ドクター塚本  白衣を着ない医者のひとり言
No.23 コレステロールと上手に付き合う法(8)
コレステロール低下剤をすすめられたらどうしますか?
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 これまで7回も辛抱してコレステロールと上手に付き合う法を読んできたのに、一向に上手な付き合い方が見えてこないではないか、というご不満の声が聞こえてきそうです。まさに看板に偽りあり、と言われかねません。しかし、アンチョクなハウツウものを期待された向きには申し訳ないのですが、すでにお気付きのとおり、付き合う相手そのものが一筋縄ではなかったというしかありません。

 ヒトの身体になくてはならない重要な物質であるにもかかわらず、悪役にされて四面楚歌の大合唱のさなかにあるコレステロールの分かり難さがあるからです。

 大胆に割り切って申しますと、コレステロール問題の難しさは急性感染症とは異なり、慢性疾患のもつ特性にあります。つまり、慢性疾患は単一の原因によって起こる病気ではなく、いくつもの要因が複雑多岐に絡みあって起こると考えられています。これを病気発症の「複合要因性」と呼んでもよいでしょう。がん、脳血管疾患、心筋梗塞などいわゆる生活習慣病は、いずれもこの特性をもっています。しかも、病気がいろいろな要因の複合で起こるだけでなく、裏返すと一つの要因も多くの病気を引き起こす可能性をもっているのです。

 感染症は、mono-factor mono-diseaseで説明できたのですが、慢性疾患の場合はmulti-factors multi-diseasesの病因論でないと説明ができません。

 現代医学の専門家は発症要因の解明に血道をあげて取り組んでいるのですが、いくつもある要因の優先順位を決定することだけでも簡単ではありません。例えば、加齢を重要な要因の一つに挙げていること自体、その難しさを表していると言えるのではないでしょうか。何故なら、ヒトが年齢を加えていくことは絶対に避けられないのですから。

 そこで、心筋梗塞とコレステロールの関係についてみますと、確かに疫学調査の結果、統計学的にはコレステロール値が上昇すると、心筋梗塞発症の確率は高くなることが実証されています(フラミンガム・スタディはその代表)。私もこの事実を否定することはできません。しかし、コレステロールは心筋梗塞発症の唯一の危険要因ではないことも、しっかり認識しておかねばなりません。コレステロール値が低くても心筋梗塞になる人はいますし、高い人は低い人の何倍も高い心筋梗塞に罹患する確率を有しているものの、高い人が全員心筋梗塞で倒れることもありません。別の例で申しますと、喫煙者の肺がん発症率は文句なく高いのですが、個々のケースでは非喫煙者も肺がんに罹ることがあることからもお分かりでしょう。

 また、日本人の心筋梗塞の発症率は英国のほぼ6分の1、アメリカの4分の1と、欧米に比べると段違いに低いことも忘れてはなりません。それにも拘らず、何故に彼ら以上にコレステロールを悪役にして大騒ぎするのでしょうか。

 実は、このシリーズを書き始めてすぐ、たまたま、私とは同窓・同門(公衆衛生学)の後輩に当たる元・内科医に会う機会とがありました。彼にコレステロール問題のことに水を向けると、「ちょうどよかった。5月には自分の新著『下げたらあかん!コレステロールと血圧』が出版されるから、ぜひ読んでみてください」と言うのです。その人が前回、ご紹介した浜六郎・医薬ビジランスセンター理事長だったのです。一読して、彼の意見に賛成すべき箇所が多いので、コレステロール低下剤について、そのさわりの部分をご披露してこのシリーズを終えることにします。

 「医者はなぜコレステロール低下剤を使いたがるのか」

 健康診断であなたのコレステロールが230ミリだったとします。医師は、「230ミリは高いですね。このまま放置しておくと、動脈硬化になり心臓病や脳卒中になりやすいので危険です。コレステロールを下げるようにしましょう。あなたには年齢という危険因子(男性45歳以上、女性55歳以上、女性のコレステロール値は閉経期を過ぎると急に高くなります)が一つありますから、コレステロール値を220ミリ未満にする必要があります。薬を出しますので飲んでください」と言うでしょう。

 ここでコレステロール低下剤の処方をする医師は、常識はずれの儲け主義の医者ではなく、ほとんどが良心的でまともな医師なのです。私の同級生の内科開業医にも電話で確かめましたところ、権威ある専門家が検討して決めた動脈硬化学会の診療指針(ガイドライン)にしたがっているという答えでした。忙しくて治療法や薬剤の資料を自分で集めて検討する時間的な余裕がないから、というのがその理由でした。したがって、開業医が悪いというのではなく、浜理事長は、動脈硬化学会のガイドラインの方がとんでもない間違った基準だと言っています。

 すでに見てきたように、コレステロール値240〜260ミリの集団の死亡率がもっとも低かった(長生きだった)のに、「健康」で「長生き」であるはずの人が「高脂血症」という病人にされ(健康保険上の病名で)、無駄な薬の処方をされている恐ろしい現実の元凶は、動脈硬化学会だと主張しています。彼はもちろん、週刊朝日も同学会診療・疫学委員長の馬渕宏・金沢大学教授あてに公開質問状を出しているにもかかわらず、回答がないか、「考えの違うメディアの取材には応じられない」という電話回答(週刊朝日)だけというのでは、コレステロール値を気にしている(させられてしまった)大勢のわが国の中高年層にとっては大変、残念なことと言わざるを得ません。

 「医者にコレステロール低下剤をすすめられたら」

 そこで、浜理事長はコレステロール値別にみて、次のようなアドバイスをしています。

1)180〜239ミリの人
  どんな「危険因子」があってもこれまでどおりでよい。

(注:ここで言う危険因子は、動脈硬化学会のガイドライン記載の「冠危険因子」のことですが、A)1.加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、2.高血圧、3.糖尿病、4.喫煙、5.冠動脈疾患の家族歴、6.低HDLコレステロール血症(40ミリ以下)を指し、さらに、B)「高度冠危険因子」は、1.脳梗塞、閉塞性動脈硬化:A)の危険因子4つ分に相当する、2.糖尿病:A)の危険因子3つ分に相当する、を指します)

2)240〜279ミリの人

@ 危険因子が1〜2個で心筋梗塞や狭心症のない人:特段の注意は不要、これまでどおりでよい(食事のバランスに気をつけて)。
A 危険因子が3個以上、あるいはB)の危険因子がある人:たぶん260ミリ未満にしておくほうが安全、Bの注意を参照のこと。
B 心筋梗塞や狭心症のある人:200〜240ミリにする。カロリーオーバーの人は、まず甘いものや主食類(炭水化物)を減らす。食事のバランスは欠かさないように! とくにたんぱく質不足にならないように(魚を中心にして十分なたんぱく質を)。

 

 コレステロール値は決して200ミリ以下にならないように。

3)280ミリ以上の人

@ 危険因子の全くない人は、300ミリ未満に。(260ミリ未満にはならないよう)
A 危険因子が1〜2個なら280ミリ未満に。(240ミリ未満にはならないよう)
B 危険因子が3個以上、あるいはウ)の危険因子があるなら、260ミリ未満に。(220ミリ未満にはならないよう)
C 心筋梗塞や狭心症があるなら、240ミリ未満に。(200ミリ未満にはならないよう)

 

 恐らく、皆さんのアタマにある基準値より、随分寛大になっている感じられることでしょう。しかし、浜理事長の意見に同調する学会もあります。日本人間ドック学会がそれで、同学会が2000年に作成したガイドラインに関与された三井記念病院総合検診センター・山門實所長も、高コレステロール血症のガイドラインは男女で分けるべきだとし、「薬物治療の対象となる閉経後の女性は、280ミリ以上が原則です」(週刊朝日)と言っているくらいです。

 元々、薬大好きである国民性のうえ、毎日、コレステロール不安に怯えているふつうの受診者に対して開業医ができることは、頼りにしている学会のガイドラインどおりの処方をするしかありませんが、このことを誰が責められましょう。

 賢い患者学と言われたり、医者の言うとおりにしない病人の方が予後が良いなどと言われる今日です。素人と専門家のギャップも足早に狭まりつつあるとも言います。本当に賢い患者になるために、辛抱してお読みいただいたコレステロール問題は格好のテーマではなかったでしょうか。

                                           (2004年7月21日)

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