高島克規のインド日記
11月18日(水) インドのコピー薬品
  毎年11月になると日本にいた頃から風邪をひいた。インドに来ても体のリズムは同じなのか10月下旬に風邪をひいた。私の場合はまず喉にくる。
「D’cold」(風邪薬)
これが悪化すると体に菌が入り、熱が出るということになる。授業では声を出さざるを得ないので困ったことになった。総務の人に売薬の風邪薬をもらった。「D’cold」という製品である。その日はもったがあまりよくならず近くの薬局で同じ薬を買った。値段に驚いた。たった30ルピー(約60円)である。日本だと「パブロン」だとか「ルル」は一瓶500〜600円くらいする筈である。ということは日本はインドの10倍くらいの値段で売っていることになる。
  インドでIT産業とともに特に注目されている産業が、製薬・バイオ関連産業である。医薬品はインドの主力輸出商品となっている。インドの製薬業界の強みは、ジェネリック(後発)医薬品<注1>にある。

<注1>
  すでに市販されている医薬品と同じ成分の製品を、特許が切れた後に、別の製薬会社が生産・販売する医薬品のことで、多額の開発コストが不要なため、オリジナルに比べてはるかに安く販売できるというメリットがあるもの。

  インドでは1970年特許法<注2>から2005年までの間、医薬品分野では製法特許のみが与えられていた。そのおかげでインドの製薬会社は、先進国のジェネリックメーカーよりも早く合法的に新薬をコピーする事ができ、国内向けに大量生産することでコスト削減が行なわれてきたのである。
<注2>
  特許の対象が製品ではなく製造工程となっていたため、他国では特許保護された医薬品であっても、インドでは製造工程を変えるだけで自由に生産・販売することが可能。

  しかし2005年から、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」によって、「製法特許」から「物質特許」を導入することにより、インドの製薬企業は海外の製薬企業と同様の条件でオリジナル製品を開発しなければならなくなったのだ。これによって影響が出るのは必至だ。
  というのは、エイズ治療薬としては世界の発展途上国中の半分がインド製ジェネリック医薬品を使用し、国境なき医師団では 8 万人のエイズ患者治療の 8 割以上に使用されているからだ。安いのにかかわらず、成分は全く同じ。しかもインド製は良質だからだ。インド製のエイズ(HIV)治療薬は今や世界各地で必要不可欠となっている。ジェネリック医薬品が高価になると、国境なき医師団の活動に支障をきたす恐れがあるわけだ。
  インドに来るに際して一番心配だったのが病気である。個人的な話で恐縮だが私は胃腸が弱い、それに高血圧である。 赴任にあたって主治医が最大限出してくれる薬を持ってきた。それに加え、その薬名を先生に英語で書いてもらって常に持って歩いている。とうとう薬がなくなった。薬の名前の書いた紙を持って私の住んでいるボリバリ、そして隣村のカンディバリの薬屋巡りをしたのである。
  何せ英語がわかる人間が少ないのでタライ回しに近い状況で探した。10軒以上は歩いたかもしれない。予想外であったが、結構、探していた薬は手に入ったのである。
薬屋
  まず、薬屋に行く。紙(記載内容は以下のとおり)を出して店員にこれが欲しい、と言う。最初、じっと私の顔を見る。それから紙を見る。言葉は通じなさそう、と思うのか一言も口を聞かないケースが多い。
1. アダラートCR(20)mg  血圧
  Ca blocker(nifedipine)
2.ブロブレス(4)mg 血圧
  Candesartan cilexetil
3.ガスター(胃)
  Famotidine
4.マーズレン(胃)MARZULEN-S
  薬剤師と思われる店員が電話帳のような分厚い薬の参考書を出してきて、チェックする。必ずしもピッタリの名前はないようであるが似た効果のある薬があると言って、1のアデラートと3のガスターに近い薬を売ってくれた。皆さんがよく知っているのは「ガスター」であろう。日本ではテレビで「ガスター10」として宣伝している。日本で高い薬である(ネットで調査したところ6錠1,029円、12錠1,659円)。ところがインドでは14錠で70ルピー(約140円)であった。10倍どころの話ではない!
インド゙のガスター相当薬 日本のガスター インドのアデラート相当薬 日本のアデラート

  その薬屋にないときは近くの薬屋の名前と場所を教えてくれる。だが聞いてもよくわからないので必ず紙に書いてもらうことにしている。気がついたのであるが大きなスーパーマーケットには薬屋が内設していることが多い。しかもそこでは英語を話せる店員が多いのである。だが、結局、2.ブロブレス、4.マーズレンは入手できず、家内が主治医に頼みこんで郵送してもらうこととなった。
インドの製薬業界関連では、2008年6月に大きなニュースがあった。第一三共によるインドの製薬会社「ランバクシー・ラボラトリーズ<注3>」の買収だ。
<注3>
ランバクシーは1961年設立で、従業員は約1万2000人(うち研究者1400人)、07年12月期の売上高は743億ルピー(約1,860億円)の大企業。ランバクシーは、高コレステロール血症や感染症などの領域における後発医薬品を主に製造しており、製剤工場をインド国内に6拠点、海外に13拠点持っている。

 今回の買収で、第一三共は以下の4つの効果を期待している。
(1)新薬に加え、ランバクシーが得意とする後発薬への参入による売上高の増大と今後の成長
   機会の確保。
(2)新興市場への足がかりを獲得。今回の買収により、第一三共の拠点は現在の21カ国から
  56カ国に拡大し、インドをはじめアジアや東欧、アフリカの後発薬市場に参入することになる。
(3)規模拡大による研究・開発・生産から営業までの効率化によるコスト競争力の向上。
(4)ランバクシーとの相乗効果による研究開発力の強化。

  一方、インド企業が日本へ進出というニュースも見逃せない。2000年以降、インドの大手製薬企業は積極的に海外で拠点づくりを強化してきており、日本市場にも本格的に進出し始めている。2007年4月にはインド製薬大手のザイダスグループが、日本ユニバーサル薬品を買収しており、2007年10月にはインド製薬6位のルピンが、中堅後発薬メーカーの共和薬品工業を買収している。
  製薬業界もグローバルな競争が進展する中にあって、インドはその主要なプレーヤーとしてその存在感を一層高めていくだろう。最初は軽微かもしれないが、日本の医薬品市場にも影響が出てくること必至と思われる。外資が入ってくることは脅威ではあるが、それよりも何かしら現状にプラスとなる影響が出るのであれば、意味は大きい?と思うがどうであろう。
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