ドクター塚本  白衣を着ない医者のひとり言
No.124 「抗加齢医学」の鍵
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  今年も敬老の日が近づきました。私には初めてのことですが、市長から当日開催の「敬老会」への案内状が送られて来ました。対象者は数え77歳以上の市民です。希望者には「敬老祝い品」が届けられますし、さらに喜寿、米寿、白寿の方々にはそれぞれ「敬老祝い金」が口座振込みされるそうです。すでに「後期高齢者医療制度」に組み込まれていて、紛うことなき老人なので驚くことではありません。それでも、いよいよ正真正銘の老人というレッテルを貼られたかと思うと感慨一入です。

  好奇心から市役所の高齢者支援課に問い合わせますと、対象者数は5,642人(全人口の3.4%)だそうです。会場は文化会館・大ホールで、お決りの式典のほか余興の歌謡ショーもプログラムに入っています。初参加の予定ですが、4人に1人の割合で出席しようものなら、会場は満員となり入場できないかも知れないと心配しているくらいです。

 敬老の日の直前、厚生労働省・老健局から、その年に百歳に到達している百寿者の人口が公表されるのが慣行となっています。今年は9月12日の閣議にかけてから一般に報道される手筈だそうで、これまた野次馬精神旺盛な私にはちょっと焦らされている感じです。

 ついでながら、すでに最新の「平成19年簡易生命表」が公表されています
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life07/index.htmlので、近々ジャスト76歳を迎える私の平均余命や、米寿を迎えることの可能性がどれくらいかを調べてみました。平均余命は10.78年ですので87歳くらいまでは生きられそうですし、米寿までの生存確率は41.2%ということになります(bP0「生命表」(http://meiwakai.org/ikiikijinsei/doctsukamoto10.htm)をご参照)。

 でも自分の体験から、70歳前半に比べると最近では細かい活字が読みづらくなり、若いときにはなかった肩凝りを苦にし、失禁はないものの前立腺症状は着実に進んでいます。さらには転倒の恐れから走れなくなったり、日に日に老化が進行しているのを嫌でも実感させられています。80歳へ向かう坂がきついのです。「若返りたい」とは思いませんが、何とか老化の進行を遅らせるか、そのスピードをゆっくり出来ないものかと真剣に考えています。

 いま「アンチエイジング医学(抗加齢医学)」antiaging medicine がブームになっています。アンチエイジングを看板にした外来やドックも急速に増えている現状です。ただ長生きしたいだけでなく、健やかに老いたいと願うのが人情というものでしょうか。タイミングよく、「文藝春秋9月号」の「名医に問う」シリーズで、「アンチエイジング」を取り上げて解説しています(東嶋和子が聞き手になった堀江重郎・帝京大学泌尿器科教授との50問50答)。

 まず定義ですが、「アンチエイジング医学は、健康長寿を目指す医学です。米国で1992年にアメリカ抗加齢医学会がスタートしており、わが国でも2001年に日本抗加齢医学会が発足しています。すでに現在会員数5500人を超えていますから急成長中の勢いのある学会です。統合医学が特徴ですが、最近の傾向としては、最先端の科学を日常の生活習慣との橋渡しを重視しています」。

 従来から、老化、エイジングの原因とされる学説がいくつもありました。代表的なものは、@テロメア説(染色体の末端にあるテロメアが細胞分裂のたびに短くなり、ついには分裂しなくなることから、テロメアは細胞の寿命を刻む「老化時計」といわれています)、A免疫機能低下説、 B遺伝子修復エラー説(生命の設計図と言われるDNAは損傷を受けやすいのだが、同時に自ら修復機能も持っています。しかし修復される前に細胞分裂が起こると、損傷されたままのDNAが引き継がれて老化の原因となります)、 Cホルモン低下説などでした。現在では、よく耳にする専門用語の D「フリーラジカル説」がもっとも有力で、アンチエイジング医学の鍵とも柱と言われるまでなっています。

 もともと細胞レベルの眼に見えない生化学の世界のお話なのです。これまた、堀江教授の解説を引用しますと、「酸素は化学反応性がそんなに高くはないんですが、電子対がついた酸素を「活性酸素」(オキシラジカル)といいます。酸素のはかにも、OH基であればヒドロキシラジカルなどがありますが、電子対のついたものがフリーラジカルと総称され、DNAやタンパク質、脂質などと反応して変成させます」。

 具体的には「鉄は酸化するとさびますし、リンゴが酸化すると茶色になる。コーラのこげ茶色は糖が酸化したときの色です。同じような酸化が、体内のいろいろな物質でおきる。細胞レベルではDNAに傷をつけたり、エネルギー工場であるミトコンドリアの働きを弱めたりします。結果として、血管内皮細胞や神経細胞が傷ついてNO(一酸化窒素)が出なくなってしまう。これを活性酸素種による酸化ストレスと呼んでいます」。

 「・・・循環器系における情報伝達物質としてのNOを発見したムラド(米)F.Mradらは、1998年にノーベル医学生理学賞をとっています。・・・NOは循環器系では血管を拡げる、血流を増やす、血圧を下げる、動脈硬化を防ぐ。ほかにも気管を弛緩させる、胃壁を守る、腎臓の利尿活動を助ける、腸の運動を調節する、陰茎を勃起させるなどの作用をします。いいかえれば、NOが少なくなることが老化につながる」。つまり、歳をとって出てくるいろいろな病体が、NOの減少で説明できることになります。

 余談ですが、アルコール分解酵素は抗酸化酵素でもあるので、お酒をちょっと飲む人は長生きするし、抗酸化力のせいで加齢臭がしないと言う堀江教授の説には左党の一人として大賛成です。また、EDの特効薬として有名なシルデナフィル(商品名バイアグラ)を定期的に服用すると、酸化ストレスが減少して、男性ホルモンが増えるという意外な作用が分かり、老化を抑えることができると期待が高まっています。副作用も特にないことから、まさに男性にとっての朗報です。まだ未使用の私には話が上手すぎるので、しっかり吟味してからでも遅くはないと思っています。

 一躍有名になった活性酸素、酸化ストレス、NO減少などは、実際、アンチエイジング・ドックなどで、測定可能になっています。「DNA中のグアニンという塩基に活性酸素の作用でOH基がつくと、8−ヒドロキシ・デオキシグアニン(8−OHdG)が生成されます。DNA修復の過程で8− OhdGは細胞外へ排泄されるので、尿、血液や唾液で測れます」。

 その一方で、抗酸化効果のある食品やサプリメントの研究、さらには商品開発も花盛りです。テレビ・コマーシャルでお馴染みになったものも多いはずです。しかし流行に遅れまいとして無批判に摂り込んでよいとは限りません。何よりも細胞レベルで有効だからと言って、ヒトを対象にした科学的な研究の十分な成果の蓄積があるとは言えないのが現状です。ご専門の堀江教授も「おいしいと思って楽しく食べる、これがいちばんのアンチエイジング・メニューです」と言っているくらいです。

 非常にありふれた結論ですが、私自身が日常、自分でできる「ナチュラル・アンチエイジング」こそ、「サクセスフル・エイジング」(成功加齢)の王道ではないでしょうか。 

  (2008年9月10日)                           

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