高島克規のインド日記
11月9日(月) インドの財閥
  今回は日本ではインドの財閥について書いてみたい。「タタ」は最近、10万ルピー(約20万円)の車「ナノ」を発表して一躍有名になったので知っている方も沢山おられるだろう。しかしながら「タタ」だけが大きな財閥ではない。「ビルラ(BILRA」)、「リライアンス(RELIANCE)」と言った巨大グループを筆頭に、20余りの財閥がある。各財閥はいずれも同族経営のもとに多角的な経営をしている。

  代表的な財閥を解説してみる。

タタ(TATA)
  インド最大の規模を誇るのがタタ財閥である。
TATA本社ビル
皆さんご存知の「タージ・マハール・ホテル」は「タタ」グループのホテルだ。以前にもご紹介したが、創始者のジャムセトジーが、友人とホテルに入ろうとしたところ、インド人であるという理由で拒否された経験から「インド人も利用できる豪華なホテルを」ということで建造されたのが「タージ・マハール・ホテル」である。だが、一般インド人が利用するには高すぎる(最低一泊4〜5万円)!皮肉な話だ。
  「タタ」はペルシャ系のゾロアスター教徒ジャムセトジーが1868年に創業した。ペルシャ系ゾロアスター教徒はインドでは「パルシー」と呼ばれて、古くから有力商人を輩出している。

  余談だが、タタの本社の裏手にゾロアスター教<注1>の斎場がある。たまたま友人夫妻が来られて時に通りかかったが、運転手が説明してくれた。「パルシー」は死体を深い穴に落とし、鳥たちが死体を突いて食べることで昇天するそうである。
地図沈黙の塔
(写真をクリックすると拡大)
これを鳥葬という。この場所はあとでわかったのであるが「沈黙の塔」と呼ばれている。厳粛な雰囲気に包まれた斎場には、異教徒の立ち入りは禁止されているので写真は撮影できない。

<注1>ゾロアスター教は火、風、土、水を大切するので、土葬にしない。まず石畳の上に死体を置く。鳥が食い尽くしても構わないが、目的は鳥葬ではなく風葬なのだ。死体が骨になると真ん中に掘られた穴に投げ込まれる。

  そのジャムセトジーも貿易商から身を起こした。「タタ」グループの傘下企業は、鉄鋼、自動車、電力、コンピューターなどあらゆる業種でトップを占めている。



















 IT(タタ・コンサルティング・サービス<注2>など))
         
       コンサルティング・グループ事務所   

 消費(タタ・ティーなど)
       
       TATA紅茶

 サービス(タージ・マハール・ホテルなど)
       
       タージ・マハール・ホテル
 化学(タタ・ケミカルなど)
 エネルギー(タタ・パワーなど)
 素材(タタ・スティールなど)

 エンジニアリング(タタ・モータースなど)
         
       TATA車     TATA・NANO車
                                ※表中の写真をクリックすれば各々拡大できます。

<注2>ヒテーシュさんは、ムンバイ大学を卒業後、タタ・コンサルティング・サービスに入社し、その後独立。

ビルラBILRA
  ビルラもタタと並ぶ老舗の巨大財閥である。同族の権力争いなどによって1937年以降分割を繰り返し、多数のグループが乱立するようになり、現在は二大グループに分かれている。最大勢力は化学・繊維を中心とするアディテイア・ビルラ・グループである。
アディテイア・ビルラ・グループ  ヒンドスタン・アルミニウム・インダストリーズ(アルミ)
 グラシム・インダストリーズ(繊維・セメント)
G・C−C・Kビルラ・グループ  ヒンドスタン・モータース
 三菱(ランサー、パジェロ)、GM(OPEL)と合弁を持っている。
 ビルラ・ソフト
  このビルラ家は、インド西部のラージャスターン州の商人出身のバールデーオダース・ビルラ(1894-1983)によって設立された。ビルラ家は、長年にわたってマハトマ・ガンディーを財政的に支援したことでも知られている。1948年のガンディー暗殺後も、ガンディーとの関係を利用して国民会議派政府の優遇を受け、独占を拡大強化したと批判されている。

リライアンスRELIANCE
  リライアンスは1958年にディルバイ・アムバニが創設した新興財閥グループである。ディルバイ・アムバニはガソリンスタンドの従業員から身を起こし、一代でグループをインド有数の財閥に育て上げた。彼は1958年にアデンのバーマシェル石油での仕事を辞めて、数千ルピーの蓄えを持ってボンベイに戻り、1万5千ルピー(約3万円)の資金で、まず貿易業をスタートし、1966年にはグジャラートに小さな製造工場を持った。これが、合成織糸、テキスタイル、石油化学の大企業・リライアンス・インダストリー社の初めである。
リライアンス・グループ 売上高はインドGDPの13%
輸出はインド全輸出の6%
間接税支払額はインド全間接税支払額の10%
リライアンス・インダストリーズ
(石油化学)
ポリプロピレンでは、伊藤忠等と提携している。
リライアンス・エネルギー
リライアンス・インフォコム
リライアンス・ライフ・サイエンス
リライアンス・キャピタル

  ディルバイ・アムバニは、2002年6月に脳卒中で倒れ、2004年11月に二人の息子がグループの経営権をめぐって対立した。ヒテーシュさんの話では腹違いの兄弟とのことである。企業業績・株価への影響が懸念されたが、2005年6月に兄のムケシュ・アルバムが石油関連部門を、弟のアニル・アルバムが金融・通信を管轄することで和解が成立した。以前にご紹介したが、私がよく行くスーパー「リライアンス」はこの「リライアンス・キャピタル」の一部門が経営している。2月に家内が来たときに買い物をした。その後、私が買い物に行くと「奥さんは元気か?」と聞かれ、5月に家内がまた来たときも買い物に行ったらとても親切にしてもらった。“社員教育が非常にいい”、という印象がある。近くに値段は安いスーパーがあるがやはり買い物するときの気分が大切なのでついつい「リライアンス」で買い物をしてしまう。
リライアンス・スーパー
  建設大手ラーセン&トゥブロ(L&T)とマレーシアのスコミ・インターナショナルによる合弁会社が2008年11月、インド初となるモノレールをムンバイに建設する契約を落札したと明らかにした。入札には同社のほかに、リライアンス・インフラストラクチャーと日立の合弁会社が参加したが、提示した工事所要期間がL&Tの提示期間より長かったため却下となった、という経緯がある。リライアンスと日本企業との結び付きは今後、ますます強くなることが予想される。
  財閥がこれまでインドの経済を牛耳ってきた、と言っても過言でない。しかし今後は厳しい局面に立たされることが予想される。何故ならインド政府は国内産業を積極的に外資に開放しており、国内産業と外資系企業との競争が激化することが確実だからだ。従来どおりの多角経営を進めていたのでは。個別の業種で外資との競争に勝つことは難しくなってくるかもしれない。各財閥とも事業分野をある程度特化することが必要になったかもしれない。日本にとってはインド進出のチャンスがますます増えると期待したいところである。
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