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平成22年7月19日
古今建物集 …美しい建物を訪ねて…(50)
   
旧宮家の邸宅(その1)
  …竹田宮邸(現:グランドプリンスホテル高輪・貴賓館)…
井出昭一

1.プロローグ
 現在、都内で旧宮家の面影を偲ぶことができる建物は、竹田宮邸(現:グランドプリンスホテル高輪・貴賓館と李王家邸(現:グランドプリンスホテル赤坂・旧館)、朝香宮邸(現:東京都庭園美術館)です。
 このうち朝香宮邸については、すでに「宮様の邸宅…旧朝香宮邸…」(『古今建物集(20)』平成20年1月)で紹介していますので、今回は竹田宮邸を、次回は李王家邸を紹介します。

2.旧宮家の邸宅と“プリンスホテル”
 幕末から明治初期にかけて宮家6家(山階宮家、華頂宮家、北白川家、梨本宮家、久邇宮家、小松宮家)が創設され、その後しばらく間をおいて明治中期以降に7家(賀陽宮家、東伏見宮家、朝香宮家、竹田宮家、東久邇宮家、李王家、李鍵公家)が創設されました。
 戦後、皇籍離脱と財産税対策のために旧宮家はその邸宅を手放し、西武グループの創始者・堤康次郎はこれを次々に購入し、その地にプリンスホテルを建設しました。プリンスホテルの名の起源ともなった最初のホテルは千ヶ滝プリンスホテルです。これは軽井沢の朝香宮別邸跡に建てられましたが、ホテルとしては登録されておらず皇室専用施設のため非公開です。天皇皇后両陛下が1990年8月に静養のため訪れたのを最後に、その後は使用されていないとのことで、その概要は判りません。
 品川にあった北白川宮邸は取り壊されてその跡に、1982年新高輪プリスホテル(2007年1月、グランドプリンスホテル新高輪と改称)が建てられました。
 また、横浜・磯子の東伏見宮別邸は、横浜プリンスホテルの貴賓館となりましたが、2006年6月ホテルは営業を終了しホテル棟本体は取り壊されますが、貴賓館は横浜市の歴史的建造物に指定されているため、保存または移転が検討されています。
3.旧竹田宮邸の由来
 現在の品川駅の西側一帯にあった「高輪南町御用邸」の土地は、明治の元勲・後藤象二郎の邸宅跡で、小松宮、竹田宮、北白川宮、朝香宮、閑院宮、東久邇宮の各宮家が使用していました。明治40年代、明治天皇の皇女が竹田宮、北白川宮、朝香宮の各宮家へ嫁ぎ、そのため新しい邸宅がこの高輪南町の地に建てられました。
 竹田宮恒久王は、北白川宮能久親王の第1王子で、1906年(明治39年)に竹田宮を創設し、1908年(明治41年)に明治天皇の第6皇女・常宮昌子内親王と結婚されました。
 明治44年(1911年)に建てられた竹田宮邸は和館と洋館が並列する形で、完成した当時には、品川の海が一望できたといわれています。北白川邸は、平成2年に取り壊され、その跡地にはグランドプリンスホテル新高輪・国際館パミールが建設されました。この地で唯ひとつ現存する旧宮家の邸宅は竹田宮邸の洋館で、戦後、通商産業大臣公邸を経て、現在はグランドプリンスホテル高輪の貴賓館として結婚式場などに利用されています。
4.角柱と円柱に支えられた車寄せ
 品川駅の高輪口で下車し、目の前の第一京浜国道を横断して、坂道を登って行くとグランドプリンスホテル高輪となります。ホテルへの入口は右側の高い建物、左端の古風な建物が旧竹田宮邸の洋館です。
 建物は地上2階、地下1階、鉄骨補強による木造煉瓦造りで、設計は宮内省内匠頭の片山東熊と木子幸三郎など内匠寮の技師によるもので、片山東熊としては最後の作品となったものです。
 北側正面の外観は左右対称の形で前面に突き出た車寄せはがっしりとした角柱とトスカーナ式の円柱が四隅に配されて重厚感溢れるものです。中央部の高い天然スレート葺きの屋根と丸いドーマー窓が特徴的です。南側の外観は1階が3連のアーチ、2階はイオニア式の4本の列柱が並ぶベランダとなっていて、いかにも明治も洋館らしさを漂わせています。


5.内部装飾は“ミニ東宮御所”
 玄関の床はモザイクタイルで飾られています。これは片山東熊が手掛けた迎賓館赤坂離宮の廊下、東京国立博物館の表慶館の1階の床と似通った雰囲気を感じさせるデザインです。
 エントランスホールの右側にある中央階段の親柱に施された花綱飾りの彫刻は驚くほど繊細で目を惹きます。階段室の踊り場のステンドグラスからは鮮やかな光が差し込んできます。



 1階は応接室、客室(現「鳳凰」)、食堂(現 チャペル「錦鶏」)など接客用の部屋が配され、2階はプライベートスペースで学問所(現「桐」)、御座所(現「麝香」)、寝室(現「葵」)の三室が南に面して配置されています。
 明治42年6月竣工した東宮御所(現「迎賓館赤坂離宮」)のあと、明治44年に竹田宮邸洋館が完成しているため、東宮御所と同様の装飾、モチーフなどが随所に見受けられ“ミニ東宮御所”といった感じの建物です。
 例えば、1階の食堂(現「錦鶏」)の天井、壁の木材のしつらえは迎賓館赤坂離宮の「花鳥の間」と同様で、2階の3室の壁や天井にみられる金箔のレリーフ、花綱飾りのモチーフなどの室内装飾は、フランス17世紀・18世紀様式が採用されて赤坂離宮の「彩鸞の間」の華やかさを彷彿させます。
             スライドショー “旧竹田宮邸の内部装飾”


 和館については、往時を偲ぶよすがが全くないのは残念なことで、現存するこの洋館を頼りにして使用人が50人、トイレが10カ所もあったという最盛期の情況に思いを馳せるしかありません。

6.“桜の園”の庭園
 1972年(昭和47年)には、迎賓館赤坂離宮と同様に建築家の村野藤吾によって竹田宮邸は改修復元されています。
 グランドプリンスホテル高輪を訪れたら貴賓館ばかりではなく、隣接のグランドプリンス新高輪に足を伸ばし、両ホテルに囲まれた日本庭園を散策してみて下さい。

 グランドプリンス新高輪のロビーには、文化勲章受章された一水会の巨匠・小山敬三の「紅浅間」がロビーの壁に掲げられています。これの大壁画は“浅間山の画家” 小山敬三の浅間の集大成ともいえる晩年の傑作です。  
 庭園には村野藤吾が設計した近代感覚にあふれる茶室「惠庵」、奈良から移築された「観音堂」なども点在しています。また、庭園内には20種近くの桜が植えられていて、早咲きの「河津桜」「寒緋桜」から遅咲きの「鬱金桜」「麒麟」まで2月上旬から5月上旬まで各種の桜を愛でることができます。
展覧会トピックス 2010.7.19
 美術館、博物館など開催場所のURLを表記しましたので、詳細はそれぞれのホームページをご覧ください。
1.「日本の染…絞・型・筒描…」
 会 期:2010.7.6〜9.5
 会 場:駒場 日本民藝館
 観覧料:一般 1000円
 電 話:03−3467−4527
 休館日:月曜日 (祝日の場合は翌日)
 http://www.mingeikan.or.jp/home.html
 館蔵の絞り染、型染、筒描染などの技法による染の優品90点を展示。日本各地の藍染めの衣裳や夜具地、庄内地方の被衣、三河万歳の衣裳裂、沖縄の紅型などのほか、柳宗悦の装案で仕立てた夜具地などを用いた掛軸や屏風も併せて展示。
2.「陶芸の美…日本・中国・朝鮮…」
 会 期:2010.6.26〜8.8
 会 場:上野毛 五島美術館
 観覧料:一般 700円
 電 話:03−5777−8600
     (ハローダイヤル)

 休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
 http://www.gotoh-museum.or.jp/
 五島美術館の所蔵品から陶芸の名品を選んで展示するもので、古墳時代から江戸時代にかけての「日本陶磁」、唐・宋・明 時代を中心とした「中国陶磁」、日本人が愛された「高麗・朝鮮陶磁」など、重要文化財4 点を含む約 60 点を紹介。
3.「奈良の古寺と仏像…會津八一のうたにのせて…」
  (平城遷都1300年記念)  
 会 期:2010.7.7〜9.20
 会 場:日本橋室町 三井記念美術館(三井本館7階)
 観覧料:一般 1200円(70歳以上 1000円)

 電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)
 休館日:月曜日(7/19,9/20は開館)、7/20
 http://www.mitsui-museum.jp/
 平城遷都1300年を記念する特別展。奈良各地の多数の国宝、重文指定の優れた仏像は多くの人を魅了してきました。奈良を愛し続けた會津八一の読んだ歌にのせて展示されています。
以 上

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