高島靖男のインド日記
2月17日(火) タージマハールホテル
タージマハールホテル
 家内にテロ後のタージマハールホテル<注1、2、3>を見せようと行ってみた。日本ではほとんど報道されていないようであるが昨年12月21日に改修工事が終わり営業を再開している。ヒテーシュさんの話では改修費用は100億円近くかかったという話である。
 実は家内に見せる、と書いたが私自身、一度もタージマハールホテルに入ったことはない。テロ事件でお馴染みになったので皆さんもご存知のように海沿いに建てられている。
<注1>
19世紀末、タタ財閥の若き創業者ジャムシェドジー・N・タタは、当時イギリス統治下にあったボンベイ(ムンバイ)のホテルで、インド人であることを理由にレストラン入店を断られた。その屈辱感が彼に「タージ・マハール・ホテル」を作らせることになった。

<注2>
ホテル内のギャラリーには歴代の宿泊VIPのポートレートがある。エリザベス女王陛下、ジョン・レノン&オノヨーコ、グレースケリーにオナシス、オードリーヘップバーン…。インド国内ではネルー首相、ジャイプールのマハラニ・ガーヤトリー・デヴィなどなど。


<注3>タージ・マハール・ホテル(デリー)の宿泊料金
タイプ 料金
スーペリア/シングル ¥48,200
スーペリア/ダブル・ツイン ¥54,300
デラックス/シングル ¥55,000
デラックス/ダブル・ツイン ¥61,200

タージマハールホテル前
                                  写真でおわかりのように現在、同ホテルの一階部分はホテル全体が工事中のように白い板で囲まれている。その白い囲いの一部がホテルの入口になっている。ホテルに入ろうとすると飛行場のセキュリティ・チェックのように荷物検査、身体検査が行われる。決して気持のいいものではない。しかし、これはタージ・マハール・ホテルだからではない。テロ事件後は大きなショッピングセンターなどに行くとどこでも必ず実行されていて非常に厳しい。やっと中に入ると広いロビーがある。受付でコーヒーショップは?と尋ねる。左手奥にあるようである。テロ後、ホテルはすっかり改修されているようで全く事件があったことを感じさせない。

 大ホテルにしてはこじんまりとしたコーヒーショップである。インドに赴任してからこんなに白人の顔を見るのは初めてである。中央の席に案内された。欧米の行くと我々東洋人は端の方に案内されるので妙にVIPになった気分である。案内してくれた女性は中国人であろうかシンガポール人であろうか?英語は少し訛があるが綺麗な発音である。顔だちは久し振りに見る東洋人であった。とにかく丁寧でサービスが行き届いている、そんな印象だ。

 席につくとほどなくインド人のウェイターが注文を取りにきた。コーヒー3杯(家内のほかに運転手さん)とチョコレートケーキを一つ頼んだ。彼は「日本人ですか?」と聞いてきた(勿論、英語である)。「そうだが、ここには日本人はよく来るのか?」尋ねた。「イェス」と大きく頷いた。ということは駐在員、日本からビジネスで来る人がたくさんいる、ということになる。<注3>でもおわかりの通り宿泊料金は目が飛び出るほど高い!ニューヨーク、パリ、ロンドンの比ではない。それでも宿泊客が減らないのだからスゴイことである。

 しかし、テロ事件の後遺症は序々に出てきている。日本からの直行便はANAが独占し、しかもビジネスクラスだけだったのである。しかし、テロ事件の影響でとうとうANAは便数を減らしたそうである。またホテルの様子も大賑わいというより少し閑散している、といった方がいいのかもしれなかった。

 コーヒーとチョコレートケーキが運ばれてきた。コーヒーカップが異常に大きい。背丈はあまりないが小丼のような感じである。ウェジウッドのカップであった。チョコレートケーキは家内が注文したのだが少しつまんだ。通常、インドで食べるケーキは欧米のものに非常に似ていて甘すぎて食べられないが、このケーキは日本のものに似て甘さを抑えているようである。

 家内がトイレに行きたいというのでウェイターに案内してもらった。帰って来た家内はビックリしたようである。トイレに中に二人メイドがいたそうである。一人は手を洗う所へ案内する係、もう一人は手を洗った客にお絞りを渡す担当なのだそうだ。
ホテルのトイレ
「チップをとられたのか?」と家内に聞いたら、「そのようなものは受け取らない」ようである。それではと今度は私が男性トイレに行ってみた。残念ながら男性トイレにはだれもいない。このホテルに入った時から写真を撮りたかったのであるが場違いな雰囲気のため撮るチャンスがなかった。この時とばかり、トイレを写真の収めた。

 さて、コーヒーショップで一番興味があったのは料金なのである。宿泊費用が<注3>のようであるのでコーヒーもケーキも日本並以上と予想したのである。ところがコーヒーは一人195ルピー(約400円)、チョコレートケーキは275ルピー(約550円)であった
レシート
。日本人感覚ではそれほどの値段ではない。しかし、インド庶民にはとても手が出せない値段なのだと思う。

(レシート:左の写真をクリック)

 ホテルから出ると目の前に「インド門<注4>」がある。
インド門
「インド門」の船着場からクルーズの船に乗った。一人30ルピー(約60円)である。ここから「エレファンタ島」に行く船も出ている。ウィークデイであったが結構の人が乗船していた。折角、乗船するのだから船の屋上に出ようとしたら、また船の中でお金を取られた。たった5ルピー(約10円)であるからいいが、乗る時に教えろ!と言いたくなる。
<注4>1911年にジョージ5世夫妻の来印記念として立てられた門。当時は門の下のホールで大勢の各国からの要人をもてなしていた。ヒンドゥとイスラム様式が折衷したグジャラート様式で、高さは26mあり、玄武岩が用いられている。広場からは反ムガルの武将・シヴァージーと、ラーマクリシュナ教のヴィヴェーカーナンダ像が勇ましく観光客を見下ろしている。
 インドの海はどこでもそうなのか?と思うほど海水がよどんでいて、その上、たくさんゴミが浮揚している。丁度、家内のとなりに少女が座っていたが、食べたもののカス、ゴミは平気で海に捨てても親は全く注意するそぶりもないのである。私の座っていたところの三つ先の席の男が海に唾を吐いた。それが風の勢いで私の顔にかかった。たまったものではない。文句を言おうと思ったがここはインドである。「郷に入れば郷に従う」ということか?とあきらめた。日本で食べている「インドまぐろ」は本当に大丈夫?とつい思ってしまった。

 元会社に在職中、東南アジア諸国をたびたび訪問したが、マナーがない、これは共通である。そしてこのマナーが社会全体に行きとどいた時、社会に勢いがなくなるのかもしれない。インドにはまだまだ数十年(あるいは100年)、マナーが国民全体に行きとどくことはないだろう?それにしても庶民の生活とあまりかけ離れたタージ・マハール・ホテル。インドに来てからずっと違和感を感じているホテルである。
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