ドクター塚本 白衣を着ない医者のひとり言 | ||||||
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さて、がんの3大治療法が @外科的手術、A 化学(抗がん剤)療法、B 放射線療法であることはよく知られています。今回はこのうちの放射線療法について見直してみようというのがテーマです。 放射線に対するマイナス・イメージ 日本人は、世界で唯一の原子爆弾の被爆体験をもつ国民です。イメージがよいはずがありません。被爆直後の火傷は放射線の直接の影響ではないのですが、あの惨状はいまだに多くの日本人の眼に焼き付いています。数日後から髪の毛が抜け、下痢や出血で死亡したのは放射線に被曝したのが原因ですし、何年も経過したあと、全員ではないのですが、被爆者ががんや白血病を発症すると原爆症の認定を受けています。その後の第五福竜丸乗組員のビキニ環礁での放射線被曝、さらにチェルノブイリでの被害は、ますます放射線のマイナス・イメージを増幅させたのでした。 放射線を照射されても痛くも痒くもないし、現在のがん治療では照射された部分の皮膚の温度は2000分の1度くらいしか上がらないのです(中川恵一・東大病院緩和ケア診療部長)。ということは、放射線がたしかに効いたという実感がないまま治療を受けていることにもなりかねません。もともと日本人には「禊」という感覚があって、治るならキッパリと明確に治りたいと感じる人が多いようです。手術を勧められるとバッサリやって下さいという気持ちになり、効果を体感しにくい放射線はどうしても分が悪いのです。 さらに危険な線量レベルを超えて照射したため、重篤な障害を残すケースが訴訟沙汰になったこともあったのです。いわゆる「過線量」問題ですが、放射線装置の点検不備、専門知識に欠けた担当医など、今日では考えられない原因によるもので、医療側のミスとしか言い様がありません。マスコミで報道されるとますます患者は不信をつのらせてしまったのは大変不幸なことでした。 放射線治療の仕組み このようなマイナス・イメージを払拭しないとがんの放射線治療に将来はないと言えます。そこでまず、放射線によってなぜがん細胞は死滅するのかを考えてみましょう。 一言でいうならば、がん細胞の細胞核のなかにある遺伝子、つまりDNAが放射線によって破壊されるから、がん細胞を死に至らしめるのです。もちろんがんではない正常な細胞にも影響を与えるので、怖がられるのです。 レントゲンがエックス線を発見したのは1895年のことですが、その直後から生体組織への影響について精力的な研究が重ねられ、早くも1906年には「細胞の放射線感受性」の法則の発見がありました。2人の研究者の名前をとって「ベルゴニー・トリボンドーの法則」と呼ばれますが、この法則を基にして今日の放射線治療は発展してきたと言っても過言ではありません。 放射線への感受性が高い細胞は、次の3つの特徴を持っているという画期的な発見だったのです。 @ 分裂頻度の高い細胞 A 将来行う細胞分裂の数が多い細胞 B 形態および機能が未分化な細胞 がん細胞が正常細胞より放射線に対する感受性が高いのは、この法則にぴったり当てはまるからで、がんの放射線治療が有効という根拠となっています。 放射線治療のメリット 先を急いで、現在行われているがんに対する放射線治療のメリットを要約してみると次のとおりです(中川恵一部長による)。 @ がん細胞をピンポイントで攻撃する手法の確立によって治療効果が高くなった。 A 同様にまわりの正常な細胞を傷つける確率が減って、被曝による副作用がたいへん小さくなった。 B 1回の照射時間が5分程度と短く、通院治療が可能で仕事や日常生活を続けながら治療できることが多い。 C 機材が大掛かりなので治療費が高いというイメージがあるが、実際には手術や抗がん剤と比べて格段に安い。 D
がんを完治することができない場合でも、痛みやつらさの緩和に効果が高く、がんの終末期でも生活の質(QOL)を高く保つことができる。 また独協医大・放射線科の名取春彦医師は、外科手術や抗がん剤にはない特徴点をつぎのように上げています。 放射線に対する偏見をぬぐい去り、同時にメリットや特徴点をしっかり理解している賢い患者だけが、自分にとって最良のがん治療を選択できることになるのではないでしょうか。 次回も別の側面から放射線治療に迫ってみます。 (2009年4月8日) |
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