My Museum 東京国立博物館「柳緑花紅(改訂版)」
平成18年2月5日
魅力あふれる東博の建物
明治以降の近代建築(1)…本館・表慶館・東洋館・平成館…
  井 出 昭 一
上野の森は、“生きた建築博物館“といわれています。それは、日本の近代建築を代表する“標本”がずらり勢揃いしているためです。有名建築家による明治以降の建築がこれほど集中しているところは他に例を見ないでしょう。上野公園には、大小さまざまの約30棟の標本があります。上野の山に来て、そこに点在する建物を丹念に見て歩けば「日本近代建築史」を丸1日で勉強できるのです。
その中心は、なんといっても東京国立博物館でしょう。東博の最大の魅力は、その収蔵品の多いことですが、構内の建物も見れば見るほど新たな発見があり、どの建物も人の心を惹き付けるような魅力を持っています。本館、表慶館、東洋館、平成館、法隆寺宝物館の5棟の特色ある展示館に、資料館を加えて6棟が“明治以降の近代建築”です。このうち、本館と表慶館は重要文化財に指定されている建物です。
(1)本館 …威厳に満ちた東博の象徴
上野公園に入ってきて噴水の池越しに北側を眺めると、本館の威風堂々とした格調高い姿を見ることができます。正門を入ると、さらにその迫力に圧倒されます。
この本館は、コンクリート建築に瓦屋根をのせて東洋風を強く打ち出したいわゆる「帝冠様式」の代表的建築です。渡辺仁による設計で、昭和13年に開館しました。渡辺仁は戦後GHQがおかれていた日比谷の第一生命館、銀座のシンボルとなっている和光ビル(服部時計店)、格調高い横浜のホテル・ニューグランドなどを設計した建築家です。
東博には、国宝、重要文化財が700件以上ありますが、そのなかで最も大きい重要文化財がこの本館です。美術品の展示館としてではなく、貴重な文化財としても見どころは盛り沢山で楽しみいっぱいの建物なのです。
車寄せのある正面玄関から装飾のある重厚な扉を開いて入ると、高い天井のエントランスホールが広がります。幅広い石張り階段を上がりながら見上げるとそこには装飾豊かな大理石の壁面に大時計。階段の左右の踊り場を飾るステンドグラスも見事なもので、同系等の色調で落ち着いた雰囲気を漂わせています。
1階入口の上にある明り取り窓、正面階段の照明、階段両脇、2階便殿(びんでん:旧貴賓室)の扉、2階ロビーの照明1階北側にある休憩室のモザイク壁面、時計の周囲の装飾、北側庭園を望む窓枠など細かい部分にまで装飾が行き届いていて見飽きることのない建物です。平成13年(2001年)6月には重要文化財に指定されました。
参考:明治生命館(昭和9年竣工)が重要文化財に指定されたのは、東博本館より早く平成9年です。“様式建築の鬼才”と呼ばれた岡田信一郎の最後の設計で、壮麗なネオ・ルネッサンス様式の重厚・華麗な姿は、昭和初期の近代洋風建築の最高傑作として高く評価されています。
(2)表慶館 …優雅な美の殿堂
正門を入って、左に見えるドーム(半球形の屋根)の優雅な建物が表慶館です。
赤坂の迎賓館、京都と奈良の国立博物館を設計し、宮廷建築家といわれる片山東熊(かたやまとうくま)が設計した代表作です。大正天皇(当時皇太子)のご成婚を記念して建設が計画され、明治42年(1909年)に近代美術を展示する建物として開館しました。日本人が設計した西洋建築のなかでは、現存する明治時代の建築として傑出した建物で、昭和53年(1978年)5月、重要文化財に指定されました。

ネオバロック様式の美しいドームは、どこから見て絵になる光景です。1階の中央ホールに立つと、その床はタイルではなくフランス産の7色の大理石によるモザイク、仰ぎ見るとドームの天井の装飾、8本の林立する大理石の丸い柱、1階から2階へ通じる螺旋階段など、その内部装飾は優雅な曲線を基調とし、東洋館、法隆寺宝物館の直線的なものとは対象的です。
空調、衛生、バリアフリー等の設備の問題で、常時開館しているわけではありませんが、特別展等で開館しているときは、展示品ばかりではなく、是非内部の詳細も気をつけてご覧いただければ、そのすばらしさを実感できるでしょう。(ただし、今年の8月まで修復工事で覆いが掛けられ、今は美しい姿を見る事ができません。)
(3)東洋館 …東洋美術最大の宝庫
表慶館と相対しているのは東洋館で、日本を除く東洋の美術・工芸・考古遺物を常時展示しています。
谷口吉郎の設計で、昭和43年開館しました。

外観・内部とも和風を基調として直線がすがすがしい感じのする建物です。
構造上は3階で、展示室は10室あります。しかし半階ずつ階段を経由して展示室を巡るというように複雑に入り組んでいます。そのため、目指す展示室にたどり着くのに苦労したり、また注意していないと見落としてしまう展示室もあります。
しかし法隆寺宝物館と並んで東洋館は、人の混み合うことのないスポットです。いつでも静寂な雰囲気の中で美術品に没頭できる場所でもあります。酷暑の夏には、空調の効いた東洋館の中国陶磁の展示室で、青磁や染付の名品と対面していれば心の底まで涼しく清められます。それ故、私の最も好きな休憩室でもあるのです。
(4)平成館 …巨大な展示空間
皇太子殿下のご成婚を記念して平成11年に開館した平成館は、2階に特別展専用の展示室が、1階には考古展示室があります。
平成館の建物としての魅力は、新しいということだけではなく8m以上の高い天井高を有する大空間にあることです。その威力を遺憾なく発揮したのは、「大日蓮展」の開催時、長谷川等伯の重要文化財「仏涅槃図」(京都・本法寺蔵)が展示されたときです。縦8m弱、横5m強の“大”涅槃図を垂直に掛けて、しかも離れたところから鑑賞できるのはこの平成館以外には考えられません。
特別展の開催時の平成館は、最も来館者でにぎわう場所です。ここ数年では「横山大観展」「雪舟展」「空海と高野山」などが好評で来館者が殺到した特別展です。とくに最近の「北斎展」は大変な混みようでした。
展示ケースを覗くような場所では、人の波に押し出されてゆっくり鑑賞することもできません。多くの人が「特別展は疲れる」といわれます。特別展を見るだけでエネルギーを使い切って、平成館の1階にある考古展示室とか本館、東洋館に足を延ばす元気はなくなってしまうようです。
しかし、特別展を見終わった後、1階ラウンジのソファーで休憩を取り、自販機の飲み物で喉を潤し気分を新たにして、本館の日本美術に再挑戦するという元気な高齢者も見受けられます。
いずれにせよ、東京国立博物館は建物が大きくて広く、見る物が多くて大変なところですが、それだけに底知れない深遠な魅力を秘めた場所でもあります。
以上
  
IDE・トピックス No.2 ( 2006.2.5)
1.「歌仙の饗宴」…古今和歌集1100年記念祭…
  丸の内 出光美術館  2006.1.72.12  観覧料 一般800円  ハローダイアル 03-5777-8600
  
 歌仙絵巻の最古・最優の佐竹本三十六歌仙絵巻が7点も展示されていて壮観です。その中でも最も人気の高い「斎宮女御」(さいぐうのにょうご)は見る機会が少なく今回は約10年ぶりの公開です。会期が残りわずかですので、この機会をお見逃しなく。10日の金曜日は夜7時まで開館していて、夜景もゆっくり楽しめます。
2.「大いなる遺産…美の伝統展」東京美術倶楽部創立100周年記念
  新橋 東京美術倶楽部  2006.2.52.26(期間中無休)  観覧料 一般1400円 03-3432-0191 
                      
 「源氏物語絵巻」、「絵因果経」、「志野茶碗 銘卯花墻」、仁清「色絵藤花文茶壷」、藤原佐理筆「離洛帖」、雪舟筆「秋冬山水図」、「宋 青磁下蕪瓶」など美術史上有名な国宝17点をはじめ明治以降の黒田清輝、岡田三郎助、岸田劉生、梅原龍三郎の洋画、横山大観、菱田春草、前田青邨、奥村土牛の日本画など約150点弱、すべて美術商が取り扱った名品・名作ばかりが展示されている、ユニークで豪勢な展覧会です。会場は、美術館でもデパートでもなく「東京美術倶楽部」です。JRの新橋と浜松町のちょうど中間で徒歩10分。一番近い地下鉄の駅は都営三田線の「御成門」で徒歩2分のところです。
以上

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