高島靖男のインド日記
4月11日(土) ゴーライ・ノービーチ?
   3月下旬の日曜日、生徒に誘われてゴーライ・ビーチというところに出かけた。誘われたと書いたが、実は私の方から「私がレンタカーするから都合がつく人は一緒にムンバイ近辺の観光地に行こう」と誘っていた。生徒の一人S君に話すと「先生、イノーバーという車なら沢山乗れますからそれを予約してください。勿論、我々もお金は払います」とのことであった。早速、ORIXに予約すると見積もりが来た。1キロ当たり、40ルピーである。S君に見せると、「これはとても高い。インド人の業者なら1キロ7ルピーです。私にまかせてください。皆に声をかけます」ということになった。
 
   いよいよ日曜日が三日後に迫った。「どこに行くの。誰が行くの」とS君に聞いた。「今、検討中ですから明日金曜日にはお知らせします」とのことであった。金曜日の午後になったが、いっこうに連絡がない。「どうしたの?」と聞いた。「実は、行きたいところの意見が割れてまとまらないんです。それにこの週末はヒンディー教の新年なんです」とのことであった。ここで成程、インド人と約束してもダメなのだな、ということがわかった。週末がヒンディー教の新年なんてことは自分以外のインド人皆が知っていることである。彼は「土曜日の夜8時までに先生の携帯に連絡します」と言った。あてにしないで待つこととした。土曜日の8時になったが電話がない。もう来ないのだな、と思って寝ようとした。携帯が鳴った。午後10時である。「すみません、先生。明日、ゴーライ・ビーチへ行くことになりました。朝、10時30分に駅で待ち合わせしたいと思います」とのことであった。
  朝、10時20分に家を出た。駅の近くまで来ると携帯が鳴った。「先生、私は10時45分になります」と連絡があった。10時45分になっても現れない。結局、現れたのは11時であった。悪いことをした、という感覚はない。腹をたててもしょうがないが、インド人の時間感覚とはこのようなものである。
  「あと誰がくるの?」と尋ねると、「B1君、M君、B2君、K君、G君が来ます。これからバヤンダー(Bhayander)駅へ行って皆と合流します」とのことであった。バヤンダー(Bhayander)駅は私の駅ボリバリ(Borivali)から北へ3駅行ったところである。もうそこはムンバイ市ではない。
鉄道路線図(写真をクリックすると拡大)
   バヤンダー(Bhayander)駅に到着し切符売り場で待っていると、ぞろぞろとメンバーが集まり始めた。S君の携帯が鳴った。M君からの電話のようである。携帯の話が終わると、説明してくれた。「M君は今日、自分一人で行くということだったので一人で行きました。ところが違うゴーライ・ビーチに行ってしまったらしいです。誰もいないので慌てて電話したようで、あとからこちらに来るそうです」とのことである。「ゴーライ・ビーチは二つあるの?」「ええ、そうです」との答え。何とも奇妙な話である。ユニカイハツの社員はムンバイ以外の出身が多いのでムンバイの地理にそれほど詳しくない。そんなことをしていると、B1君の父上が挨拶に現れた。B1君はこの駅の近くに住んでいる。「いつも息子がお世話になります」というご丁寧な挨拶である。このB1君は特別に優秀で個人レッスンをしている生徒である。しかし、親が挨拶に出てくるとはビックリであった。

   駅前からリキシャーで行くことになったがなかなかリキシャーが捕まらない。というより遠方であることと、値段の交渉が折り合わないらしい。日本人にはこんな交渉はとても出来ない。やっとのことで2台のリキシャーに分乗して出発となった。B1君と同じリキシャーに乗った。彼は地元なのでとても詳しい。「ゴーライ・ビーチにはいつも自転車で行くんです。片道3時間かかります」とのことであった。成程、リキシャーが嫌がる訳である。途中、畑を突っ切り山を越えてゆく。畑が白い??これは塩田?「これは塩田?」と聞いた。「そうです。塩田です。この塩を精製工場に持って行って製品にします」「でも海から遠いよね」と質問すると「いいえ、この畑の向こうは海なんです」とB1君ははるか先を指さした。確かに海が見えるよう気がする。リキシャーが揺れていることと、あっと言う間に通り過ぎたため、写真が撮れなかったのが残念である。まさに日本と同じ塩田であった。
  ゴーライ・ビーチに到着したらしい。リキシャーを降りて海岸の方へ歩いていった。妙なことに人が沢山、帰ってくる。海に辿り着いた。砂浜がない!満潮なのである。「おお、High Tide(満潮)」私は思わず「ゴーライ・ノービーチ!」と叫んでしまった。海の売店もみな丘に上がったカッパである。為す術なく見ているだけである。
   S君が売店の人に聞いた「何時ごろ浜辺が現れるの?」「午後3時ごろ」との返事である。時計を見ると12時30分。これから2時間30分どうするの?それにしてもM君、浜辺のないゴーライ・ビーチとも知らず来るのだがどうするの?皆で大爆笑。
ゴーライ・ビーチのスライドショウ 砂辺か消えたゴーライ・ビーチ
   いたしかたないので近くのレストランで昼飯でも食べて時間を潰すしかない。やっとのことで店を一軒見つけた。とても日本のレストランという風情ではない。店に入るとトイレに行きたくなった。「トイレは?」と聞くと、「外」との返事。でも外にはトイレなぞない。ということは「立小便」ということになる。木陰で、と思ってそばに行くと人が寝ているではないか。皆が見ている野原で用を足すしかないらしい。だんだん私もインド人の生活が不自然・不自由という感覚が薄れてきている。

   用を足して店に戻るとさっき座った場所と違う場所に皆が座っている。「どうしたの」と聞くと「扇風機が」と言う。確かに移動した場所の下だと少し扇風機の風が強く来るようである。「ビールでも飲もうか」と誘うと、最初みな手を振ったが、強く言うと半分は「飲みます」と言いだした。「いつも疑問なんだけど、インドの人は隠れて肉も食べるし、酒も飲んでるんじゃないの?ヒテーシュさんがこの間、インドの牛は神聖だけど、日本の牛は違うから食べてもOKと言ってたよ」と意地悪な質問をしてみた。「いえいえ、そんなことはありません」と笑いながら否定した。「ベジタリアンでもお酒は飲むんです」とのこと。一応信用することにしよう。ビール(インドで一番有名なキングフィッシャー)を飲んだせいか、みな暑いと言い出して、またまた席の移動である。何とも落ち着かない人たちである。

    待つこと2時間、M君が登場。やっと昼食にありついた。チキンカレーを注文した。日頃からインド料理とは一体何者と思っているが、今日は中近東と中華をミックスしたような味である。ムンバイに来てからほとんど中国料理の店に出くわさないし、中国人にも出会わないが、やはり中国文化の影響はあるのである。ものの本によればカレーはインドで比較的短い歴史しかない。

   3時になった浜辺に行ってみることとなった。おおお、浜辺が現れた。日本のように白い砂浜ではない。日本人感覚では決してキレイという表現は当たらないが、彼らはとてもキレイだ!と感激しているようである。早速、クリケットをし出した。インド人はとにかくクリケットが好きである。とても野球に似ている(野球がクリケットに似ているのかもしれないが)?私はビールも飲んだし荷物の番もあるので見学とさせてもらった。この海辺には物乞いはいない。市内から離れているのと、地元のインド人しか来ないからである。観光客はいない。ひょっとすると日本人が訪ねたのも初めてかもしれない。
   どんどん潮が引いてゆく。浜辺がどんどん広がる。沖には沢山の漁船が出ている。とても波が荒い。浜辺では漁師が網にかかった魚を捕獲してザルに入れ替えているようである。皆が誘うので、私も海に足を入れてみた。アラビア海の水は暖かい。B1君がリュックから何かを取り出した。サンドイッチである。
   皆で分けて食べたがゴミはポイポイ海に捨てていく。注意とも思ったが、ここはインド、インドのやり方があるのであろう。これではインドの浜辺がキレイでないのも頷ける。
潮が引いてゆくビーチ
   S君が「先生、冷たいもの欲しくないですか」と言って、海辺に出ている「かき氷」屋さんから「アイスキャンディー」を買ってきてくれた。
   まさに日本のかき氷である。機械も全く同じである。日本とインドのどちらが先にこの機械を導入したのか?「何という名前」と聞いてみた。「アイス・ゴーラ」とのことである。味は奇妙キテレツである。
   「美味しいですか」ときかれ「うん、美味しいね」とは言ったものの、これは日本人の口には合わない代物である。
  
「かき氷」屋さん
   そろそろ帰る、ということになり先ほどリキシャーを降りた場所に戻った。沢山のリキシャーと馬車が待っていた。またまた値段交渉である。この辺はとにかくインド人は粘り強い。
  最終的に馬車で帰る、ということになった。7人全員が一度に乗れるからである。 走り出してから気がついた。来た方向とは逆に走っている。地図を出して生徒に聞いてみたが、これでいい、と言う。でも何か変である。右手にEssel Worldが見えてきた。
  ムンバイでのうたい文句は「アジアで一番の遊園地」とのことである。ということは「東京ディズニーランド」より立派ということになるが????地図によればこのまままっすぐ行くと私の住んでいるボリバリに到着することになる、ハズ??
馬 車
  ところが船着場に到着。え!!フェリーに乗るの。地図には船着場もフェリーも記載されていない。道が真っ直ぐボリバリに繋がっているはずだが。ますます混乱、地図を出して生徒に確認すると「先生の地図は古い。この地図と現在は違うのです」との説明。う〜ん、わからない。フェリーに10分くらい乗船。対岸の船着場に到着。そこからリキシャーで約15分くらい、ボリバリ駅へ。

フェリー

地 図写真をクリックすると拡大

   ゴーライ・ビーチは二つあるのか?M君はどのゴーライ・ビーチへ行ったのか?なぜ、道が消えてフェリーになっているのか?またまたIncredible India(しんじられない インド)であった。
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