ドクター塚本  白衣を着ない医者のひとり言
No.57 高血圧治療ガイドラインを読み解く(その7)薬を使わず高血圧を治そう
Google検索にキーワードを入力すると関連するページを見ることができます。
Google
WWW を検索 ドクター塚本ページを検索
 
 寒さが厳しくなると血圧にご用心!というのが常識になっています。血圧に季節変動があるのは昔からよく知られていたからです。最近では、白衣高血圧、逆白衣高血圧、早朝高血圧、さらに職場高血圧等々、新しい名称の高血圧が知られるようになったのは、家庭血圧計の普及や24時間連続測定が可能になったおかげです。

 運動時はもちろん、緊張やストレスでも血圧が上昇するので、何よりもまず、血圧は変動するもの、動揺するものという理解が大切です。外敵の恐怖に迅速に対処して直ちに攻撃したり逃げたりするために、ヒトの進化とともにDNAに刷り込まれた仕組みが出来上がり、現代人として生き延びているとも言えます。

 といっても血圧上昇の本当のメカニズムがきちんと解明されたわけではなく、例の「本態性」高血圧が全体の98%(桑島巌)までを占めているのです。

また自覚症状がほとんどないことも高血圧の特徴です。高血圧が年齢とともに長く続くと、全身の、とくに脳、心、腎の動脈硬化が進展して、重大な臓器障害を引き起こすのが怖いのです。まさにサイレント・キラーの名にふさわしく、ヒトは血管とともに老いると言われる所以です。

 血圧は低い方がよい、The lower, the better というのは一面の真理です。血圧が正常範囲内の人、自覚症状のない血圧の低い人はよいのですが、高いと言われる人は困ってしまいます。しかし、たとえば風邪をひいて受診した際に、一度計った血圧が高いからといって、直ちに降圧剤を処方して治療を開始するような医者はいないはずです。風邪がなおってからも、二度三度と測定して常に血圧が高い場合に初めて高血圧治療が始まります。といっても、いきなり降圧剤を処方して短絡的に治療に入る医者はお勧めできません。まずは薬を使わないで、高血圧を治そうというが治療の第一歩なのです。

 24時間連続測定血圧計が普及してすでに10年以上になり、血圧変動を初めいろいろな知見が明らかになったことは前にもお話しました。この連続携帯型血圧計を24時間、365日、肌身離さず装着して血圧を測り続け、血圧の謎に挑戦している医者がおられます。何と今年(2005年)で18年間も測り続け、世界記録更新中のギネスブックものですが、早稲田大学スポーツ科学部・客員教授、東京女子医大・内科講師の渡辺尚彦先生です。1952年生れで35歳から50歳代半ばに入りこれからも続くので、自らの身体を実験台に使っておられる先生の研究者魂には頭が下がります。

 渡辺先生は、循環器内科の専門医ですが、中でも高血圧の非薬物療法の専門家つまり、「薬を飲まないで高血圧を治そう」という医者代表と申しあげてよいでしょう。こんな医者ばかりなら収入減になって開業医として成り立たないのではと心配なさる前に、誰にでもできる「渡辺式血圧を下げる7か条」をご披露いたしましょう。

 血圧低下「け・つ・あ・つ・て・い・か」の7文字を頭文字にした「渡辺式」7か条は次のとおりです。

 「け」 決してタバコは吸いません

 「つ」 強い血管を作りましょう

 「あ」 熱いお風呂は入りません、寒い思いはいたしません

 「つ」 つねに気分をリラックス

 「て」 適度な塩分、たっぷり野菜

 「い」 いつでも歩いて出かけましょう

 「か」 快眠・快便・腹八分

 日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2004」(JHS2004)に記載されている「生活習慣の修正」の各項目が、ここには一応網羅されています。しかし適正体重の維持(減量)とアルコール制限(節酒)が抜けているのではと思われたかも知れません。先生ご自身の体重やお酒の習慣を知らないので私の類推に過ぎないのですが、体重は腹八分と歩きでコントロールし、アルコールはストレス対策に欠かせないものとしてわざわざ挙げておられないのでしょう。

渡辺式では、日常生活のなかで気分や筋肉をリラックスさせるコツを会得するよう、腹式呼吸法や「自律訓練法」を推奨していることが特徴になっています。ともに自律神経の安定を目指して、交感神経の緊張を解きほぐすことを主眼としています。すなわち、腹式呼吸は全身の力を抜いて仰向けになり、お腹に手を当てて深呼吸の息がよく分るように訓練します。自律訓練法は一種の自己催眠法なのですが、素人が一人でやるにはちょっと難し過ぎるので専門のスタッフの指導を必要とするでしょう。

 渡辺式でも一日二日ですぐに血圧が下がるものではなく、最低3か月くらい継続しなくてはなりません。そんな面倒なことはできないから薬に頼ろうというのは、金儲け主義の医者を増やすことに加担していることになります。

 では、すでに降圧剤の内服を始めている方、しかも薬は一生涯続けなければならないと宣告されている高血圧患者はどうすべきでしょう。

 信頼する主治医を持つことと家庭血圧計が手元にあることが前提になりますが、医者の言いなりの、医者にとっての優等生患者になる必要はありません。患者自身も病気のこと勉強して、賢い個性派の患者になることをお勧めします。

 家庭血圧計があるからといって、一日に何十回も測定する血圧の測り過ぎ、いわゆる「血圧不安症」になってもいけません。一日に朝と就寝前の2回が望ましいようです。朝は一日のうちでもっとも血圧が高い時間帯ですから、ここで下がっていれば他の時間でも下がっていることが多いので、朝の測定は重要です。今では、薬効の長時間持続というのがウリの降圧剤が主体になっていますので、朝、服薬前に測定するのがよいのです。

 次に、医者からもらった降圧剤の種類はぜひ知ったうえで服用して下さい。薬には副作用が付き物だからです。血圧は下がったが、副作用のために生活の質QOLを落としてしまっては意味がありません。

 JHS2004の推奨する降圧剤の主な副作用を紹介しておきますと次のとおりです。

 カルシウム拮抗薬: 顔のほてり、むくみ、動悸、うつ様症状(身体のだるさ)

 AU受容体拮抗薬: めまい     ACE阻害薬:  空せき、めまい

 α遮断薬:立ちくらみ、めまい、動悸     β遮断薬: 徐脈、喘息

 利尿薬: 血糖値や尿酸値の上昇、低カリウム血症

 また、カルシウム拮抗薬は、グレープフルーツジュースと相互作用を起こして、急激に血圧低下をもたらすことが分っていますし、利尿薬の場合、夏場に脱水症状で体調不良になることがあって要注意です。

 もう一つ、降圧剤は一生涯服用すべきかという問題があります。家庭血圧計の普及により、今日では個々の患者の長期にわたる血圧水準をみて、休薬をするか、薬物療法を中止することもできるようになりました。信頼できる主治医にご自分の血圧記録を提示してご相談なさることがぜひ必要です。

 最後に、白衣を着ない医者が、最寄りの図書館で閲覧したたくさんの「血圧本」の中から、独断と偏見によって、高血圧患者にとって一番役に立ちそうな本を2冊だけご紹介します。臨床医ではない私の力不足と、舌足らず説明を補うにはぜひ参考にしていただきたいと思います。

<参考文献>

渡辺尚彦:ホーム・メディカビジュアルブック「血圧を下げる」(小学館 2005年)
桑島 巌:「新編 高血圧の生活ガイド」(医歯薬出版 2002年)

                                           (2005年12月7日)

ドクター塚本への連絡はここをクリックください。