ドクター塚本 白衣を着ない医者のひとり言 | ||||||
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彼は東京医科歯科大学の学生時代、「大学中心の医療」に疑問を持ち、全共闘の活動家になりましたが、卒業(1974年)後、同級生からは「都落ちはするな」と言われたのですが、「田舎医者」を目指して「信州の小さな病院」の臨床医になられます。この諏訪中央病院を拠点にして以後30年間、地域住民と一緒に歩む「地域医療」に携われます。今では長野県をあたたかい在宅医療、ピンピンコロリPPKの長寿県に仕立て上げた功労者のお一人でもあります。 どうやら「ひとり言」子が尊敬している医者の一人のようですが、一体メタボリック症候群とどういう関わりがあるのですかと質問されそうです。実は大ありなのです。先月末に出版された彼の新著「ちょい太でだいじょうぶ ―メタボリックシンドロームにならないコツ―」(集英社 2006年9月)の内容が、自ら元祖を任じている私の考えと一致しているからというのがお答えです。もちろん鎌田先生は私のことなどまったくご存知ないはずですが。 鎌田先生は「デブ」だと夫人にからかわれたのが発端(一時は身長・170cm、体重・80kg、BMI・27.7でした)となり、自らを実験台にして若々しく、健康で長生きすることに挑戦されます。多くの医学文献を渉猟し、専門家の門を叩いて教えを乞い、地域の元気に活躍している高齢者にも面接されます。その結果、「ちょい太」でもだいじょうぶだということが分かったというのです。 その根拠は、前回もご紹介した津金昌一郎らの「厚生労働省研究班による多目的コホート研究」や、磯博康らによる茨城県在住の健診受診者を対象にしたBMI別死亡率調査の結果に基づいています。やせや「おお太」、「太々」よりも「ちょい太」の方が死亡率良好(低い)だったという事実を、彼一流の日本語の表現力にものを言わせて「ちょっとだけ小太りで元気に長生き」と結論付けています。ちょっと太っていることは免疫力を高め、感染症にも強くなり、がんに罹り難い体にしてくれるし、エネルギー消費の大きい脳の機能を働かせるのにもよいのだと説明しています。 彼は体重を落とすための鎌田流「トマト寒天」や、運動継続のための「がんばらない筋トレ」を創意工夫するほか、毎朝パンツ一丁の体重測定、ちょっと息が切れるくらいのインターバル速歩などを実践されます。その結果、現在では72kg、BMI・24.9と肥満ぎりぎりの一歩手前になっているそうです。 さて問題のメタボリック症候群について、彼はその考え方はもちろん、「診断基準」についてもすなおに全面的に受け入れ、「運動不足症候群」だと解説しています。そしてメタボリック症候群がヒトの動脈硬化を進行させる重要な要因であることを認めながら、興味深いことに、彼が30年も前に地域住民と一緒になって展開した「健康づくり運動」から編み出した標語「七悪三善一コウモリ」がメタボリック症候群の予防そのものに役立つと喝破しておられます。 血管を若々しく保つために悪いこと、善いことを整理したのが次の「七悪三善一コウモリ」です。 血管をダメにする七悪とは @ 肥満 A高血圧 Bストレス C高脂血症 Dタバコ E糖尿病 F高尿酸血症 血管を若返らす三善とは @ 運動 Aニコニコしていること B食物繊維の多い食事をとること 一コウモリとは @ アルコール ここで七悪も三善も何の説明も要りません。コウモリは羽があって鳥のように飛べますが、れっきとした哺乳類です。これをもじってアルコール(少量)の血管拡張による降圧作用やストレス解消の効用がある反面、飲みすぎると交感神経の緊張によって血管を傷めるので、悪にも善にもどちらにも作用すると言う意味です。 どうやら、医学研究の進歩によってメタボリック症候群などと空恐ろしい病名がつけられているのに、その予防法は、ずっと昔に彼がなさった地域に根を下ろした健康づくり運動によってすでに解決済みだったというのです。理論派というよりは、現実主義の行動派だと言ってもよい鎌田先生の真骨頂を物語っているように思います。 もう一つ、鎌田先生も委員の一人となられた国民健康保険中央会の「活動的余命を高める方策に関する研究会」(委員長・水野肇 1998年)の調査でわかった、「元気で長生き」のコツもご紹介しておきましょう。この調査は全国の80〜85歳の健康な高齢者3159人に、保健師が面接して聞き取り調査を行ったものです。その内容は、家族構成、住居の状況、食生活、仕事、生活態度、生活行動、社会関係・交友関係、今後の生活への意欲・希望など幅広く多岐にわたっています。 その結果、健康なお年寄りに共通している次の7つの要素が判明しました。
いずれも健康とのつながりが深いと昔から考えられてきたものばかりではありませんか。このような要素を習慣として身につけていたからこそ、「健康長寿」者なのです。 ここまでお読みいただいたら、私が言いたいこと自ずとお分かりになるでしょう。鎌田先生ご自身、優れた内科医であるにも拘わらず、メタボリック症候群に対して薬剤治療をすべきだとはひと言も仰っていません。 メタボリック症候群には、おくすりが全くといってよいほど不必要だということを強く申し上げて結論といたします。 <参考文献> 「命があぶない医療があぶない」、医歯薬出版(株)(2001年2月) 「病院なんか嫌いだ「良医」にめぐりあうための10箇条」集英社新書(2003年10月) (2006年10月4日)
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