高島克規のインド日記
7月22日(水) インドIT技術者の家庭環境

   インドに行く前も行ってからも知りたかったのがIT技術者はどんな家庭で育ったのか?ということである。現在の日本ではほとんどの家庭が中産階級に所属していて子どもが大学へ進学する、なんてことは特別なこと、ではなくなった。インドでは一体どうなのであろうか?個人的には、やはり家庭が裕福でないと子供を大学などへ進ませられないので、ある程度裕福な家庭であろう、と想像していた。

建物入口の勤務先会社名表示

 わたしは日本語授業の一環として作文を書かせている。日本語能力検定試験4級合格者以上に「わたしの家族」というタイトルで作文を書いてもらった。
 サンプル数は15程度であるので、インド全国のIT技術者の家庭全部に当てはまるわけではないと思うが、ある程度の実態が浮き彫りにされている、ように思えるのでご紹介したい。
日本語授業スケジュール
(写真をクリックすれば拡大できます)

 なまえ
 (敬称略)
性別   家族構成
  (本人以外)
両親の職業 その他
 RJ   両親、姉  父親は電気設備会社に
 勤務
 母親は主婦
 姉は既婚(子供一人)
 現在、千葉県に在住
 DH   両親、兄  父親は退職し無職
 母親は主婦
.
 RJD   両親、姉  父親は公務員
 母親は主婦
.
 PK   父母、姉、弟  父親は自家営業
 母親は主婦
.
 DP
 (既婚)
  義父、義母、
  義妹、夫
 父親は銀行員
 母親は高校学校教師
 弟は航空大学の学生
 義父は元大学の学長
 義母は役所員
 RJK   両親、姉  父親は公務員
 母親は主婦
 姉も大学卒
 AL   両親、妹  父親は判事
 母親は主婦
 妹は大学生
 HM
 (既婚)
  両親、妻
  弟、弟の妻
  甥
 母親は元小学校教師
 父親は自家営業
.
 YK   母、兄、義姉  母親は主婦  兄は小売店主
 義姉は大学生
 GR   両親、弟  父親は元銀行員
 母親は主婦
 弟は大学を卒業し
 IT会社のプログラマー
 PV   両親、弟  父親は銀行員
 母親は高校教師
 弟は大学生
 BR   両親、弟、妹  父は自家営業
 母は主婦
 弟は小学校で先生
 妹は大学生(商業専攻)
 NR   両親、兄  父親はサラリーマン
 母親は主婦
 兄は電気技師
 SB   両親  父親は自家営業
 母親は主婦
.
 NV
 (既婚)
  母親、妻
  子供二人
 母親は主婦 .

 作文を書いてもらって実はビックリした。予想以上にインドとしては裕福な家庭の子弟ばかりではないか。母親(義理も含む)が教師というケースが15人のうち3人(20%)。父親が銀行員というケースは同じく3人(20%)、公務員というケースも3人(20%)である。
 インドの大学進学率を調べてみると「インドの18歳の人口 約2000万人その内大学進学者約 40万人(進学率 2%)」という数字が浮かび上がる。奨学金等はあるが、それでも大学へ進学させる余裕は一般家庭<注1>にはない。一概に言えないが私立大学の年間学費は15000ルピー(約3万円)程度であるので、経済的に余裕がないと子供を大学に進学させられない。
日本語クラスの生徒たち
(写真をクリックすると全員がスライドショウで見れます)
<注1>
2008-2009年の一人当たりの国民所得は、7年前の2倍以上の38084ルピー(約7万6千円)で、平均的インド人の生活水準が向上しているという数値が発表された。<2009年2月>

 今やインドは世界一の強力なIT技術者をもち、世界のIT産業の中心地になろうとしている。85ヵ国で20万人を超えるインド人ソフトウェア専門職が働いている。さらに欧米企業の多くがインドのIT企業にアウトソーシングをしている。
 しかし、大学を出て有利な条件で就職できるのは金銭的にも才能にも恵まれた一部の若者に限られているのが実態だ。

 ITに先導されるインドだが、一方では7億人もの人々が経済発展の恩恵から取り残され、極貧生活を余儀なくされている。「教育におけるカースト化」なのである。ときどきリキシャーに乗って運転手と話しながら「この若者(運転手)はスラムに生まれていなければ、ひょっとしてIT技術者になっていたかもしれないのに」と心のなかで呟いてしまう時がある。
リキシャー(写真をクリックすればもっと見れます)

 インドの識字率は65.4%(01年国勢調査)という低さである。これからインドがさらに発展するためには、こうした底辺層への教育の浸透をはかることが重要である。アメリカ主導のグローバリズムの波に乗って躍進してきたインドだが、貧富の差の拡大をこのまま放置しておくことができない段階に来ていることも事実である。
 最後に2級合格者PVさん(日本へ行ったことはなく私が教える前までは独学で日本語を学習していた)の作文をご覧いただきたい。勿論、間違いは散見されるが素晴らしい。教えていることに幸せを感じる瞬間である。
<以下、本人の原文>
私の家族は四人で、両親と弟と私です。Dombivliに住んでいます。
父は銀行で働いています。母は高校の先生です。弟は大学生です。
母は毎日早く起きて皆のため料理を作ります。料理がとても上手です。
母は子供のとき毎日私と弟に勉強させました。週末母と一緒に買い物します。
弟は過保護に育てられた子供ですから、いつもなにかいたずらをしています。
いつも喧嘩しますが、私たちほど、仲の良い姉弟はいないと思います。
だから、一人がいない時とても寂しい感じます。
以前は、一緒に夕食にしていました。しかしながら今私と父は仕事を忙しくて遅く帰りますので、これはちょっと無理です。
家庭の雰囲気は非常に仲良くしているので、幸せな家庭(家族)が築ける。

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