高島克規のインド日記
11月4日(水) くりけっと、クリケット、Cricket
  今回はインド(ムンバイ)でのクリケット人気について書いてみようと思う。インドでは、クリケットの選手はスーパースターだ。日本人にはあまりなじみのないスポーツだが、英国を発祥とするクリケットは、英連邦諸国や英国植民地下にあった国々で盛んだ。クリケットを楽しんだことのないインドの男の子はいない、と言ってもいい。熱狂的なインドでは、ライバルであるパキスタン戦の中継番組の視聴率は80%(インドの人口を11億人とすると8.8億人が見ている計算になる)を超えるほどの人気だ。ちなみに、クリケットがサッカーについで世界第2位の競技人口を誇るスポーツであるという理由は、インドの貢献による、と言われている。

 簡単にクリケットのルールを説明しておこう。
  11人のチームが守備と攻撃に分かれて戦うスポーツで、フィールドの中央にピッチと呼ばれる縦長のスペースがあり、その両端にウィケットと呼ばれる3本の杭(スタンプ)に2つの梁(ベイル)を載せた柱のようなものが刺さっている。このウィケットにボールが当たらないようバットで守るのがクリケットの簡単なルールだ。

投手が投げたボールを打者が打ち、打ったボールがフィールドを転がる間に打者が走って点を重ねる。野球との相違も多く、代表的な点としては:

 • 投手は助走を付けられるが、肘は伸ばして投げなくてはいけない。
 • 打者は投げられたボールがノーバウンドであろうと、ワンバウンドであろうと構わず打つ。
 • 打者は全方位どこに向かって打ってもよい。
 • 後ろに立つ3本の棒(ウィケット、三柱門と書かれている時がある)に投球が当たるとアウト。
   o 3ストライクなどではなく、ウィケットに1球でも投球が当たればアウト。
   o そのかわりアウトにならなければ、何球でも打者は打てる。
 • 打者はペアを組んで打撃し、投球をいくら見送っても良く、打って走らなくてもいい(但し、得点するためには走る)。 などの違いがある。

また、道具にも違いがあり、バットは棒形ではなく平たいオール型をし、グローブは捕手のみが着用を許され、両手に付けることができる。
グローブ ボール バッ
 正式なクリケットは野球より広いスペースを必要とするため、アメリカでは広まらなかった。しかしクリケットはルールに柔軟性のあるスポーツなので、人数やスペースにあわせて臨機応変に調整することができる。インドでは、狭い道などで子供たちが楽しんでいる姿をよく見かける。とにかくスペースがあればどこでもやっている、と言っていいほどである。
市内のあちこちでクリケットを楽しむ人々(写真をクリックするとスライドショウ)
  インドが世界に誇るエンターテイメントは映画とクリケットといわれている。男の子はクリケット選手、女の子は女優にあこがれるという。 ムンバイの街中に出れば、多くのクリケットスター が宣伝看板やテレビCMに出くわす。
  以前にもご紹介したが、インドにクリケットのプロリーグが誕生した。そもそもインドには、ナショナルチームとステイトチームというものがあったが、2008年に、IPL(インディアン・プレミア・リーグ)というプロ・クリケット・リーグが誕生した。ムンバイ、コルカタ、デリー、バンガロール、チェンナイ、ハイダラバード(デカン)、ジャイプール(ラジャスタン)、モハリ(パンジャブ)の計8都市を拠点とした8チームが、シーズン44日間のうち59試合を各地のスタジアムでこなす。
  IPLは、英国のプレミアリーグのような組織化を狙い、8チームの所有権を民間に売却。入札が行われたが、富豪や人気俳優が支払った額の総計は、7億2400万ドル(約781億円)に達した。入札権を勝ち取ったのは、有名なところでボリウッド俳優のシャールク・カーン(コルカタ)<注1>、キングフィッシャービール&航空でおなじみのUBグループCEOヴィジァイ・マリア(バンガロール)<注2>などだ。
  各チームの名前であるが、「コルカタ・ナイトライダーズ」「ロイヤル・チャレンジャーズ」「デリー・デアデヴィルズ」と、アメリカナイズされていている。
TV中継(写真をクリックするとスライドショウ)
TV番組はインドでは一番の人気で、私もときどき見る。選手たちのユニフォームだが、なにしろ派手だ。NFL(米国のフットボールリーグ)を彷彿とさせる。しかも、カメラワークがクリケットの試合とは思えぬアクティヴさ。更には、チアリーダーたちの華やかな姿や、声援に沸く観客席の様子などもしばしば映し出されて、「これまでのクリケットとは違う!」という印象を抱かされる。それに目につくのは国内外のスポンサー広告。ここで動くお金の大きさは想像に難くない。
  最近、2020年のオリンピックにインドが名乗りをあげた、というニュースが飛び出した。しかし、しかしである。銀1個。2004年アテネ五輪で、人口11億人のインドが得たメダルの数だ。世界に優秀なIT(情報技術)技術者を送り出し、米経済誌フォーブスの2008年版世界長者番付で、4人がトップ10に名を連ね、すさまじい経済発展を遂げる大国。だが、五輪の成績は、余りにも不可思議だ。過去にさかのぼっても、お家芸の男子ホッケーが金8(銀1、銅2)という成績を残すほか、金メダルはゼロ。独立以前の1900年から、個人種目で3個ずつの銀と銅があるのみだ。
 「最大の原因は、インドの家庭では都市、地方、貧富を問わず、スポーツより教育が大切という考えが一般的」と、いわれている。過去の実績もなく、国としての取り組みも薄かった五輪スポーツへ、子供を向かわせる親は少ない、のではないか?また、インド国内で最も人気のあるスポーツが、五輪にはないクリケットであるという影響も大きい、と思う。私の生徒、回りで五輪に関心を寄せる人は少ない。クリケットが五輪の種目であったら確実に金メダルが一つもらえるのに、と思っているのは私だけではないだろう。

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