ドクター塚本 白衣を着ない医者のひとり言 | ||||||
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柴田先生は、昨年4月からスタートした日本で初の包括的な学際的老年学の大学院(修士課程)教授です。それまでは東京都老人総合研究所(都老研)副所長・疫学部長を務めておられ、老年医学一筋に研究された権威のお一人です。 私が1985年に「明治生命標準体重表」を公表し、ちょっと太めが長寿の秘訣などとマスコミに取り上げられた際、いち早くこの考え方に賛同して、ご自身の論文や著書で紹介していただいたというご縁があります。 柴田先生らは1970年代の養護老人ホーム居住の老人を健康診査して5年半の追跡調査を行った結果、最も痩せている人の死亡率が一番高かったことが判明し、その後の都老研が行った小金井市の70歳住民の10年間にわたる追跡調査(有名な「小金井研究」のことです。)でも、同様の結果が出ました。 昔からの鶴のように痩せた仙人という固定観念から、当時は老人にとっても「痩せ信奉」が常識だったのを覆すことになったからです。 さて、世界一の長寿国日本の老人が、昔と比べて元気になったのかどうか、年代別に、同一年令の対象集団を揃えて同じ測定法で厳密に比較することは実はそれほど簡単ではないのです。 東京都福祉局の調査によると、65歳以上の「寝たきり」の有症率は、1980年から1995年までの5年ごとのトレンドをみると確実に下がっていますし、痴呆の有病率も同じ傾向にあります。この事実は裏返して言うなら老人は元気になっていると言えないことはありません。 世界保健機関(WHO)は1984年に、「高齢者の健康は生活機能における自立にある」という提案をしました。健康の指標を死亡率(余命)や罹患率から生活機能にしたことは健康科学の歴史上、まさにコペルニクス的転回だったと柴田先生は言います。 一般の医師は、病気(異常)や障害の診断には熱心で、病気、障害がないことイコール健康という「引き算」による健康の定義、あるいは健康へのネガティブなアプローチがお得意のはずです。 そこで、柴田先生ら都老研のグループは、高齢者の健康度を測定する尺度として、独自に13項目からなる次の質問表を開発しました。
「老研式活動能力指標」 〔以下の質問に「はい」と答えた回答に対し各1点を与えます。その合計得点(13点が満点)を生活機能得点と呼びます〕 1) バスや電車を使って一人で外出できますか 2) 日用品の買物ができますか 3) 自分で食事の用意ができますか 4) 請求書の支払いができますか 5) 銀行預金・郵便貯金の出し入れが自分でできますか 6) 年金などの書類が書けますか 7) 新聞を読んでいますか 8) 本や雑誌を読んでいますか 9) 健康についての記事や番組に関心がありますか 10)友だちの家を訪ねることがありますか 11)家族や友だちの相談にのることがありますか 12)病人を見舞うことができますか 13)若い人に自分から話しかけることがありますか 皆さんは何点取れましたでしょうか。恐らく満点だったのではないでしょうか。 柴田先生らによる65歳以上の在宅老人の調査(全国サンプル)では、平均生活機能得点は、男性が11.0、女性はやや低くて10.6、年齢別には当然65〜69歳の11.8から85歳以上の8.7まで(男性)、同じく11.8から8.0まで(女性)と順次低くなります。一方、1項目でもできないと回答した人を合計するとほぼ2割になり、柴田先生の言う8割以上の老人は自立しているとの根拠になっています。 年代的にみると、1990年と2000年の10年間に生活機能得点は男女ともに明らかに高くなっています。一見何でもないこのような指標を使うことによって、WHOの提唱する高齢者の健康が測定できて、いまの老人が元気かどうかを実証することが可能になります。 さらに小金井研究では、高齢者の余命や生活機能ときわめて関連性の高い血中アルブミンが、年代とともに上昇していることも分っていますので、やはり元気になっていると結論付けています。 老人イコール障害者、介護を要する弱者という画一的なイメージ、短絡して言うなら高齢者差別(エイジズム)を打破するための突破口として、柴田先生らは冒頭ご紹介した大学院を設立し「老年学」の正しい理解や普及に尽力されています。 明治生命体重表以来、ご縁の深い先生に肩入れしないではおられません。 (2003年9月13日) |
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