23Exですから、1日では3Ex程度ということなりますので、それほど難しい目標ではないでしょう。さらに、23Exのうち、4Exを「運動」で実行するとより効果的だとしています。また、続けるためには「自分の生活スタイル」に合わせて柔軟に、小刻みに僅かな空いた時間の「ちょいスポ」のすすめもしています。

 以上2つをヒントにしていただいて、自分なりの健康、自分らしい美しさ、暮らし方が見つかるよう、自分流のダイエットを始めてはいかがでしょうか。

<参考文献>

 坂田利家編集:「肥満症治療マニュアル」、医歯薬出版(株)1996年

「暮らしの手帖」15号「体重計でダイエット」2005年4月

今年一年、「白衣を着ない医者のひとり」とお付き合いいただき有難うございました。どうぞ輝かしい良い新年をお迎えくださるよう心からお祈り申し上げます。

                     (2006年12月20日)


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