高島克規のインド日記
3月9日(土) インド人と日本人
 今回はインド人とは?ということを個人的意見として書きたいと思う。恐らくこの「日記」を読まれている方々には外国旅行をしたことがある、外国人と話したことがある、という方がたくさんおられるかと思う。ただ、インド人となると極端にその数は減ってしまうのではないだろうか。
 以下の表をご覧いただきたい。これは今まで働いていたインドの会社が顧客向けに使っている説明資料の抜粋である。あくまでITビジネスという媒介を通してのインド人像、日本人像なので正確か?といわれればYES、とは答えにくいが、ある一面はとらえていると思う。
ムンバイ市内オフィスビル(写真をクリックするとスライドショウ)
  (日本企業から見たインドIT企業の特徴)
 仕様関連  ・仕様が伝わらない
 ・仕様変更に対応してくれない
 プロジェクト関連  ・コミュニケーションがうまくできない
 ・品質が悪い
 ・スケジュールを守らない
 ・予想外の海外管理費がかかる
 要員関連  ・業務知識が上がらない
 ・技術間のスキル格差が大きい
 ・離職が多い
 ・日本式に慣れても、頑固な行動がみられる
 (残業を嫌い、ミスが多い
 その他(海外委託の場合)  ・目に見えないので本当に大丈夫か
 
 (インド企業から見た日本IT企業の特徴)
 日本の商習慣  ・日本的文化 
 ・日本語の壁
 ・各社独自のソフトウェア開発プロセス
 ・最後まで続く仕様変更
 顧客対応  ・特注の要求が多すぎる
 ・品質を要求しすぎる
 その他  ・職場のコミュニケーション
 ・若いIT技術者(まだ20歳台、せいぜい30歳台前半)のネック
  →日本との平均寿命の違い
 ・日本の常識との差

上記からいくつかのキーワードが浮かび上がってくる。ちょっとコメントしてみよう。

(1) スケジュールを守らない
 私は何度も経験があるが、「約束の時間に遅刻するなどというのは日常茶飯事。ときには約束ごと丸々すっぽかされることさえある。こちらがカンカンに怒っていると、翌日になって悪びれた様子もなく『ハロー!』などと笑顔でやってくる。まったくいい気なものだ」。だがここで怒ってはいけない。
 時間にルーズなインド人気質が、ときとしてプロジェクトに大いに有効に働くことを知っておく必要がある。「彼らは、やると決めた仕事は、ケリがつくまで終えようとしない。たとえ深夜になろうが翌朝になろうが、仕事をし続ける。そんな一面を知ると、彼らのルーズさも、ある程度受け入れることができるようになる」。
日本語教室生徒(写真をクリックするとスライドショウ)

(2) ミスが多い(日本人から)、仕様書の変更が多い(インド人から)
  ある日本人のIT専門家の意見を紹介しよう。
 「とにかく、彼らの論理的なプログラム作成のスピードは圧倒的だ。そもそもの技術習得度の高さもさることながら、驚くのは、『考えてから作る』のではなく『作ってから考える』という手法をとっていることだ。どうやらその手法が、スピードを生む秘訣となっているようだ」。日本においては、一般的に、慎重に検討を行いながらプログラムを作成していくほうが間違いが少なく、それゆえに仕上がりも早いと考えられている。だが、複雑化の一途をたどるソフトウェア開発の現場では、大人数の技術者によるコラボレーションや分業が必須の要件となっている。そうした時代にあっては、「とにかく早くかたちを作り、それからバグをつぶしていく」というプロセスが適しているのではないか――。
 まさに上記のコメントが誤解の根源であり、解答のように思える。アプローチの仕方が違うのである。このことを日本人は理解する必要があるのではないだろうか。日本人のやり方だけが正しいのか、もう一度考えなおしてみる必要がありそうだ。

(3)日本的文化、日本の常識との差
 特に問題となるのが、会計方式の導入における認識の相違である。例えば、海外では、一般的に契約条件や契約単価ごとに個別に現金を請求するインボイス方式の会計プロセスが主流だが、日本においては、現金の代わりに手形を使用するといった会計文化が根強く残る。インド人は『インボイス方式の会計がグローバル・スタンダードだ』と主張する。我々日本人が『ここは日本だ』と、言っても、インド人技術者たちは、能力が高いがゆえにプライドも人一倍高い。平行線」となることもしばしば、である。宮本武蔵ではないが「相手を知れば百戦危うからず」ではないだろうか。

(4)コミュニケーション
  「上下関係を重視すること」も、インド人に共通する特徴である。これは日本人以上に厳格である。例えば、マネジャー・クラスにコンタクトをとり、開発作業の変更を依頼しても、「社長にじかに話してほしい」と、返事が返ってくるのが一般的である。「客観的に見て『明らかに変えるべき』と思えるような場合でも、彼らはボスの命令がないかぎり動かない。
 上下関係を重んずる意識の強さは、日本人の比ではない」。インドIT企業とつきあう際には、とにもかくにもトップと親密な関係を築くことが不可欠である。ユニカイハツ社の場合もヒテーシュさんを抜きには何も決められないのだ。
ユニカハイツ入居ビル(写真をクリックするとスライドショウ)
(5)日本語の壁
 業務を海外に委託する場合、当然そこには“言葉の壁”が存在する。それゆえに、通常はどうしても「日本語に堪能で、なおかつ高い技術力とマネジメント力を備えた」といった3拍子そろった人材を求めがちだ。だが、当然ながら、そうした人材はそもそも数が少なく、仮に見つかったとしても引く手あまたでコストも高い。そこで、特定の能力を持つ者に効率的に業務を任せ、それによって開発フローを回す――といったような戦略的な分業が求められる。 “場所”の切り分けである。開発はインドで、マネジメントは日本で、といった分業体制を敷くことも大切、ということになる。「やはり、いくらコストが安くても、日本で“仲介役”を果たしてくれるような人がいないと、ユーザーの要件を完全に満たすのは難しい。
 個人的な感想を中心にインド人像を浮かび上がらせてみたが、少しはお役に立っただろうか。結論としてインド人も日本人も人間同士、お互いに理解しようとする努力なくしては前進しない。また相手の文化的背景もあるので一概にこちらに合わせろ、というのも難しいのかもしれない。相手の良さを前面に押し出して、お互いに理解しようとする努力、それ以外にないように思う。ヒテーシュさんに頼まれて、日本語を教えると同時に日本ビジネス慣行も教えている。まさにその中で出てくる質問がインド人の日本人に対する疑問なのだろう。名刺の出し方、応接室での座り方、電話の応答などなど、彼らは興味津津で聞いている。是非、日本に来る時には忘れないでいてほしいものである。
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