<ダイヤネット>

・・・My Museum Walk・・・『わたしの美術館散策』

井出 昭一

2010.2.28

…My Museum Walk …『わたしの美術館散策』(40)

井出 昭一

原美術館

…現代美術専門の美術館に変身した個人邸宅…


場 所:〒140−0001 東京都品川区北品川4−7−25

問合せ:電話:03−3445−0651

交 通:JR「品川駅」高輪口下車、徒歩15分

入館料: 一般 1000円

休 館:月曜日(祝日の場合は翌日)

http://www.haramuseum.or.jp/generalTop.html



1.プロローグ

「原美術館」というと、“原三溪の美術館ですか”とか、“大原美術館の間違いではありませんか”といわれることもありますが、原三溪とも大原美術館とも全く関係なく、国内では数少ない現代美術専門の私立美術館です。

私は現代美術を理解できませんが、この建物が渡辺仁の設計だというので、建物を見たいために訪ねてみました。

1.モダニズムの邸宅が美術館に変身

原美術館を訪ねるには、JR「品川駅」の高輪口を出て第一京浜国道を南に進み、新八ツ山橋交差点を右折し、次の御殿山交番の信号を左折して行くと静かな住宅街の一角に目指す美術館に至ります。この信号の右側の石垣で囲まれた広大な一帯は三菱財閥二代目・岩崎彌之助邸の建っていたところで、現在は三菱開東閣となっています。

美術館の建物は原邦造の邸宅として渡辺仁が設計し、昭和13年に完成した鉄筋コンクリート造2階建ての瀟洒な建物です。

この建物は、昭和初期にヨーロッパから流入したモダニズム建築の代表ともいわれ、平らな屋根を持ち、横長の連続窓、装飾を付けないシンプルな外観などがその特徴とされています。正面玄関は水平と垂直な面で構成され、柱は大理石で重厚な雰囲気で、外壁は昭和初期に流行した四角のタイル張りです。半円形に外に張り出している朝食室、建物がカーブしている状況は航空写真で見るとハッキリと確認できます。原美術館の建物に、原邦造が住んだのはほんの2〜3年だけで、戦後は進駐軍に接収されました。

2.原邦造と渡辺仁

建物のオーナーだった原邦造(1886〜1958)は京都大学を卒業した後、経済界に入り明治製糖、東武鉄道社長のほか、東京ガス、日本航空会長を務めた経営者である一方、俳句や油絵をたしなむ趣味人で名利に淡々とした文化人だともいわれています。

邦造の養父・原六郎(1842〜1933)は明治から昭和初期にかけての経済界の重鎮で、横浜正金銀行頭取を務め、渋沢栄一、安田善次郎、大倉喜八郎、古河市兵衛らと共に“五人男”と称されていました。御殿山界隈は、日本の初代首相である伊藤博文や三井物産の創立者で数寄者でもあった益田孝(鈍翁)の大邸宅が建っていた屋敷街で、原六郎邸宅跡は現在御殿山ガーデンとなっています。

また、建物を設計した渡辺仁(1887〜1973)は東大建築科卒の建築家で、東京に現存する代表作は、上野の東京国立博物館本館、日比谷の第一生命館、敏座の和光(旧服部時計店)、横浜のホテルニューグランド旧館です。個人住宅としては知られているのは、昭和3年に目白に完成した尾張徳川家第19代当主の徳川義親侯爵邸です。この木造2階建ての建物は昭和43年(1968年)に八ヶ岳自然郷に移築され、八ヶ岳高原ヒュッテとして利用されています。なお、父親の渡辺渡は東京帝大工科大学長を務めた鉱山学者でした。

 

3.原美術館とハラ・ミュージアム・アーク

原美術館は1979年(昭和54年)の開館以来、年3〜4回の展覧会・講演会・パフォーマンスなどのイベントを通じて各国の現代美術を紹介しています。所蔵作品は1950年代以降の絵画・彫刻・写真・ビデオ・インスタレーションなどの現代美術作品が約850点で内容は多岐に渡っています。

庭には多田美波の『明暗』(1980年)、宮島達男の『時の連鎖』(1989〜1994年)、関根伸夫『空相』(1980年)などの作品が置かれ常時見ることのできます。

中庭を臨むところにカフェとショップがあり、カフェ「カフェダール」を結婚式場として使うことができます。中庭の芝生には椅子が置かれ、車の騒音から隔離された静かな雰囲気の中で心を豊かな時を過ごすことができます。

なお、原美術館は財団法人アルカンシェール美術財団を母体としていて、現代美術とは別に、美術のコレクターでもあった原六郎のコレクションの古美術も所蔵しています。

群馬県渋川市に、原美術館別館のハラ・ミュージアム・アークがあり、ここで現代美術と共に原六郎の古美術コレクションが展示されています。

この別館は建築家・磯崎新が設計したもので、厩舎風の黒いシャープな外観が注目されています。2008年7月には創立20周年を記念して、特別展示室「觀海庵(かんかいあん)」が造られ、こちらも磯崎新の設計ということですから一度訪ねてみたいものです。

原六郎コレクションの白眉ともいえる国宝の「青磁下蕪花生」(南宋時代)は東京国立博物館に寄託されているため、榛名山麓の渋川まで出向かなくて上野の東京国立博物館の中国陶磁の展示室で拝見することもできます。

なお、文京区の護国寺には重文に指定されている月光殿がありますが、これはもと滋賀県大津市の園城寺(三井寺)の塔頭の日光院客殿として建てられた書院造りの建物で、明治25年に御殿山の原六郎邸内に移築され、その後、六郎氏が護国寺に寄進し、昭和3年に移築され月光殿と改称されました。

私にとっては、原美術館=現代美術専門の私立美術館というよりは、原美術館→原邦造→原六郎→国宝「青磁下蕪花生」→重文「月光殿」(旧日光院客殿)と展開していく方が興味をそそられます。



展覧会トピックス 2010.2.25







美術館、博物館など開催場所のURLを表記しましたので、詳細はそれぞれのホームページをご覧ください。

偶然でしょうか、現在、「うつわ」という名の展覧会が3カ所で開かれていますので紹介します。

1.「麗しのうつわ…日本やきもの名品選…」

会 期:2010.1.9〜3.22

会 場:丸の内 出光美術館(帝劇ビル 9階)

入場料:一般 1000円

電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)

 http://www.idemitsu.co.jp/museum/

出光美術館の陶磁コレクションは優品が揃っていることで定評があります。古くは猿投(さなげ)、古瀬戸から始まり、志野、織部、古唐津、楽、京焼、古九谷、柿右衛門、鍋島を経て、板谷波山にいたる近代におよぶ日本陶磁の名品が一堂に展示されます。

2.「懐石のうつわ…向付と鉢を中心に…」

会 期:2010.1.23〜3.22

会 場:白金台 畠山記念館

入場料:一般 500円

電 話:03−3447−5787

休館日:月曜日(3/22は開館)、2/19

 http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/

畠山記念館の創設者・畠山即翁は懐石を大切にした数寄者のひとりで、自身が催した茶会記には懐石料理とうつわを詳しく記していました。その即翁の懐石コレクションから向付と鉢に焦点を当てた展覧会です。

3.「吉祥のうつわ展…中国陶磁に見る祝い寿ぐ文様の世界…」

会 期:2010.1.5〜4.18

会 場:白金台 松岡美術館

入場料:一般 800円(65歳以上 700円)

電 話:03−5449−0251

休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)

http://www.matsuoka-museum.jp/

松岡美術館の創立者松岡清次郎が蒐集した中国陶磁コレクションは、中国陶磁史をほぼ網羅できるほどです。今回は日本の陶磁に影響を与えた中国の吉祥文様に焦点をあて、宋から清までの中国陶磁器を選んで紹介しています。

                                          以上

2010.1.29

…My Museum Walk …『わたしの美術館散策』(39)

井出 昭一

根津美術館

…3年半ぶりに新しい姿で登場…


場 所: 〒107−0062 東京都港区南青山6−5−1

問合せ: 電話:03−3400−2536

交 通:東京メトロ・銀座線、半蔵門線、千代田線「表参道」駅下車

A5出口から徒歩8分

観覧料:新創記念特別展 一般 1200円(平常展は一般1000円)

休 館:月曜日

http://www.nezu-muse.or.jp/



1.プロローグ

数多い東京の私立美術館のなかで、私がこれまでに最も足繁く通ったのは根津美術館です。この『わたしの美術館散策』シリーズでも早くに紹介すべきでしたが、建て替え工事中は閉館されていましたので、その完成を待ち望んでいたところです。昨年10月にようやく“新創”開館となったのを機会に取り上げる次第です。

( ここでは根津美術館が使っている“新創”ということばを使います。)

2.初代根津嘉一郎のコレクションが中心

根津美術館は、東武鉄道社長を務め一代で東武グループを築きあげた初代根津嘉一郎(1860〜1940)が50余年の歳月をかけて収集した日本および東洋の美術品を保存・展示するための私立美術館です。

初代根津嘉一郎はその蔵品目録『青山荘清賞』(昭和14年)の序文で「予は……生来美術が好きで、而もその趣味は年と共に深きを加へ、小閑を得ては書画骨董を求め、之を鑑賞することを以て唯一の楽とした。」と述べ、日本や中国の優れた美術品が欧米におびただしく流出するのを憂慮して「単に個人の趣味としてではなく、東洋の藝術はこれを東洋、殊に日本に保存すべしと云ふ精神を堅持」し、そのため美術品の収集も広範に及んだと自ら記しています。

初代が昭和15年(1940)に80歳で没後、その遺志を継いだ二代根津嘉一郎が財団法人根津美術館を創立し、翌年美術館が開館されました。昭和20年、戦災で建物の大部分を焼失し、昭和29年には美術館本館を再建しました。これを設計したのは、早稲田大学の旧図書館(現:會津八一記念博物館)や坪内博士記念演劇博物館を手掛けた今井兼次で、構造設計は東京タワーを担当しその道の権威といわれる内藤多仲でした。戦後で資材が極端に不足した時代にもかかわらず、壁面に大理石を使うなどして、初代に劣らず二代目の入れ込みようが伺える建物でした。この旧本館はその後増改築を重ねてきましたが、私にとっては通い慣れた最も馴染み深い建物でした。平成18年から大規模な新創工事のため、この建物は取り壊され、隈研吾(東大教授)の設計による新たな展示館(本館)が完成し、昨年10月には3年半ぶりに再開されました。新創を機に美術館のロゴマークもNEZU MUSEUMのNとMを縦の直線で表した斬新なものに一新されましたが、これは美術館のアプローチの竹の林と重なり合うイメージのものだと思います。

3.新創なった美術館

根津美術館を訪ねるには、地下鉄の「表参道」駅のA5出口の階段を上り、プラダやヨックモック本店の立ち並ぶ“みゆき通り”をしばらく進み“美術館通り”との交差する南青山4丁目の信号の先に建つ黒っぽい大きな建物が根津美術館です。

かつてはこの場所にいかにも堅固そのものの3棟の美術品を納める蔵が立ち並んでいましたが、それがゆったりと傾斜した瓦葺き大屋根をいただく美術館へと変身しました。正門脇の「月の石舟」から玄関までの道路に沿うアプローチには竹が整然と植えられ、建物側にもびっしりと竹が張り詰められていて、日本的な雰囲気の中を玄関まで誘導されます。

今回新たに造られた本館は地下1階地上2階建てで、展示室の床面積は約2倍となりました。玄関を入ると広々した吹抜けのホールが広がり、正面の大きなガラス越しに庭園が見渡せます。以前は直接庭園に入ることができましたが、今度は関門を通らなければ、庭園に行けない仕組みになり、1階の庭園口から庭園に出ると本館とは別棟のNEZUCAFEがあってそこで食事や喫茶ができてくつろげます。

 1階には展示室が3室あり、一番大きい展示室1は企画展示の部屋で、展示室2は書画の部屋です。ホールの庭園側と庭園に面する展示室3には仏像などの彫刻が展示されています。

 2階展示室には階段のほかエレベーターでも行くことができます。そこにはほぼ同じ広さの展示室が3室連なり、展示室4は青銅器、展示室5には工芸、展示室6には茶道具が展示されます。地下1階には講堂と庭園・茶室に行くための茶室口があります。建て替え前には企画展示室だった東側の建物はすっかり改修されて事務棟になりました。

4.1年かけて館蔵の名品を順次公開

根津美術館の収蔵品は7千件弱で、このうち国宝7件、重要文化財87件、重要美術品96件がふくまれています。コレクションは絵画、書蹟、彫刻、陶磁、染織、考古など日本・東洋古美術の広範にわたり、大部分は初代根津嘉一郎が収集したものです。

根津美術館の看板となっている美術品は、「那智瀧図」、尾形光琳の「燕子花図屏風」、牧谿の瀟湘八景のひとつ「漁村夕照図」、鶉図(伝李安忠)など国宝の指定されている絵画の一群です。「那智瀧図」はアンドレ・マルローが絶賛したことでさらに有名になりました。尾形光琳の代表作「燕子花(カキツバタ)図屏風」は、これまでも毎年カキツバタの花が開く頃に合わせて、定番として展示されてきており、今年も4月下旬から公開されます。

 しかし、何はさておき根津美術館を特色付けるものは茶道具で、質量とも日本一という茶道具は美術館の中核ともなっています。そのうち茶碗だけとって見ても、唐物(中国)の(重美)曜変天目茶碗、珠光青磁茶碗 銘遅桜、高麗物の(重文)青井戸茶碗 銘柴田、井戸茶碗 銘忘水、三島茶碗 銘上田暦手、和物では(重文)志野茶碗 銘山の端、信楽茶碗 銘 水の子など名碗が続々と思い浮かぶほどです。

 根津美術館の収蔵品のうちで、世界的に有名なものは中国の殷周の青銅器で、2階の展示室4に常設展示されています。また、秋山順一氏(83件)、福島静子氏(96件)、小林中氏(150件)など個人コレクターからまとまった作品寄贈の多いことは日本の私立美術館としては珍しく、根津美術館の信頼の高さを示すものとして特筆すべき点です。

新築の根津美術館で一度に展示できるのは150点程度といわれています。そこで「新創記念特別展」と銘打って昨年末から1年をかけ、8回にわたって根津コレクションの名品が順次展示されます。これを通覧すると、根津美術館の全貌を知ることができますので今年はその絶好の機会です。しばらく中断を余儀なくされていた私の“根津美術館通い”も復活することになります。

参考までに特別展8回の開催概要(第1部、第2部は終了)は次の通りです。

第1部 「新・根津美術館展…国宝那智瀧図と自然造形…」

  会期:2009.10.7〜11.8(終了)

主要展示品:(国宝)那智瀧図、仁清・色絵山寺図茶壷、春日山蒔絵硯箱

第2部 「根津青山の茶の湯…初代根津嘉一郎の人と茶の湯…」

  会期:2009.11.18〜12.23(終了)

主要展示品:(国宝)鶉図、(重文)青井戸茶碗 銘柴田

第3部 「陶磁器ふたつの愉楽…観るやきもの・使ううつわ…」

  会期:2010.1.9〜2.28

主要展示品:(重文)青磁筍花生、井戸茶碗 銘忘水、備前州浜形鉢

第4部 「胸中の山水・魂の書…山水画の名品と禅林の墨蹟…」

  会期:2010.3.13〜4.18

主要展示品:(重文)山水図 賢江祥啓筆

第5部 「国宝燕子花図屏風…琳派コレクション一挙公開…」

  会期:2010.4.24〜5.23

主要展示品:(国宝)燕子花図屏風 尾形光琳筆

第6部 「能面の心・装束の華…物語をうつす姿…」

  会期:2010.6.5〜7.4

主要展示品:紅薄縹段籠目秋草文様唐織

第7部 「いのりのかたち…八十一尊曼荼羅と仏教美術の名品…」

  会期:2010.7.10〜8.8

主要展示品:金剛界八十一尊曼荼羅

第8部 「コレクションを未来へ…根津嘉一郎収集品と寄贈作品…」

  会期:2010.8.21〜9.26

主要展示品:(重文)藤花図 円山応挙筆

5.庭園に散在する由緒ある茶室群

 庭園内の通路は、飛び石伝いに迷路のような細い坂道を登り降りしたものですが、このたびの改築に伴う庭園関係の工事でメインストリートは石畳に改められて和服の人も歩きやすくなり、車椅子でも気楽に散策できるようにすっかり整備されました。

2万平方メートルを越す広大な美術館の敷地内には、初代根津翁が自ら「庭師の庭」をさけて、高低差のある地形を生かしながら自然を取り入れることを主眼として造園されたという庭がひろがり、庭園内4カ所に散在する茶室はそれぞれ小間と広間がセットになっています。新設された地下1階の茶室口から庭園に出て、今回整備された通路に従って進むと最初に出会うのは弘仁亭・無事庵です。弘仁亭は根津美術館を代表する広間の茶室で池に面しています。弘仁亭から池を渡って進むと披錦斎・一樹庵です。一樹庵のすぐ近くには斑鳩庵・清溪亭があります。斑鳩庵から池を渡って少し登ったところには閑中庵・牛部屋があります。

慶應茶道会とその卒業生で構成する三田福茶会は、11月3日の文化の日に弘仁亭、一樹庵、斑鳩庵を使って全慶應茶会を長年開催し続けてきました。工事期間中は芝の東京美術倶楽部で開催しましたが、昨年は3年ぶりに根津美術館に戻ってきました。根津美術館としても新創後は初めての茶会ということでしたので、来客の受付、茶室への誘導など初体験の一日でした。茶室そのものは従来通りで変わりありませんでしたが、水屋が広くなって使い勝手が良くなり、新しい美術館、庭園での初めての茶会は無事終了することができました。

庭園内の茶室はいずれも木立の中にすっかり溶け込んでいますので、新緑に包まれる頃、紅葉に映える頃など四季折々の彩りをこれからもゆっくりと楽しむことができそうです。

6.歳暮茶会の思い出

青山と号した初代根津嘉一郎が茶の湯の世界へデビューしたのは59歳のことで、大正7年(1918)11月27日でした。この茶会は根津青山「初陣茶会」として知られています。以来昭和14年の「歳暮茶会」まで、様々な趣向で茶会を数多く開いてきましたが、とくに忙しい年末に茶会を開いたため「歳暮茶博士」の呼ばれたといわれています。師匠格の高橋箒庵は、その「大正茶道記」に「根津青山が、現役実業家で、歳晩(年の暮)はことに一層多忙なるにも拘わらず、その百忙中より一閑を偸(ぬす)んで歳暮茶会を催すのは三、四年来恒例となり。余はその都度佳招を蒙っている……」と記しています。

根津美術館では、初代からの慣例を守り続け、毎年末に「歳暮茶会」を開いてきました。私は茶道具権威で私の“師匠”であった今は亡き小田栄一さんのお誘いで何回かの歳暮茶会に参加させていただきました。薄茶席に充てられている弘仁亭の書院には、名物の雲州家伝来の南蛮銅鑼が必ず置かれていましたので「銅鑼の会」とも呼ばれていました。小田師匠からこの銅鑼は「余韻の長さ日本一」だということを伺っていました。

ある歳暮茶会の際、二代目根津翁が突然弘仁亭の席に顔を出され、それを察知された正客が席を替わるよう勧めたにもかかわらず、根津翁は「後から席入りしたので」と末席を固持されました。定番となっていた清月堂の「粟ぜんざい」で一服飲み終えた後、根津翁はあの控え目な口調で「勝手ですが、ひとつ銅鑼の音を聴かせていただけませんか」と所望されました。すると亭主の菅沼宗阿宗匠が銅鑼の前に進み出て恭しく一礼された後、突き上げるような所作で銅鑼を打ったところ、ゴォーン………という重々しい響きが満席の弘仁亭の隅々まで浸み渡たってゆきました。これは心に残る歳暮茶会の思い出となっています。


展覧会トピックス 2010.1.25



美術館、博物館など開催場所のURLを表記しましたので、詳細はそれぞれのホームページをご覧ください。

陶芸を本業としない“ノンプロ陶芸家”として双璧をなす川喜田半泥子と北大路魯山人の展覧会が東京で同時に開催され、話題となりましたので会期は終了しましたが、特筆すべき展覧会でしたので参考のため掲載します。

1.「川喜田半泥子のすべて展」

会 期:2009.12.30〜2010.1.18(終了)

会 場:松屋銀座 8階大催場

休館日:10月30日

入場料:一般 1000円

電 話:03−3567−1211

 http://www.matsuya.com/ginza/topics/100118e_kawakita/index.html

 川喜田半泥子(本名:久太夫)は、三重県津市の素封家の家に生まれ、百五銀行の頭取まで歴任した経済人ですが、50歳から始めた陶芸のほか、書画、茶道、俳句、建築などの分野で多彩な芸術的才能を発揮しました。陶芸では、志野の荒川豊蔵、備前の金重陶陽、萩の三輪休和、唐津の中里無庵など人間国宝級の優れた作家と交流して才能を磨きあげ、陶芸の世界に新風を吹き込んだことで高く評価されています。多彩な作品や資料など200点余りが展示され、半泥子の全貌を知ることができました。

※川喜田半泥子と明治生命との関係

川喜田半泥子の本名は川喜田久太夫といい、川喜田家16代当主久太夫政令です。川喜田久太夫は、明治生命が株式会社の昭和6年12月末時点では1105株(5.5%)を保有し、岩崎家の岩崎久彌(6800株保有)に次ぐ二番目の大株主でした。さらに、明治生命保険株式会社の監査役としては大正14年2月から昭和19年6月まで、引き続いて昭和19年6月から昭和21年11月までは取締役として在任されました。

「川喜田半泥子のすべて展」図録の略年譜では「1944(昭和19)年 66歳 明治生命保険会社取締役就任」とのみ記載されていますが、川喜田半泥子(久太夫)と明治生命とは、上記のとおりかなり深い関係にありました。

 明治生命が戦後、相互会社となってから第3代目社長の高木金次氏および第4代目社長(後の会長)の関好美氏と川喜田久太夫とは親交があったことをご本人から直接伺ったことがありますが、さらに詳しく聴いておけばよかったと思っているところです。

2.「北大路魯山人展…没後50年…」

(日本・ポルトガル修好150周年記念)

会 期:2009.12.27〜2010.1.18(終了)

会 場:日本橋 高島屋8階ホール

入場料:一般 800円

http://www.takashimaya.co.jp/tokyo/event2/index.html

魯山人は美と食の大家としても広く知られ、その芸術活動は陶芸のほか篆刻、書、画、漆芸と多岐にわたります。魯山人その道を究めた芸術家や職人との数多くの出会いにより、天賦の美的感性がさらに磨かれ大きく開花しました。魯山人の手がけた多彩な作品200余点と、会員制の料亭「星岡茶寮」で使用された食器30余組が展示されました。さらに、魯山人70歳の時当時パナマ船籍のアンドレ・ディロン号の船室を飾るために制作された壁画「桜」と「富士」が特別展示されました。

3.「柴田是真の漆×絵…江戸の粋・明治の技…」

会 期:2009.12.5〜2010.2.7

会 場:日本橋室町 三井記念美術館 (三井本館7階)

入場料:一般 1200円

電 話:ハローダイヤル

 http://www.mitsui-museum.jp/

柴田是真は幕末から明治期にかけて活躍した漆芸家であり、和紙に漆を用いて絵を描く「漆絵」を発展させた画家でもあります。洒脱なデザインと超絶的技巧は高く評価され、海外でも多数の作品が所蔵されています。今回はアメリカのキャサリン&トーマス・エドソン夫妻が収集した漆工と絵画70点をはじめ、博覧会受賞作などあわせて約100点が展示されます。

4.「山本冬彦コレクション展…サラリーマンコレクター30年の軌跡…」

会 期:2010.1.14〜2.21

会 場:新宿・大京町 佐藤術館

入場料:一般 500円

電 話:03−3358−6021

 休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)

 http://homepage3.nifty.com/sato-museum/exhibition/index.html

長年懇意にしている山本冬彦さんがサラリーマン生活30年の間に収集した1300点の絵画作品のうち160点が展示されています。「ゴルフ、酒、タバコ、カラオケ、マージャン、競馬などは一切やらず、車も持たず一点集中でアートに費やしてきました」という“アートソムリエ”を自称する山本さんのことば通り、画廊巡りを精力的に継続してきた結晶の一部を興味深く拝見できました。山本さんは単に絵画収集だけではなく、近年は若手作家の育成にも力を注ぎ「個人メセナ」まで実践していますのでその多角的活動には敬服するばかりです。

                                          以上

2009.12.29

…My Museum Walk …『わたしの美術館散策』

(番外編)

                          井出 昭一

『わたしの美術館散策』の回顧と展望




1.いつの間にか38回

…My Museum Walk…『わたしの美術館散策』は2006年9月の「…序…連載にあたって」のあとを受けて、翌10月からスタートしました。それ以来毎月1回連載して2009年11月には回を重ねて38回となりました。

その中身を振り返ってみますと、国立(国立大学の付属施設も含めて)8館、公立(県立、区立、市立)8館、私立が23館となっています。いずれの美術館もそれぞれ個性があって、いつ訪れても楽しいものです。当然のことながら、美術館はその収蔵品が中心をなして大きなウエートを占めていますが、有名建築家が力を入れて設計したものも多いので、建物好きのわたしにとっては美術品と共に建物自体も大切な鑑賞の対象になっています。

東京国立近代美術館工芸館(旧近衛師団司令部庁舎)や三井記念美術館(三井本館)、国立西洋美術館本館(設計:ル・コルビュジエ)は、建物そのものが重要文化財に指定されています。重要文化財でなくても、大倉集古館(設計:伊東忠太)、黒田記念館(設計:岡田信一郎)などのように登録文化財となっている美術館もあります。訪ねた時には周囲を一周したり、内部の階段、廊下、天井などの装飾の美しさを再確認したりしていると、意外なところに美しさが潜んでいて、訪れるごとに新しい発見があるものです。

2.作品は製本して活用

 ダイヤネットのホームページでは『わたしの美術館散策』の総目次を作っていただいていますので、見たい美術館の名前をクリックすればいつでも目指す美術館に飛び込むことができて大変便利です。

わたしは毎日パソコンを活用していながら、画面をみるだけでは物足りず、印刷されたものが近くにないと落ち着きません。これは“シニアとしての資格”が備わってきた証なのでしょうか。以前に書いたものを参考として見返すことが必要ですから、自分で印刷して製本したものを手元に置いています。A4版で印刷すると大きく分厚くなり過ぎるので、A5版(A4版の用紙に2ページ分を印刷)にしたところ、38回までで10冊、厚さ10cmにもなりました。こんな製本が“自宅工房”で簡単にできるのもパソコンのおかげだと思っています。パソコンの画面と相対して目を酷使しているにもかかわらず、ありがたいことに視力の方は“壮年”で、縮小印刷したA5版サイズでも何ら不自由なく読むことができます。

3.美術館散策必携5点セット

わたしが外出する際の必ず携行するは、デジカメ、携帯電話、単眼鏡、「月刊・展覧会ガイド」(生活ガイド社)と都内地図です。この5点セットがあれば都内の美術館・博物館や建物を効率よく巡り歩き、デジカメに数多くの写真を収めることができます。

デジカメは、一眼レフのような高級品ではなくごく一般的なCASIOのExilim(EX−Z600)を便利に愛用しています。4GBのSDメモリーカードで500枚以上の写真を収めることができ、本体が薄くて電池寿命も長いので申し分ありません。1日で歩くと200枚以上の写真を撮ることもありますが、帰宅後はただちにパソコンに収めています。写真専用大型倉庫だと思っていた250GBの外付けのハードディスクも空地が少なくなってきているのが現状です。

最近のデジカメは性能が格段に向上し小型化、軽薄化しているのはありがたいことですが、突起部分がなくデザインもすっきりし、操作するボタン類が小さいので、落としやすいうえに不用意に余計なボタンを押したりしてしまいます。これを回避するために、手製のグリップを常時携行しています。これは数百円程度の安価な自在の三脚を購入し、足の部分を金鋸で切断して皮を張って手に柔らかくなじむように細工を施したものです。

携帯電話は、時計と万歩計が兼用のため腕時計は必要なくなり、万歩計では1カ月分の歩数が記録されますので便利です。「2009東京文化財ウィーク」で集中的に建物巡りをした11月の歩数記録をみたところ、1日1万歩以上歩いた日が15日にも達していて自分も驚きました。こうして結構歩き回っているにもかかわらず、疲れが翌日に残ることも足腰の筋肉痛も皆無です。これは、この5年間毎週通い続けている真向法体操の効果ではないのかとありがたさを痛感しています。

「月刊・展覧会ガイド」は生活ガイド社が発行している小冊子ですが、私が必要とする首都圏の展覧会に関する情報が網羅されていますので、電車の中で展覧会巡りの計画を考えたり、見たい展覧会の見落としを確認したりしています。“ミュージアム探訪”やトピックス、講演会、イベントなどもコンパクトに掲載されていますので手放せない冊子です。

4.“晴歩雨打”で心身の健康維持

 『わたしの美術館散策』の原稿を書いている時に、急に参考になる展覧会図録や資料などを思いつきますが、“老人力”が付着したために、その在りかが直ぐには判りません。そのため、家のあちこちに散乱しているそれらしい資料を“たっぷり時間をかけて”探しまわることもしばしばです。見つからないので諦めかけていた資料が偶然見つかったなど時は、宝物を探し当てたような気分になって急に筆が進みます。

<筆を使わないので、正確にはキーボードをたたく指の動きが早くなります。…というべきなのでしょうか。>

いずれにせよ、家の“内外”を散策したり、下手な文章を繰り返し練り直すのは、シニアにとって最良の心身の体操かもしれません。かつては“晴耕雨読”といったようですが、いまでは“晴歩雨打”です。なにも予定がない日に、朝目覚めた際に快晴ならば、“5点セット”をバッグに入れてイソイソと家を出てしまいます。訪ねたい美術館や建物の在庫を常に抱えていますから、「どこに行こうか」と思案するのではなく、「どことどこを回ろうか」と選択に迷っています。朝からどんより曇っていたり、雨でも降っていれば、迷うことなく直ちにパソコンに向かってキーボードを打ち続けます。

 幸いにして、まだとりあげていない美術館は都内にはまだまだ数多くあります。今思い付いただけでも、東京都現代美術館、講談社野間記念館、原美術館、根津美術館、太田記念美術館、岡本太郎記念館、森美術館……などです。 ましてや東京の近郊まで足を伸ばせば、東京富士美術館、村内美術館、横浜美術館、山口蓬春美術館、東山魁夷記念館、川村記念美術館、川合玉堂美術館などなど……。

 新年もまた心身の健康維持のため“晴歩雨打”で『わたしの美術館散策』の連載を続けますので、引き続きご愛読いただければ幸いです。

                                          以上

2009.12.10

…My Museum Walk …『わたしの美術館散策』(38)

井出 昭一

東京大学総合研究博物館(東大の博物館…その2)

…本郷キャンパスの本館と小石川の分館…

(1)本郷本館

場 所: 〒113−0033 東京都文京区本郷7−3−1

問合せ: 電話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

交 通:都営地下鉄大江戸線「本郷三丁目」駅から徒歩3分

    東京メトロ丸の内線「本郷三丁目」駅から徒歩6分

入館料:無料

休 館:月曜日

年末年始の臨時休館:12月24日、12月29日〜1月3日は休館。
(2)小石川分館

場 所: 東京都文京区白山3−7−1

問合せ: 電話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

交 通:東京メトロ丸の内線「茗荷谷」駅から徒歩8分

入館料:無料

休 館:月・火・水曜日(祝日は開館)

年末年始の臨時休館:12月10日〜13日、12月24月〜1月7日は休館。

http://www.um.u-tokyo.ac.jp/index.html




1.プロローグ

前回の東京大学駒場博物館に引き続き、今回は本郷キャンパスの東京大学総合研究博物館の本館と小石川植物園内の小石川分館を紹介します。

1.膨大・希少・奇妙な学術コレクション

東京大学総合研究博物館は、1996年5月に日本で最初の大学博物館(ユニバーシティ・ ミュージアム)として誕生しました。ここには東京大学が明治10年の創設以来蓄積してきた多種多様の学術標本を収蔵しています。その数は300万点とも400万点ともいえるほど膨大な数にまで達しています。収蔵数が正確に把握できないのは、一挙の10万点を超える須田昆虫コレクションが寄贈されたり、専門分野によって数え方や単位が異なるため集計が容易でないことに加えて、植物調査などで標本の台紙や包装紙として保管されていた大量の新聞紙が、学術的価値が判明して標本に“変身”した例があるなど複雑な情況にあるからのようです。 

 一般に博物館と云うと正面が堂々とした建物を思い浮かべますが、東大の総合研究博物館は、本郷キャンパスの南西の片隅に建つ目立たない建物です。初めて訪ねる人にとって解り易い道は、本郷通りの有名な赤門を入ってすぐに右折し、懐徳門の先の突き当たったところが目指す博物館です。本郷三丁目方面から行く場合には、本郷通りの一本東側の細い道からこの懐徳門を右折するのが最も近道ですが、慣れないと解りにくい入口です。

2.新しい発見ばかりの「東京大学コレクション」展

この博物館の資料によると、これまでに開催してきた特別展は、「東京大学コレクション」展のシリーズ展、「デジタル・ミュージアム」展、「学位記」展、「学誌財」展、学術とアートの斬新的なコラボレーション展、大学院教育プログラムによる企画展などに分類できるようですが、一般の人が興味を持って見ることができるのは、すでに20回以上継続して開かれてきている「東京大学コレクション」展です。

 私が初めて興味を持って見た東京大学コレクション展は、1998年秋の「博士の肖像――人はなぜ肖像を残すのか」展でした。というのは本郷キャンパスにはいたるところに関係者の銅像が置かれていて、その数の多さに驚いていたからです。教壇に立った教授の在職25年、退官、還暦などを記念して新海竹太郎、沼田一雅、朝倉文夫などの有名な彫刻家の手になるものが80点近く制作されています。キャンパス内で確認された肖像画も100点に達し、黒田清輝、岡田三郎助、藤島武二、和田英作など明治画壇の重鎮の筆になる肖像画もあるようですが、その全貌は明らかになっていないとのことですからびっくりします。この展覧会では肖像画55点と肖像彫刻20点が一同に会したのでまさに肖像のオンパレードといえるものでした。

 このほか「加賀殿再訪…東京大学本郷キャンパスの遺跡」展(2000年5月〜7月)、「シーボルト日本植物コレクション」展(2000年10月〜12月)、「蒙古高原の旅…江上波夫コレクション」展(2005年2月〜5月)なども私の眼には斬新なものに写りました。

 最近の特別展で印象的だったのは「建築模型の博物都市」(2008年7月〜2009年2月)です。建築模型は大きなものではありませんでしたが、展示室にフランク・ロイド・ライトのグッゲンハイム美術館、ル・コルビュジエの国立西洋美術館、丹下健三の東京カテドラル聖マリア大聖堂、坂倉準三の神奈川県近代美術館鎌倉など内外の有名建築が勢揃いしていて、上空から建築巡りをした感じでした。

 最近の「鉄…137億年の宇宙誌…」(2009年7月〜11月)は大変な人気だったようです。総合研究博物館では、特別展の都度、一般向けの情報誌として「Ouroboros」(ウロボロス)を刊行し、入口で無料配布しています。無料とはいえ内容が充実していて素晴らしい冊子ですから私は訪ねる度に

いただいてきています。ところが今回の「鉄…137億年の宇宙誌…」展は、

私が伺った時には品切れとなっていて入手できませんでした。ということは、この総合研究博物館が広く知れ渡り、興味を持って来館される人が増えてきた表れかともいえます。

 膨大なコレクションを有する博物館ですから、これからも「東京大学コレク

ション」のシリーズ展が続々と開かれことを楽しみにしています。

3.小石川分館は重文の「旧東京医学校本館」

東大の総合研究博物館は、本郷キャンパスの本館のほか、小石川植物園内の小石川分館もあります。小石川分館は、東京大学の前身にあたる東京医学校時代の建物で、東京大学に現存する最古の学校建築「旧東京医学校本館」です。昭和40年(1965年)に解体されて、昭和44年に小石川植物園内の現在地に再建され、翌45年に国の重要文化財に指定されました。この建物は明治初期の木造擬洋風建築の特色の様相を残し、東京大学の創立以前からの長い歩みを見守ってきた建物でもあります。平成13年(2001年)11月には大学博物館として一般公開され、1階と2階に5室の展示室があって、建築図面、建築模型のほか理工系、医学系の学術標本・機器などが展示されています。

 ここを訪ねるには、東京メトロ丸の内線の「茗荷谷」駅で下車し、春日通りを横断して、湯立坂を下り千川通りを通り過ぎると小石川分館に着きます。ここは広い小石川植物園の西北の隅ですから、植物園を散策した後立ち寄るには好都合の場所です。

4.見どころ満載の東大本郷キャンパス

東大本郷は見どころの多いキャンパスです。入口の門、建物、肖像彫刻、樹木など四季を通じていつでも楽しめるところです。

大きな門としては、重文の赤門、伊東忠太設計の正門が有名ですが、内田ゴシックの守衛所を持つ龍岡門、復原された鉄門なども由緒ある門です。

東大のシンボルとなっている安田講堂は東京都の登録文化財第1号で、正門から安田講堂に至る銀杏並木の左右に配置された工学部列品館、法学部3号館、法文1号館、法文2号館も登録文化財になっています。

重文や登録文化財以外の建物でも、ロックフェラー財団の寄付で関東大震災後に建てられた総合図書館、“キャンパスの貴婦人”と呼ばれる医学部2号館本館、外壁にレリーフ並ぶ医学部付属病院外来診療棟、レンガ貼りの化学東館などは建物として美しいものです。三四郎池の周辺にはコンクリート造の和風建築の七徳堂、弓道場もあり、木造の純和風の懐徳館もあります。懐徳館は特定の日以外は非公開ですが、医学部の教育研究棟の13階から見下ろすことができます。

肖像彫刻は随所に置かれていますが、最も目を惹くのは工学部1号館の前庭に建つジョサイア・コンドルの立像です。

建物ばかりか、キャンパスの樹木も見事です。イチョウ、ケヤキ、クスノキなどの巨木を中心に百数十種の樹木があるといわれています。新緑のころも秋の黄葉も楽しみです。 


展覧会トピックス 2009.12.5



開催場所のURLを表記しましたので、詳細はそれぞれのホームページをご覧ください。

1.「安井曽太郎の肖像画」

会 期:2009.10.30〜2010.1.17

会 場:京橋 ブリヂストン美術館

入場料:一般 800円(65歳以上 600円)

電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)12/29〜1/1

http://www.bridgestone-museum.gr.jp/

 静物、風景画に名作を生みだした安井曾太郎は肖像画の分野でも名手といわれています。その肖像画に加えて習作素描や関連作あわせて約60点を紹介する展覧会で、描いた人物は、日銀総裁、東北帝国大学総長、衆議院議員、実業家など著名人が多数含まれています。

2.「冷泉家…王朝の和歌守(うたもり)展…」

会 期:2009.10.24〜12.20

会 場:上野公園 東京都美術館

入場料:一般 1400円(65歳以上 700円)

電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

 休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)

 http://www.tobikan.jp/

冷泉家は、三代続けて勅撰撰者となった藤原俊成、定家、為家を祖に持ち歌道師範をつとめてきた家柄で、800年の間に集積されてきた勅撰集、私家集、歌学書、古記録などを多数所蔵しています。その貴重な典籍や古文書類ののうち、俊成筆『古来風躰抄』、定家筆『古今和歌集 嘉禄二年本』『後撰和歌集天福二年本』『拾遺愚草』『明月記』の国宝5点をはじめ、展示替を交え約400

点もの国宝・重要文化財が一挙に公開される初めての機会です。

3.「戦国武将と茶の湯…信長・秀吉ゆかりの品々…」

   (平成21年秋季展)

会 期:2009.10.10〜12.20

会 場:白金台 畠山記念館

入場料:一般500円

電 話:03−3447−5787

 休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)

 http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/

室町後期に誕生した侘び茶は、戦国の世では武将の間でも盛んに行われました。重要文化財の唐物肩衝茶入銘「油屋」、重要美術品の井戸茶碗銘「信長」など織田信長、豊臣秀吉ゆかりの品々が展示されます。畠山記念館の展示室は2階にあって、厚いカーペットが敷かれていますので、静かな雰囲気の中で展示品を鑑賞できます。

                                          以上

2009.11.3

…My Museum Walk …『わたしの美術館散策』(37)

井出 昭一

東京大学駒場博物館(東大の博物館…その1)

…駒場キャンパスにひっそりと建つ博物館…

場 所: 〒153−8902 東京都目黒区駒場3−8−1

問合せ: 電話:03−5454−6139

交 通:京王井の頭線「駒場東大前」駅(東大口)から徒歩2分

観覧料:無料

休 館:火曜日

http://museum.c.u-tokyo.ac.jp/




1.プロローグ

都内の大学キャンパスに美術館・博物館が数多く存在しています。いずれもその大学の教材として使用された資料や標本とか、寄贈された美術品などを一般に公開するものです。山の手線の中に限っても大学の博物館は、東京大学本郷キャンパスの「総合研究博物館」をはじめ早稲田大学の「坪内博士記念演劇博物館」「會津八一記念博物館」、神田駿河台の「明治大学博物館」、目白の「学習院大学史料館」などがあり、大学美術館としては、上野公園の「東京藝術大学大学美術館」が広く知られています。

今回は、山の手線のわずか外側にある「東京大学駒場博物館」と駒場キャンパスの美しい建物なども紹介します。

 (注)東京藝術大学大学美術館については、『わたしの美術館散策
    (25)』(2008年10月)をご参照ください。

2.美術博物館と自然科学博物館で構成

東京大学駒場博物館を訪ねるには、渋谷から井の頭線に乗り、2つ目の「駒場東大前」駅で下車します。最後部改札の左側の東大口を出ると、そこは東大駒場キャンパスの正門で、真正面には本郷キャンパスの安田講堂とよく似た時計塔がそびえています。

正門を右に折れて進み、ヒマラヤスギの大木の先が目指す東京大学駒場博物館です。この建物は旧制第一高等学校の図書館として建てられた2階建てで、決して大きくはありませんが、正面外壁の装飾、入口の列柱、入口扉などは歴史と風格を感じさせる建物です。駒場博物館は、旧図書館を全面的な改修の後平成15年(2003年)に開館しまた。

正面入り口の左側には「美術博物館」、右側には「自然科学博物館」と表示されているとおり、駒場博物館は1階が美術博物館の展示室、2階が自然科学博物館の展示室となっています。

1階の美術博物館の展示室は旧図書館時代の閲覧室だったのでしょうか、天井が高く現在でも快適な展示空間です。所蔵する資料は、東洋の美術資料、梅原龍三郎氏寄贈のコプト織、中南米とアジアの考古学資料、旧制第一高等学校関連資料、橋本雅邦、下村観山の作品、さらには現代美術など極めて多岐に亘っています。

平成19年(2007年)6月に開室した資料室は日本全国の美術館 ・博物館で開催された企画展および常設展の図録が数多く収集されていますが、美術以外の歴史、文学等の図録、カタログも幅広いのが特徴です。

自然科学博物館は、教養学部での一般教育に資することを目的として昭和28年(1953年)に設置されました。旧制第一高等学校時代から引き継がれた西洋科学や工学の実験器具、計測器具、機械などの教育標本をはじめ、鉱物、岩石、化石、動物、植物など、1万点を超える膨大な標本資料を所蔵しています。

3.特異なテーマの展覧会を企画

美術博物館は平成15年(2003年)11月に開かれたリニューアル・オープン記念特別展「色の音楽・手の幸福…ロラン・バルトのデッサン展…」以来、広範なテーマを取り上げて展覧会を開催してきています。

特別展のテーマは、専門的で一般向けでないものもありますが、最近開かれた光学・応用光学の研究者の小穴純の焦点を当てた「小穴純とレンズの世界」展では、カメラの解像力を試験する小穴式にテストチャートとか切手大の面積に本一冊を収めることができる超マイクロ写真などは興味深く見ることができました。

また、現在開催中の「観世家のアーカイブ…世阿弥直筆本と能楽テクストの世界…」では、重要文化財に指定されている世阿弥の直筆の能本5点や「花伝」なども展示されていて、能の好きな人にとってはたまらない展覧会です。

駒場博物館は、無料で一般公開され、しかも展示に関する資料も無料ですから、気軽に訪れることができ、知識欲を満たしてくれるところでもあります。さらに、展覧会開催時には、展示に関連した講演会、公開シンポジウム、ギャラリートークなども行われていますので、これらの情報さえ的確に把握していれば、広く深く楽しむことができます。

4.キャンパスの建物と記念碑

 正門左側の守衛所ではキャンパスマップを配布しています。また、博物館の入り口に置かれている「農学部・一高関連記念物位置図」も頼りになります。これらを手にして駒場キャンパスを歩けば、思いがけないものに遭遇することができます。

 キャンパスへの入り口は、正門から時計周りに坂下門、西門、北門(野球場門)、裏門、炊事門、梅林門と7カ所もありますが、訪ねるにはやはり正門から入りたいものです。

駒場キャンパスのシンボルとなっている時計塔の1号館(旧本館)を中心として駒場博物館(旧図書館)と対峙する900番教室(旧講堂)、101号館(旧特設高等科)はいずれも旧制一高時代の歴史の重みを感じさせる建物です。このうち、1号館は登録文化財となっていて、入口の列柱、扉、内部の階段の装飾には細かい配慮がなされています。朝日を浴びる姿も、夕日を受けて1日を終える姿も格別なものがあります。

建物のほか旧制一高時代の歴史をしのばせる「嗚呼玉杯之碑」「一高ここにありき碑」「駒場農学碑」」など記念碑も数多く見られます。梅林門入ったところの「矢内原門跡」の石碑の近くには、今年の10月に設置されたばかりの「新墾の碑」もあり、裏には寮歌「新墾のこの丘の上」の歌詞が刻まれています。

駒場キャンパスは、四季を通じて変化に富み、由緒ある建物を巡るのも楽しいものです。私立大学ではキャンパスに学生が溢れていますが、東大はキャンパスが広いので学生の姿が目立ちません。とくに夏休みの期間は閑散としていて、建物巡りをする絶好の機会です。

キャンパス巡りをして疲れたら駒場コミュニケーション・プラザの南館に行くと、喫茶や食事ができて英気を養えます。また、講堂(900番教室)の西側の駒場ファカルティハウスの1階にはフレンチ・レストラン「ルヴェ・ソン・ヴェール」があって、時間の余裕あるときには洒落た雰囲気を味わうことができます。

5.「駒場?キャンパス」も訪ねたい

今回、「駒場キャンパス」と称してきたところは、正式には「駒場?キャンパス」と云われるところです。駒場には「駒場?キャンパス」もあるのです。東大は日本一の大学だけあってキャンパスも広大です。「駒場?キャンパス」を訪ねるには、「駒場東大前」駅の西口を出て、駒場通りを10分ほど道なりに歩き、右に曲がったところが日本民藝館でその先の左側が東門です。正門はキャンパスの北部の上原3丁目寄りにあり、小田急小田原線の東北沢駅から徒歩で7分となっていますが、私はいつも東門から入ります。

「駒場?キャンパス」は駒場リサーチキャンパスとも呼ばれ、東大の先端科学技術研究センターのあるところです。生産技術研究所の研究棟は“ウナギの寝床”どころか“四角のクジラ”が横たわっているような“最先端”の巨大な建物です。そうかと思うと、先端科学技術研究センター13号館や14号館のように歴史的建物も併存しているキャパスです。正門から入ると正面に位置する13号館には時計塔も備えていますので、東大は本郷の安田講堂、駒場の1号館と3棟の時計塔を有していることになります。

東大駒場の両キャンパスの挟まれたところが、旧前田侯爵邸洋館のある駒場公園と日本民藝館です。キャンパスの建物巡りと周辺を散策するには、かなりの時間をかける覚悟で行かなければなりません。

次回は「東大の博物館…その2」として、本郷キャンパスの「総合研究博物館」を取り上げます。


展覧会トピックス 2009.11.3



今回は都心部所在の大学美術館、博物館の展覧会を紹介します。開催場所のURLを表記しましたので、関連する講演会、ギャラリートーク、イベントなど詳細はそれぞれのホームページをご覧ください。

1.東京大学駒場博物館

展覧会:「観世家のアーカイブ…世阿弥直筆本と能楽テクストの世界…」

      (東京大学教養学部60周年記念)

場 所:東京大学駒場?キャンパス

会 期:2009.10.10〜2009.11.29

入場料:無料

休 館:火曜日(11/3は開館)

電 話:03−5454−6139

http://museum.c.u-tokyo.ac.jp/

2.東京大学総合研究博物館

展覧会:「鉄…137億年の宇宙誌…」

場 所:東京大学本郷キャンパス

会 期:2009.7.24〜10.31

入場料:無料

休 館:月曜日

電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2009Fe_seminar.htm

3.早稲田大学會津八一記念博物館

展覧会:「白隠の書画…旧富岡コレクション…」

場  所:早稲田大学キャンパス(大隈重信銅像横)

会 期:2009.9.24〜11.21

入場料:無料

休 館:日曜日、祝日

電 話:03−5286−3835

http://www.waseda.jp/aizu/index-j.html

4.早稲田大学坪内博士記念演劇博物館

展覧会:「新派展…館蔵品でたどる新派120年の歴史…」

場 所:早稲田大学キャンパス

会 期:2009.10.1〜11.15

入館料:無料

休 館:11/3

電 話:03−5286−1829

http://www.waseda.jp/enpaku/ 

5.明治大学博物館

展覧会:「大名と領地…お殿様のお引っ越し…」(2009年度秋季特別展)

場 所:明治大学駿河台キャンパス アカデミーコモン地階

会 期:2009.10.17〜12.20

入場料:300円

休 館:会期中無休

電 話:03−3296−4448

http://www.meiji.ac.jp/museum/ 

6.学習院大学史料館

展覧会:「近代皇族の記憶展…写真が語る山階家三代の暮らし…」

場 所:学習院大学目白キャンパス 北2号館1階 史料館展示室

会 期:2009.10.1〜11.30

入場料:無料

閉室日:日曜日、祝日、大学休講日

電 話:03−3986−0221(内線6569)

http://www.gakushuin.ac.jp/univ/ua/

7.東京藝術大学大学美術館

展覧会:「異界の風景…東京藝術大学大学油画科の現在と美術資料…」

場 所:上野公園 東京藝術大学キャンパス 東京藝術大学大学美術館本館

会 期:2009.10.2〜11.23

観覧料:一般1000円

休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)

電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

http://www.geidai.ac.jp/museum/

東京藝術大学の油画現職教員14名の作品約70点と大学美術館収蔵の作品約100点が展示されています。

                                          以上

2009.10.2

…My Museum Walk …『わたしの美術館散策』(36)

井出 昭一

三菱一号館美術館

…復元されたコンドルの赤煉瓦の館…

場 所: 東京都千代田区丸の内2−6−2

問合せ: 電話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

交 通:東京メトロ千代田線「二重橋」駅(一番出口)から徒歩3分

JR「東京」駅(丸の内南口)から徒歩5分

JR「有楽町」駅(国際フォーラム口)から徒歩5分

観覧料:展覧会により異なる。

休 館:月曜日(祝日の場合は翌日)

http://www.mimt.jp/japanese.html




1.復元された赤煉瓦の館

丸の内に林立する高層ビルの谷間に古風な赤煉瓦の建物が復活しました。復元されたのは、1894年(明治27年)、丸の内に初めてオフィスビルとして誕生したジョサイア・コンドル設計の三菱一号館です。

三菱一号館は、高層ビルに建て替えられた新丸ビルと丸ビルの前を有楽町方面に通ずる“大名小路”と二重橋が真正面に見える“馬場先通り”が交差しているところに位置し、その赤煉瓦の姿は周囲の近代的ビルとはあまりにも対照的で目を惹きつけます。

2.丸の内の第一世代の嚆矢となった「三菱一号館」

三菱一号館は、わが国の近代建築の生み親で知られるイギリス人建築家ジョサイア・コンドル(1852〜1920)の設計により、1894年(明治27年)に完成しました。“三菱ガ原”といわれた明治の丸の内に初めて誕生した赤煉瓦の“近代的な”オフィスビルでした。この一号館を嚆矢として、二号館(現在の明治生命館の前身の建物)、さらに第12号館、第13号館の煉瓦造りの3階建ての事務所が次々に建設され、明治40年代には馬場先通りの街並みは「一丁ロンドン」と呼ばれ親しまれてきました。この赤煉瓦時代は、丸の内のビル街の“第一世代”です。昭和初期から戦後にかけて、赤煉瓦の建物は新しいビルに生まれ変わり、昭和43年にはついに三菱一号館も取り壊され丸の内から赤煉瓦の建物はすべて姿を消してしまいました。

私の会社生活が丸の内で始まったのは昭和39年で、まだ三菱一号館は健在でした。古めかしくも温かみのある建物で、馬場先通りの入口に「富士電機製造株式会社」(?)という看板が懸っていた記憶が残っています。

今回、三菱一号館の復元は、残されていた創建当時の設計図面をもとに、保管してあった部材なども使用して明治期の状況を忠実に再現したといわれています。旧館が残っていた当時、私はそれほど建物に興味を持っていませんでしたので、内部に立ち入りませんでした。もし一度でも入っていれば、今回の復元されたのと比較できたのではないかと今になって残念に思っているところです。

3.「一号館広場」は都心のオアシス

私は三菱一号館が復元されるということを知って以来、その完成を心待ちにしていました。ベールが取り除かれて、煉瓦の外観が現れた時には感動しました。ただ、私の記憶では煉瓦の赤味がもっと濃かったような気がします。時が経てば、濃くなるのでしょうか。

美術館としての開館は、来年4月といわれていましたので、それまでは建物の中に入れないものと思い込んでいましたが、「一丁倫敦と丸の内スタイル展」が、9月3日から開かれると聞いて、初日に駆けつけ念願の建物内部に足を踏み入れることができました。

室内の暖炉には旧三菱一号館の保存されていた大理石が元のままに戻され、鉄骨の階段、バルコニーの手摺なども戦前の写真をもとに復元されています。1階には、創建当時は銀行の営業室であった二層吹き抜け空間を生かしたカフェやミュジアムショップも誕生しています。

復元された三菱一号館は上から見ると馬場先通りと大名小路に対して、L字

型をしています。高層の丸の内パークビルディングと低層の丸の内ブリックスクエアに囲まれたスペースは「一号館広場」と名付けられ、木々や草花が植えられ、緑あふれる都心のオアシスです。芝生に置かれたヘンリー・ムーアの彫刻、木々の間の朝倉響子や淀井敏夫の彫刻もオープンカフェから眺めることができます。夜になるとガス灯が燈され噴水もライトアップされて、とても東京の中心とは思えない心静まる空間となっています。

この三菱一号館は、来春“三菱一号館美術館”として生まれ変わります。美術館としてのオープンは来年4月6日で、開館記念展の「マネとモダン・パリ」には、オルセー美術館からマネの名作が多数やって来るので今から楽しみにしています。この展覧会のチラシで紹介されている「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」は、“印象派の父“マネの最高傑作と評されるもので、2007年1〜3月の東京都美術館での「オルセー美術館展」以来、久しぶりに再会できるからです。

4.コンドルの足跡を訪ねて

 三菱一号館を設計したジョサイア・コンドルは、明治政府に招かれて25歳で来日し、工部大学校(現:東大工学部)で、辰野金吾、片山東熊、曾禰達蔵、佐立七次郎といった日本の近代建築の基礎を築いた人材を育成する一方、上野博物館(1881年、東京国立博物館の前身)、鹿鳴館(1883年)をはじめ、霞が関の官庁施設、丸の内のオフィス、個人の大邸宅など100を超す建造物の設計を手掛けました。

 そのうち大部分は関東大震災で崩壊したり、第二次大戦で焼失したり、老朽化のために取り壊されて姿を見ることはできませんが、現存するコンドルの足跡を訪ね歩くのは楽しいものです。

 現在都内で最も古いコンドルの作品は、杉並区堀ノ内にある妙法寺境内の鉄門(1878年)で、これは重要文化財に指定されています。都内に現存するコンドル設計の建物を竣工年順に見ますと下記の通りです。 

 お茶の水の東京復活大聖堂(ニコライ堂、1891年)、台東区池之端の岩崎久彌邸(茅町本邸、1896年)、芝高輪の岩崎彌之助高輪別邸(現:三菱開東閣、1908年)、世田谷区岡本の静嘉堂文庫敷地内の岩崎彌之助霊廟(1910年)、三田綱町の三井家倶楽部(現:三井倶楽部、1913年)、東五反田の

島津忠重邸(現:清泉女子大学本館、1915年)、北区西ヶ原の古河庭園内

古河虎之助邸(1917年)で、いずれも重文かそれに匹敵する名建築ばかりです。今回、これらの仲間に三菱一号館が加わったことは喜ばしい限りです。

5.丸の内は今や“第三世代”

丸の内は、第1世代の明治時代の赤煉瓦街から脱皮して、昭和の初期から戦後にかけてビルの高さが揃った整然としたオフィス街となったのが第2世代です。私の会社生活は、この第二世代のさなかで、きれいに刈り込まれた街路樹、四季折々の草花が植えこまれた歩道脇の花壇を楽しみ、銀行、証券、保険などとりすましたウインドウを横目に丸の内仲通りを通勤したものです。行き交う人も、スーツ姿のサラリーマンか、制服のOL、就職シーズンには会社訪問のためのリクルート姿の学生の“三種”に限られていました。

平成の現代になると、超高層ビルが林立し、かつて丸の内の1階部分を独占していた銀行、証券は姿を消し、時代の最先端をゆくファッションが並ぶブティックが軒を連ねて、おしゃれなオープンカフェが出現する第3世代に入っています。戦後の日本の高度成長の中心であったモノトーンの人々の集まった場所は、カラフルで多種多様な老若男女が四六時中行き交う賑わいの街に変身しています。

赤煉瓦の三菱一号館の復元は、昭和に入って建てられたオフィスビルとして初めて重要文化財に指定された明治生命館(設計:岡田信一郎)と並んで、第三世代の丸の内に新たな名所が誕生したことになり、シニア世代を再び丸の内に足を向けさせる契機となったのではないかと感じているところです。


展覧会トピックス 2009.9.1



美術館、博物館など開催場所のURLを表記しましたので、詳細はそれぞれのホームページをご覧ください。

1.「一丁倫敦と丸の内スタイル展…三菱一号館竣工記念…」

会 期:2009.9.3〜2010.1.11

会 場:丸の内 三菱一号館

入場料:一般 500円

休 館:月曜日、10/13、11/24、1/11

(9/21、10/12、11/23、1/11は開館)

電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

 http://www.mimt.jp/japanese.html

本文で紹介したとおり、美術館としてオープンするのは来年4月の「マネとモダン・パリ」展からですが、建物を公開披露するため、丸の内の歴史やオフィス文化を紹介する竣工記念展が開かれています。三菱一号館の内部をゆっくり拝見できる絶好の機会です。

2.「新・根津美術館展…第1部 国宝那智瀧図と自然造形…」

会 期:2009.10.7〜11.8

会 場:南青山 根津美術館

入場料:一般 1200円

休 館:月曜日(10/12は開館、翌10/13は休館、11/2は開館)

電 話:03−3400−2536

 http://www.nezu-muse.or.jp/

3年半にわたって休館していた根津美術館が10月7日にいよいよ開館します。開館を記念する展覧会がこれから来年9月まで8回開催され、館蔵の古筆、茶道具、青銅器など名品が続々と展示されますので楽しみです。その第1弾として、国宝「那智瀧図」を中心に自然をモチーフにした絵画や工芸が勢ぞろいします。なお、新美術館の設計は隈研吾です。

3.開館記念特別展「速水御舟…日本画への挑戦…」

会 期:2009.10.1〜11.29

会 場:広尾 山種美術館

入場料:一般 1200円

休 館:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日の火曜日休館)

電 話:03−3239−5911

http://www.yamatane-museum.or.jp/

山種美術館は、千鳥が淵から広尾に移転しました。速水御舟の名品「炎舞」「名樹散椿」(重要文化財)をはじめ、山種美術館所蔵の御舟作品をすべてが展示されます。加えて初公開の未完の大作「婦女群像」(個人蔵)および1930年の渡欧日記(個人蔵)など合わせて120点の御舟作品が展示されます。

4.「皇室の名宝…日本美の華…」(御即位20年記念特別展)

  会 期:1期 2009.10.6〜11.3

      (永徳、若冲から大観、松園まで)

      2期 2009.11.12〜11.29

      (正倉院宝物と書・絵巻の名品)

 会 場:上野公園 東京国立博物館平成館

入場料:一般 当日券(1期・2期とも)1300円 

休 館:1期 10月13日、19日、26日

    2期 なし

電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

http://www.bihana.jp/

天皇陛下の御即位20年を記念して、皇室ゆかりの名宝を一同に集めた特別展で、これまでにない規模で公開されるということで注目されています。なお、展示作品は、1期、2期ですべて替ります。

5.「第61回 正倉院展」(御即位二十年記念展)

会 期:2009.10.24〜11.12(会期中は無休)

会 場:奈良公園 奈良国立博物館 東・西新館

入場料:一般 1000円

電 話:03−5777−8600(ハローダイヤル)

http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2009toku/shosoin/shosoin_index.html      

今回の正倉院展は、今年1月の天皇陛下御即位20年を記念して、正倉院の全体が概観できるよう正倉院宝物を代表する名品が出陳されるのが特徴です。北倉11件、中倉25件、南倉28件、聖語蔵3件の総計66件の宝物が出陳され、このうち初出陳は12件です。聖武天皇の后の光明皇后が書聖・王羲之の模本を臨書した楽毅論は光明皇后の真跡として名高いものです。

                                          以上