ドクター塚本 白衣を着ない医者のひとり言 | ||||||
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PSAとは、Prostate Specific Antigen(前立腺特異抗原)の頭文字をとったものです。現在血液検査だけでがんの可能性が診断できるのは、前立腺がんと白血病の二つだけと言われているくらいで、なかなかのスグレモノです。しかし「前立腺」特異抗原であって、「前立腺がん」特異抗原ではないということに注意して付合っていくことが大事です。 まずPSAは前立腺の腺細胞で生産される分子量約3万の糖タンパク質で、タンパク分解酵素という生理作用をもつ物質です。当然のことながら男性の機能である射精の際の精液中に含まれています。短絡して言うと、精液中の精子の運動性を高める働きになくてはならぬタンパク分解酵素が、PSAの本体であると考えられています。 1 基準値以内: 4.0ng/ml以下 2 軽度上昇: 4.1〜10.0ng/ml 3 中等度上昇: 10.1〜20.0ng/ml 4 高度上昇: 20.1ng/ml以上 このうち特に2を「グレーゾーン」と呼び、集団検診を受けた人の約5%がこれに該当します。なぜグレーかといいますと、このうち生検をしてがんと確定するのは、15〜30%です(垣添忠生)から、つまり70〜85%もの人はがんではなく、とりあえず無罪放免ということになります。PSA値の上昇につれてがんの発見率は高くなるのは当然で、中等度では40〜50%、高度上昇では80%にがんが発見されます。 現在の診断学では、PSA値だけで前立腺がんの最終診断はできません。PSAが高値を示す原因が何かを特定するには、生検(バイオプシー)、つまり前立腺に針を刺して組織を採取し、顕微鏡による病理検査をするしかないのです。 PSA検査の出現までは、泌尿器科の名医による「ゴールド・フィンガー」とまで言われた指検査や、経腹部超音波、経直腸超音波、さらにCT、MRI、PETなどの画像診断に頼らなければならなかったのですから、症状が顕著でない初期の前立腺がん発見に大きな貢献をしたことは見逃せません。 同時に良いことづくめではなく、結果論的に膨大な数の不必要な生検が行われることになります。感度は抜群ながら、特異度は低いという泣き所があるからです。当面の課題となっているPSA値に基づく「陰性生検」を減らすために、いろいろな工夫がなされています。言い換えますと、無駄な生検をできるだけ避けながら、しかもがんの見逃しをいかに減らすか、という特異度アップ対策が必要になりますが、その一端をご紹介しておきましょう。 @ 年齢別PSA基準値 PSA値は年齢とともに上昇することがわかっていますので、年齢無視の一律な基準値を年齢階級別に改めようとする試みで、次のとおりです(単位はタンデム‐R法でng/ml、以下同じ)。 40歳代:2.5 50歳代:3.5 60歳代:4.5 70歳代:6.5 ご覧のとおり、若年層では早期がんの検出を増加させ、高齢層においては不必要な生検を減らすことができます。 A PSAヴェロシティ(速度) PSAを毎年測定していて、たとえば、5.0であっても安定していたり、時には4.0以下に低下したりする人はがんの可能性は低いのです。一方、1.5から、3.0、6.0といったふうに年々数値が上昇しているときにはがんの疑いがありますので、生検の必要があります。変動幅については一応の目安として、1年当たり、0.75(2年間で1.5)が採用されています。 B PSAデンシティD(密度) 経直腸的超音波検査によって、前立腺の体積(ミリリットル)を測定しておき、PSA値をこれで割り算して、単位体積あたりの数値(密度になります)で判定しようとするものです。このPSAD値が0.15を超えるとがんの存在が疑われることになります(日本人では0.2以上を目安とすべき、という意見もあります)。 以上の他にもまだまだ特異度をあげる手法があり、専門医はこれらの数値を操作して、生検前に出来得る限り不必要な生検を避けようとしていますが、いずれも決定的でないというのが現状のようです。 またPSA検査は、治療後の経過観察中がん再発の可能性を探るのにも有力な検査法です。感度が極めて良好という特色が生かせるからです。 いずれにせよ1975年にアメリカで開発されたPSA検査は、今日では前立腺がんの診断・治療に不可欠の検査法になり、あっという間に全世界を席捲してしまったのです。 しかしPSA値について、生検を受けるか否かの「カットオフ値」を何処におくかは、今なお議論百出で、泌尿器科の専門雑誌の誌面を賑わしているようです。繰り返して指摘しているとおり、PSAの前立腺がんに対する特異度が劣っていること、前立腺がんそのものが高分化がんが多く、潜在がんとか偶発がんとして発見される頻度の高い「スローがん」の代表だという特徴を無視できないからです。 前立腺がんの治療どころか、まず確定診断を受ける検査の段階で、専門医である主治医から充分な説明とアドバイスをもらった上で、自覚症や生活の質を勘案しながら、患者自らが「自己決定」を迫られる場面が多くなっています。とは申せ、私自身は世界的な潮流に逆らうこともできず、何はともあれ今年も年一回のPSA検査を受けて数値を見守ってゆくつもりでおります。 <参考文献> (2006年5月3日) |
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