高島靖男のインド日記
5月23日(土) インド人気質
  今回は最近身の周りに起こった事柄を紹介してインド人気質を見ていただこうと思う。あくまで私個人の経験であり、普遍的ではないことをご理解のうえお読みいただきたい。

(テレビ)
  NHKが見たいという私の希望でアニタさんが有料テレビを赴任前に設置してくれていた。3月になってからのことである。突然テレビが映らなくなった。テレビ画面に連絡先が表示されているので会社からそちらに電話してもらった。コールセンターの電話番号なのでなかなかつながらず、月曜日に連絡を始めたが結局つながったのは水曜日である。
  やっと担当者が自宅に来たのは土曜日の午前中であった。担当者は二人来てテレビをチェックしだした。原因がわからないらしい。アンテナを調べることになった。外に出てしばらくすると「テレビは映らない筈だ。なぜならこのビルは工事中でアンテナの前に工事用の竹が組まれていて、電波を遮断しているからだ。管理事務所の人間を連れて来てくれ」と言うのである。
  仕方なく管理事務所から来てもらうと、何やらヒンディー語で話していたが「工事関係者ではないので、この竹は外せない」と管理事務所の人は言う。「ではこの工事が終わるまではテレビは映らない」とテレビ担当者は言うのである。
工事中の竹の足場
  そして書類を提示してサインを求められた。「まあ、竹の足場を外すわけにいかない、と管理事務所が言うのであれば、1か月ぐらい、映らなくてもしょうがないか?」と納得してサインをして担当者に帰ってもらった。
  翌月曜日の朝、「先生、テレビは映るようになりましたか?」とヒテーシュさんとアニタさんに聞かれた。これこれしかじかで当面工事が終わるまで映らないようです、と説明した。すると「それはオカシイですね。だって工事は1月から始まっていて3月のつい最近まで映っていて何も状況は変わっていない筈です」とヒテーシュさんは納得しない。
  「今日、テレビの担当者に電話するので、先生、そのサインした書類の写しを見せてください」とアニタさんは言ってくれた。電話は例のごとく、なかなかつながらなかったが、翌日の午後につながったようである。
自宅の部屋
  「先生、明日の午後、もっとキャリアのある技術者が自宅に来てくれることになりました」とアニタさんから連絡があった。「でも明日午後は授業があって自宅にはいませんが・・・」と言うと、「運転手さんに先生の自宅に行ってもらって立ち合わせます」とアニタさんは言ってくれた。
  翌日、夕方、運転手さんが事務所に戻ってきた。「先生、グッドニュース。テレビが映りました」と運転手さんはニコニコしながら報告してくれた。 
  運転手さんは英語がほとんど出来ないので、身振り手振り説明してくれた。「どうやって映るようになったの」と聞くと、手でノコギリの仕草をするではないか。
  「カット、バンブー(竹)=竹を切った」と言っている。ではキャリアのある技術者が来てやったことはアンテナの周りで電波を遮断している竹を切った、ということ??それなら自分でも出来る!!
会社が終わって自宅に帰ってビックリ、正にアンテナの周りの竹を切っただけなのである。
  私も、ヒテーシュさんもアニタさんも口をアングリ、何も言えず、大笑い。これがキャリアのある上級技術者が来てやったこと!である。
竹の足場切り落とし後

(浄水器)
  生活に水は必需品である。しかも外国人である私は浄水器がなければ生活できない。どんなものかは写真でご確認いただきたいが、水道の水がこの浄水器によってろ過されて、一応外国人の私でも使える水になる、という仕組みである。であるが私はこの水をじかに飲んだりしてはいない。この水を一度沸騰させ、その水を料理、食器洗い、歯磨きなどに使用している。従って、朝、忙しいのにおびただしい時間をかけて歯を磨き、食事の準備をしているのである。この浄水器、前の住人が置いていった代物である。旧式で赴任してから何度も故障を繰り返している。買えばいい、と思い調べたが、とても高価であり短期間の居住者には不釣り合いの製品である。
浄水器(スイッチ部分) 浄水器
  2月に故障した時も修理してもらうことになった。何回も来ている修理人で、彼とは顔見知りになっている。電話で「2、30分で修理できるからNO Problem。土曜日に行く」と言ってくれた。土曜日の午前11時、彼が来た。いつもの調子で修理を始めた。30分たっても終わらない。「あと30分」と言って、ウインクした。ちょっと心配であったが任せるしかない。1時間が経過した。「ここにある簡単な修理器具では直せないので持って帰る。今日の夕方には届けられる」と言って持って帰った。
  5時になったが連絡がない。携帯に電話した。すると「ちょっと複雑な故障なようなので明日になる」と言うではないか。「OK、では明日、来る前に電話をくれ」と頼んだ。「わかった、明日の午後には届けられる、と思う」と彼は言った。
  日曜日の夕方になっても連絡がない。携帯に電話した。今度は電源を切っているのでつながらない。「日曜日でお休み?」と自問自答した。だが、水がないので早速困ったことになった。ミネラル水を大量に買ってくるしかない。
  ミネラル水は大して大きくないのですぐなくなってしまう。災害時の緊急避難のような生活が始まった。水を沢山使えないのだ。全く困ったことになった。
ミネラル水のボトル
  月曜日に彼に電話をした。「まだ故障の原因がわからない。2,3日かかる」と一つも昨日、連絡しなかったことも遅れていることへの謝罪もないのである。ここで怒っては浄水器が戻って来ない。じっと我慢である。1週間たった土曜日の午前に彼はニコニコとしてやってきた。「この機械は相当古いので部品を手に入れるのが困難だった。そこで中の器材をすべて入れ替えた」と言うのである。それじゃ、新品を買うのと同じコストがかかるの?と思ったら、「フリー(無料)でいい」と彼は言うのである。本当に中を全部入れ替えたの?今度はそちらが疑わくなってきた。単なる言い訳?でも直ったことは目出度い。今日から緊急避難生活が終わる!ほっとしたのである。ところが入力スイッチが曲がっているではないか?以前は上下に動かしてスイッチをオンしたのであるが、斜めになってしまっている。「フリー(無料)」とはこういうことなのかもしれない???

(アポイント)
  ヒテーシュさんが「今日は午前中にお客が来る予定なのですが、午前中に子供のPTAで学校に行くことになっていてどうしようかと思っているんです」と車の中で話してくれた。「それは困りましたね。シミちゃんの学校のPTAも大事ですが仕事では致し方ないですよね」と私は答えた。「ええ、そうなんですが、この人、3週間前にこれから15分で来る、と言った人なんです。それで前は来ないで、昨日、また電話があって明日11時に来たい」と言ってきたんです。「だから来ないのでは?と思っているんです」と言うではないか。インドのアポイントとはそういうことなの?と改めて思った。案の上というかやっと、言うべきか、その人は午前中には現れず午後3時になってやって来た。でも来たのはスゴイ!
  数日後、「困りました」とヒテーシュさんが車の中で話した。「実は3週間後に日本から来客があるんですがアポイントを取って欲しい、と言ってきたんです」「へ〜、どこへ行くんですか」と聞いた。「プネなんです。それはいいんですが、インド人に3週間先のアポイントをお願いしてもそれは無理なんです。明日のことでも不確実でアポイントが取れない国なのに3週間、と言ったら相手がビックリして話しにならないんです」と嘆いた。この国に3週間先のアポイントなんてものは存在しない!!当日、良くて翌日くらいなものなのだ!!

(メイド)
  赴任前にアニタさんが私のためにメイドさんを探していてくれた。食器洗いと床掃除のためである。食器洗いに彼女は水道の水を使うのでメイドさんが帰ったあと、浄水器の水を沸騰させてもう一度洗う。二度手間ではあるが、そのようにせざるを得ない。このメイドさんはアニタさんの家、私のところなど4,5軒をかけもちでやっているらしく、時間がとても不規則であった。そんなこともあるのであろう、小学生の子供に手伝いさせていた。
  そして何回か「物が無くなる」、ということがあった。彼女なのか子どもなのかわからない。アニタさんに言って辞めてもらうこととした。「物が無くなる」、これはどこにも証拠がないので水かけ論になる。解雇理由は時間が不規則、ということで決着をみた。アニタさんには申し訳ないが致し方なかった。従って、現在はメイドさんはいないのである。
  これに似た日本人駐在員のエピソードを紹介しよう。ある日、メイドに買い物を頼んだ。帰ってきたのでレシートと品物を見比べてみた。頼んでいないリンゴが三つある。「このリンゴはどうしたの?」と奥さんは尋ねたそうである。すると「それは明日の分の買い物です」とメイドは平然と答えたそうである。何も悪いことをしたとは思っていない。「物がなくなる」、これは必要経費なのだ!と理解するしかないのかもしれない。
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