My Museum 東京国立博物館 「柳緑花紅(改訂版)」    
平成18年12月20日
上野の杜の建物探訪(6)
上野東照宮の周辺の建物
井 出 昭 一
上野の杜には、上野東照宮、旧寛永寺五重塔、時の鐘、五條天神社、花園稲荷神社などの明治以前に建てられた歴史的由緒ある数々の建物も集中していて、これらを巡るのも楽しみのひとつです。
1.上野東照宮
 築城の名手でもあった武将・藤堂高虎が上野山内の屋敷の中に、徳川家康を祭神とする宮祠を造ったのが上野東照宮の創建だといわれています。ちなみに、“上野”という地名は藤堂高虎の出身地である伊賀上野にその地形がよく似ているということで付けられたともいわれています。
 現在の社殿は慶安4年(1651年)に三代将軍家光が大規模に造り替えたものです。その様式は神社建築の代表的な権現造りで、社殿の構造は拝殿、幣殿、本殿からなっています。
 本殿には日本に一つしかない金箔の唐門(唐破風造りの四脚門)があって、扉には梅の亀甲の透彫りが、門柱には左甚五郎作の昇り龍が右側に、下り龍が左側に彫られています。門の側面の左右上部には松梅と錦鶏の透彫りがあって大変豪華な造りです。
 社前に立っている50基の格式の高い青銅灯籠は、御三家が奉納したもので、参道には石灯籠が195基並んでいて壮観です。また、参道入り口の石造の明神鳥居は、寛永10年(1633年)酒井忠世が奉納したもので、柱のふもとが開き安定していて関東大震災でも揺るがず現在に至っています。
 この上野東照宮では本殿、幣殿、拝殿、透塀をはじめ、青銅灯籠、明神鳥居が重要文化財に指定されています。



2.旧寛永寺五重塔

 幕府の実力者・土井利勝が寛永8年(1639年)寄進した旧寛永寺五重塔(重要文化財)は、寛永16年(1645年)に花見客の失火で焼失し、その年のうちに再建されました。構造は三間五層で、高さは地上から宝珠(一番上の珠)まで36.4m、一層の心柱を囲んで東西南北に薬師・阿弥陀・弥勒・釈迦の四仏を安置しています。もとは上野東照宮の五重塔でしたが明治の神仏分離によって寛永寺の帰属となり、戦後は東京都が管理しています。現在は上野動物園の中にありますので、この塔の全体像を見るには入園料を払って動物園に入らなければなりません。












3.時の鐘

 精養軒に入って行く左の小高い丘に建っているのが“時の鐘”です。時計のなかった江戸時代に時を知らせたもので、当時江戸には日本橋石町、浅草、上野、本所、横川町、市ヶ谷八幡、目黒不動、赤坂田町、四谷天竜寺など9カ所に時の鐘がありました。中でもこの鐘は芭蕉の名句「花の雲 鐘は上野か 浅草か」のモデルになった鐘として有名です。現在でも朝夕6時と正午、1日3回時を知らせていて、平成8年には環境庁の「残したい日本の音風景百選」にも選ばれています。
 東京近郊では、川越と岩槻の“時の鐘”が知られています。川越の鐘は、川越のシンボルとして川越を見守ってきた鐘です。また、岩槻の鐘は、嘉永6年(1853年)の再建で、音は九里四方に鳴り響き江戸まで聞こえるほどであったともいわれています。

4.五條天神社
 病に苦しむ人々に薬と治療方法を授けたことから五條天神社は医薬の祖神として信仰され、茨城の大洗磯崎神社、大阪の少彦名神社とともに三薬祖神の一つであり、江戸三大天神(亀戸天神社、谷保天神社)の一つにも数えられているそうです。
 白木の社殿の重層する屋根庇は重厚です。外廊下や巻き上げ御簾、内側から押して持ち上げる形式の細かい格子のしとみ戸など寝殿造り風の風雅な構造になっています。古式ゆかしい節分の行事で、赤鬼、青鬼が出てきて弓矢で追い回される「うけらの神事」が伝えられています。案内文に紹介されていた歌が面白いので掲載します。上から詠んでも下から詠んでも同じ回文です。
   長き夜の とをの眠りの みな目覚め 波乗り船の 音の良きかな


5.花園稲荷神社

 五條天神社と並んで同じ境内にあるのが花園稲荷神社で、承応3年(1654年)天海大僧正の高弟・晃海僧正が上野の山の守護神として造営したといわれ、正式には「忍岡稲荷(しのぶがおかいなり)」で石窟の上にあった事から「穴稲荷」ともいわれています。上野・寛永寺の建立の時に、忍岡の狐の居場所として洞を造り、祀ったという社で、幕末、彰義隊の「穴稲荷門の戦」となったところです。

 以上で、上野の杜の建物の紹介を終えます。上野の博物館、美術館に来られたら、ちょっと足を延ばしてこれらの建物を1つでも2つでも見てください。すると上野の杜で新たな発見があり、楽しさがまたひとつ増えることでしょう。

 今回をもって「柳緑花紅(改訂版)」は一応終了いたします。1年にわたってご愛読いただきありがとうございました。新年1月からは新たなテーマで連載する予定です。

  以上
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IDE・トピックス 2006.12.20 

1.「千住博展」…フィラデルフィア「松風荘」襖絵を中心に…
 会 期:2006.12.2〜12.24  2007.1.5〜3.4
 会 場: 山種美術館
 入場料:一般 800円
 問合せ:03−5777-8600(ハローダイヤル)
12月10日NHKの新日曜美術館で、アメリカで活躍している日本画家・千住博が「松風荘」の襖絵を制作する過程が放映されました。「松風荘」は、アメリカのフィラデルフィアの公園内に現存する吉村順三が設計した書院造りの建物です。千住博がその襖絵20面の制作を無償で引き受け、来年5月の寄贈を前に日本で初めて公開されるものです。滝をテーマに選び、全体の構想の段階から、絵の具の色や材質の選定を経て、絵の具を垂れ流したり、スプレーを使って吹き付けたりする制作の状況が詳細に放映されました。海を渡る前に見ておきたいものです。

2.「人間国宝 松田権六の世界」 
 
会 期:2006.12.16〜2007.2.25
 会 場:竹橋 東京国立近代美術館 工芸館
 観覧料:一般 800円
 問合せ:03−3212−0190
わが国の近代漆芸の巨匠・松田権六の代表作70点のほか、作品形成に関係した古美術などが併せて展示されます。東京国立近代美術館の1階特設ギャラリーでは横山大観の全長40メートルに及ぶ大作「生々流転」が、巻頭から巻末まで一度に公開されます(2007.1.2〜3.4)。こちらも併せてご覧ください。

3.「新春の寿ぎ…国宝 雪松図・卯花墻(うのはながき)を中心に…」
 会 期:2007.1.4〜1.31
 会 場:日本橋 三井記念美術館
 入場料:一般 800円
 問合せ:03−5777-8600(ハローダイヤル)
三井記念美術館の誇る国宝2点、円山応挙の最高傑作「雪松図屏風」と和物茶碗の頂点「卯花墻」が再び展示されるので楽しみです。重文の唐物茶碗「玳皮盞・鸞天目(たいひさん・らんてんもく)」、「東福門院入内図屏風」も公開されます。

4.「悠久の美 中国国家博物館名品展」
 会 期:2007.1.2〜.2.25
 会 場:上野 東京国立博物館
 観覧料:一般 1300円
 問合せ:03−5777-8600(ハローダイヤル)
 中国国家博物館は、中国歴史博物館と中国革命博物館が2003年に統合して生まれた中国を代表する博物館です。質量ともに優れた所蔵品の中から美術的に価値の高い名品61件が展示されます。

5.特別展「江戸城」
 会 期:2007.1.2〜3.4
 会 場:両国 江戸東京博物館
 入場料:一般 1200円(65歳以上は600円)
 問合せ:03−3626-9974
江戸城の築城550年を記念して、江戸城の全貌を紹介するものです。屏風絵、絵巻、金箔瓦、建築図面、古文書、大型模型など約250件が展示され、ヴァーチャルリアリティで消失した江戸城の巨大城郭としての姿を偲ぶことができそうです。
(了)

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