MyMuseum東京国立博物館「柳緑花紅」(改訂版)
  平成18年6月20日
東京国立博物館でのボランティア活動(4)
…東博ボランティアの“三楽”… 
 井 出 昭 一 

一楽:来館者との触れ合い
 私は、『東博ボランティアに“三楽”あり』と思っています。
 その一つは、東博と来館者との懸け橋・仲介役としての楽しみです。お客様と一緒に作品を愉しみ、対話を通じて自分とは異なった面からの見方を教わる楽しみでもあります。
 美術の専門家でないボランティアがガイドをする際に気をつけることは、難しい専門用語は避けて、東博の楽しさを知っていただくためのヒントを提供することだと考えています。こども茶会で、生れて初めて手水鉢を使って茶室体験をして喜ぶ笑顔に接したり、お客様の質問に答えて会話をしたり、お茶会での解説やガイドを終えたあと参加された方からお礼や感謝の言葉を掛けられたり、こんなときはボランティア冥利に尽きるときでもあります。
 私が東博でボランティアをしていることを知って、関係しているグループの方から、東博を案内するよう依頼されることが多くなり、これに対して私は積極的に応えてきました。これまでに学生時代の同窓会・同期会、会社時代の各種のグループ、定年後に係りのできたグループの方々に対して個人的にガイドを重ねてきました。
 ガイドの後は、決まって上野界隈での“懇親会”となりますが、その際、参加者の感想を伺いますと、「小学生のときに強制的に見学させられ、悪い印象をもち続けていたが改めて見直した」「これほど名品が常時展示されているとは思わなかった」「いままで敷居が高く敬遠していたが、友人がボランティアをしていることで、急に親しみを感じるようになった」「特別展に来ても疲れてしまい、東洋館までは足を伸ばせなかった」「こんなに素晴らしい法隆寺宝物館があるのを知らなかった」「これまで何回も来たが、気が付かなかったことを教えられた」等々・・・。
 そのとき私は「東博の良さがご理解いただけたら、何度でもお越しください。次に来るときには、家族、友人、知人同伴でどうぞ。子供さん、お孫さんをご案内すれば、お父さんとして、おじいさんとしての権威が発揮できますよ。65歳以上の人であれば、東博は終日無料で楽しめるところなのです。」と話しています。
   楽しみは ガイドの際に お客さまの 満ちたる顔に 巡り会うとき

二楽:多くの美術品に出会える楽しみ
 第二は、常に多くの美術品に接することができる楽しみです。
 東博の所蔵品は、10万件を超え、個々の点数にすると100万点以上ともいわれています。そのうち国宝が91件、重要文化財が618件、さらに寺院または個人の寄託も数多く、名品・優品が展示されます。東博の平常展での展示できる数は、展示スペースの関係から2500〜3000件です。仮に毎月展示替えをしても、34〜40ヶ月、およそ3年をかけなければ東博のすべてを見ることはできない計算になります。
 東博では、2004年9月、現在の本館が昭和13年(1938年)に開館して以来初めてといわれるほどの展示方法の大変更を行いました。本館は「日本ギャラリー」として、1階は、彫刻(仏像)、陶磁、刀剣、漆工、民族資料、歴史資料、近代美術、近代工芸などの「分野別展示」であるのに対し、2階は「時代別展示」となっていて、縄文・弥生時代から江戸時代にいたるまでの「日本美術の流れ」が特色あるテーマのもとに時代と文化をバックにしながら鑑賞することができるようになりました。
 本館の東のレストラン「ラコール」側でスイフヨウ(酔芙蓉)の花が咲く9月になると、例年、東洋館で「中国書画精華」が開かれ、国宝「紅白芙蓉図」李迪筆が展示されます。このほか梁楷筆「雪景山水図」(国宝)、「出山釈迦図」(重文)、伝梁楷筆「雪景山水図」(重文)、李白吟行図(重文)、六祖截竹図(重文)、「瀟湘臥遊図巻」李氏筆など勢揃いします(年により展示品は多少異なりますが)。これほどの名品が、平常展としてみることができるのです。しかも、きわめて静かな落ち着いた雰囲気の中で・・・。東博でなければできないことです。恵まれた環境で中国の名画や書跡を堪能できる場所は他にはないのではないかと思います。
 東博では作品保護の見地から、分野ごとに展示の期間が異なっています。例えば、浮世絵は4週間、絵画・書跡は6週間、陶磁などの工芸品は3ヶ月で、それぞれの分野で定期的に展示替えが行なわれています。いつ訪ねても新たなときめきを感じるところ、東博とは、そんなところです。

   楽しみは あまた美術の 名品に 訪い来る毎に 触れ会えるとき



三楽:ボランティア仲間との交流・触れ合い
 三番目は、同好のボランティア仲間との楽しい交遊です。
 東博はボランティアに対して、自発性・社会貢献性を重視した活動を推奨し、ボランティアが自主的にグループをつくり、ガイドをすることに対して前向きに取り組んでいます。およそ10のグループがつくられましたが、いずれのグループも、意欲的・熱心なボランティアが多く、その交流、触れ合いから受ける多くの刺激は、永い会社生活では得られなかった新鮮なもので、これまた大きな楽しみでもありました。
 東博のボランティアは美術に関心ある人の集まりだけに、美術に関しての話は直ちに意気投合してしまいます。誰ともなしに、東博以外の美術館に行ってみようという話が出たのを契機に、「美術遠足」という全くフリーな集まりも誕生し、ボランティアが終った今でも継続しています。都心では、大倉集古館、泉屋博古館、松岡美術館、東京近郊では青梅の玉堂美術館、櫛かんざし美術館、吉川英治記念館、横浜の三溪園、鎌倉の建長寺・円覚寺・東慶寺などの寺院巡り、さらに足を伸ばして熱海のMOA美術館、箱根の箱根美術館、成川美術館、強羅公園の白雲洞、小田原の松永記念館なども見学してきました。
 この分野で顔の広いメンバーがいて、旧知の学芸員にお願いして特別メニューのガイドをしていただくこともしばしばです。知り合いの学芸員がいない場合でも、参加者が“専門分野”について、それぞれが解説できますので、相互に説明・案内し合う機会でもあります。
 美食家を自認する人も多く、会食の場所、メニューなどを選ぶのも愉しみのひとつです。会食のとき、休憩のときは当然のこと、往復の車内でも、美術に関する豊富な話題に話がはずんで、降車駅を乗り越してしまいそうなこともありました。幹事は持ち回りで毎回替わりますが、それぞれ特色ある企画が続いて満足度100%の集まりです。
 このほか、ボランティアOB・OGの集まりとしては、庭園茶室ツアー・グループとお茶会グループの合同の「ゆりのき会」とか陶磁エリアガイドの会などもあって、東博のボランティア活動は終っても、楽しい交流は尽きるときがなさそうです。
  楽しみは 同じ心の ボランティアと 名品につき 語り合うとき



 IDE・トピックス No.11 ( 2006.06.20) 
1.「骨董誕生」(開館25周年記念特別展)
   期 間  2006.5.30〜7.9
   場 所  渋谷区立松濤美術館
   入場料  一般 300円 (60歳以上は無料です
   問合せ 03−3460−6366
 ユニークな展覧会です。ここでは、“骨董”を日常生活で見かける美しい器物のうち、完璧にこだわらずに自然の風合いを残した 「味もの」と呼んでいます。
 生活の“用”のために生れたいわゆる雑器の美を見出した柳宗悦をはじめ、当代一の目利きといわれた青山二郎と小林秀雄、それを受け継ぐ白洲正子、安東次男のゆかりの品が展示されています。
 前回紹介した日本民藝館の近くですから、両館合わせて見ると程よい美術館散策コースになります。
2. 「武相荘」(旧白洲邸)
   休館日  月・火曜日(祝日・振替休日は開館)
   場 所  町田市能ヶ谷
       (小田急小田原線鶴川駅下車 徒歩15分)

   入場料  一般 1000円
   問合せ 042−735−5732
NHKの「私のこだわり人物伝…白洲正子…(語り手:細川護煕)」に触発されて、一度は訪ねたかったところですが、6月18日にようやく実現しました。
 武相荘(ぶあいそう)とは、変わった名前ですが、武蔵と相模の境にあることと無愛想をかけて名付けたそうです。白洲次郎・正子夫妻が戦時中の昭和18年に越してきて以来、60年近く住み続けた茅葺き屋根の民家の内外には、正子が独自の美学で集め、実際に使用したこだわりの品々、次郎自作の机や電気スタンドなどが溢れています。
 いまは“白洲ブーム”なのでしょうか、本屋の店先には、「ダ・ヴィンチ・コード」とともに、白洲次郎関連の本が数種類も山積みされていて驚きました。
  以上