. | . | . | |
皆様、こんにちは。 | |||
前回の陶淵明に引き続いて、今回は李白を取り上げます。杜甫の詩「飲中八仙歌」と梁楷の名画「李白吟行図」と平櫛田中の彫刻「酔吟行」といずれも酒好きの李白をテーマとしたものです。 | |||
書き終わって、読み直してみると、李白本人の詩が登場していないことに気づきました。 | |||
李白は「月下独酌」とか「山中に幽人と対酌す」などの名詩を残していますので、またの機会に取り上げたいと思 っています。 | |||
病臥雑感(5) | |||
“酒中仙”李白…詩と絵画と彫刻… | |||
“病室の一患人” 南山翠春 | |||
(井出昭一) | |||
1.漢詩…「飲中八仙歌」杜甫 | |||
杜甫が創った「飲中八仙歌」という一風変わった詩があります。唐の都・長安で酒好きで評判の八人を取り上げ、その個性を詠み上げたものです。その中で最も良く知られているのは李白です。 中国の詩人の中には、陶淵明のように酒を好む詩人が多いのですが、李白の酒好きは抜きん出ています。長江に舟を浮かべて酒を飲み、水面に映る月を掬おうとして、舟から落ちて溺れ死んだという伝説が伝えられているほどです。 「飲中八仙歌」の中で、杜甫は敬愛する李白について、酒を一斗(現在の一升)飲めば、優れた詩が百篇も続々と生まれ、皇帝からお呼がかかっても酒を飲み続け、自分は酒の仙人だと称して参上しなかったというほどの酒好きだと詠んでいます。 |
|||
李白一斗詩百篇 李白 一斗 詩百篇 | |||
長安市上酒家眠 長安市上 酒家に眠る | |||
天子呼来不上船 天子呼び来れど 船に上らず | |||
自称臣是酒中仙 自ら称す 臣は酒中の仙なりと | |||
2.絵画…重文「李白吟行図」梁楷筆(東京国立博物館蔵) | |||
私の書の師匠は「和散人」と号して、味のある書画を続々と創っておられます。師匠の作品には、無駄な線や冗長なことばが全くありません。それに反して、私のものは無駄ばかりです。 無駄がないものといえば、南宋の画家・梁楷が描いた「李白吟行図」があります。髪や目鼻など顔の表情から衣服に至るまで、筆さばきに一点の無駄もありません。梁楷の「滅筆体」の水墨人物画の優品です。歩みながら詩を朗々と吟じている李白の声が聞こえてくるような見事な墨絵です。私のお気に入りのひとつで、東京国立博物館所蔵の重要文化財にも指定されている墨絵の白眉です。 東京国立博物館の東洋館は長期にわたる耐震工事を終えて、この1月2日にリニューアルオープンしました。梁楷の「李白吟行図」は中国絵画の“目玉商品”として後期に展示されますので鑑賞できる良い機会です。 |
|||
3.彫刻「酔吟行」平櫛田中作 | |||
平櫛田中の木彫作品に「酔吟行」という秀作があります。昨年秋に小平市制50周年・平櫛田中生誕140年記念の「平櫛田中展」が平櫛田中彫刻美術館で開催され、「鏡獅子」「尋牛」「酔吟行」「天心胸像」をはじめ、田中の代表作がそろって展示されました。 |
|||
私にいつも貴重な情報を寄せていただいている知人のKさんから、庭園内で野点の席も設けられているので、訪ねるように勧められましたので出掛けました。幸いなことに、Kさんから紹介された館長の平櫛弘子さんにご挨拶申し上げたところ、会場内の全作品を丁寧に解説していただきました。平櫛田中の令孫に当たられるだけに、他では聞けないような貴重なお話を拝聴させていただきました。 ところで、野点の席の主茶碗が偶然にも坂田泥華の萩茶碗でした。私にこの展覧会を勧めたKさんと坂田泥華は近い親戚であることを伝えたところ、平櫛館長もビックリ。そこでまた話が弾みました。 私は以前から、「酔吟行」は酒に酔って気分良く詩を吟ずる李白の表情が何とも言えず、声が聞こえてくるような錯覚さえ覚える名作だと思ってきましたが、この作品は梁楷の絵にヒントを得て制作したということを平櫛館長からご説明いただき、両者に共通する雰囲気を再認識した次第です。 |
|||
快晴無風の秋空のもとで充実した1日を過ごすことができ、帰宅後、早速Kさんに経過を報告しお礼を伝えました。 |
|||
4.「李白」→「桃紅」→「梅翠」 | |||
ところで、李白の“李”は”すもも“でその花は白い色です。これに対して桃の花は紅く、「李白」に対するのは「桃紅」です。私は「桃紅」と名乗りたかったのですが、女流書家の篠田桃紅がすでに使われていますので、今回、私は「李」に対して「梅」、「白」に対して「翠」を使って「梅翠」と号すことにしました。(“雅号”などと言えるものではなく、“戯号”ですね。) | |||
李白は酒一升飲めば詩が百篇もできたのに、文才のない私は一合の酒にも酔って詩を創ろうとしても頭が空回りしています。振り絞っても出てくるのは断片ばかりで、詩の体をなしません。 | |||
私は“盆栽の街”の近くの蕨(わらび)市に住む凡才で、閑な(?)シニア生活を送っています。そこで、師匠の「和散人」から「和」と「人」を勝手に借用して、“蕨に住む一人のひま人”の意を込めて「和楽備一閑人」としました。しかし、現在は都内の病院に仮住まいの身ですから酒が一滴も飲めない「病室の一患人」です。 | |||
因みに、一閑人とは、することもない閑人が井戸を覗き込んでいるという中国の故事に基づくデザインで、茶道具の蓋置とか鉢、湯呑み、酒盃などの和食器にも使われています。 |
|||
李白一斗 名詩百篇 | |||
梅翠一合 迷詩断片 | |||
「病室の一患人」 梅翠 | |||
以上(2013.1.15) |