高島靖男のインド日記
2月8日(日) 信じられないインド:Incredible India
 2月初旬に家内が一週間ほどムンバイに来た。これから数回にわけてその模様を紹介したい。

サンジャイ・ガンディー国立公園内にあった看板
 まず、空港に到着するとIncredible India(信じられないインド)という大きな看板が目に入る。何が信じられないか漠然としている。だが旅行者、外国人にはきっと何かとても信じられないことがあるのだろうとそれぞれが期待と想像をすることになる。

 以前にも紹介したが私はムンバイの郊外(ちょっと足を延ばすとムンバイではなくなる)のBorivaliという村に住んでいる。アパートの隣がサンジャイ・ガンディ国立公園である。ヒテーシュさんによるとムンバイ観光のメッカらしい(ムンバイ市内から約42キロの距離に当たる)。実は家内が来るまで一度も行ったことがなかった。

 アニタさんから「明日はどこに行きたいですか?」と聞かれて、「隣の国立公園にでも行って洞窟<クリックください>を見ます」、と答えた。「先生、洞窟は歩いて行くのは無理。門から洞窟まで7キロあります。午前中公園内にあるサファリパークでも見学して午後会社の車で行った方がいい」と言われてしまった。

 午前中はアドバイスに従いサファリ見学とした。入場料は一人一日20ルピーである。公園の門を入って歩けど歩けどサファリまで遠い。そのうえ表示がほとんどなく、あっても皆ヒンディー語なので何が何だかさっぱりである。とにかく広い公園である。自分の住むアパートの隣がこんな公園であったことにビックリである。やっとのことでサファリ(ライオン・タイガー)という表示を見つける。途中子どもたちに出会ったので「サファリ?」と指差して確認しようとした。すると「ひさしぶり」と一人の子供が答えた。これにはビックリ!「こんにちは」とか「さよなら」なら世界各地の観光地に行くと知っている子どもがたくさんいるが「ひさしぶり」に出くわしたのは初めてである。日本人の観光客がたくさん来る?ということか??

サファリ・ツアーのバス
 サファリ・ツアー受付オフィスに行った。四、五人がトランプゲームに夢中になっている。声をかけたが忙しいとかなんとか言っているらしい。ヒンディー語なのでさっぱりわからない。入口の看板の英語表示を読むと15人の乗客が集まらないとバスは出発しない、と書いてある。しばらくすると欧州人(フランス人?)らしい夫婦がやってきた。我々夫婦と同じように事務所に行ったが埒があかないらしく戻ってきた。「15人集まらないと発車しないらしいですよ」と声をかけた。すると奥さんが「15人分の料金を払うからすぐ出発して欲しい」と冗談まじりに言った。それもそうだ。一人30ルピー(約60円)なら15人分払っても大したことではないが、そんな失礼なことは言ってはいけない。



やっとのことで撮ったライオンの写真
 しばらくするとツアーのバスが来ておよそ30人くらいになった。大半がインド人で中に白人が混じっている、という構成である。東洋人の顔は全く見られない。サファリツアーバス2台に分乗してようやく出発した。一言で言ってつまらない。確かにライオン・タイガーはいることはいるが全く動かない。人を見ても慣れ過ぎていて全く無反応である。逆に人を見ると茂みに隠れてしまうのである。やっとのことで一枚写真が撮れた。他の乗客も同じような状況ではなかったろうか。

 午後3時に再び洞窟に向かった。今度は車での入園である。会社の運転手さんはヒンディー語がわかるので今度は大丈夫と思いきや、行けども行けども辿りつかない。とうとう行き止まりになった。守衛がいる。どうも道が違うと言っているらしい。元来た道を逆戻り。また入場門の近くまで戻ることとなった。やっと見つけた細い道。運転手さんも首を振っている。これでは誰も洞窟には行けないではないか!不親切!!


洞窟の入口
 洞窟まで7キロである。この暑さ(ムンバイは冬であるが日中の気温は30度を超える)では歩けない。途中、スラムの家が点在している。国立公園に勝手に家を作って暮らしているらしい。やっと洞窟の入口に到着した。しかし殺風景である。日本であればお土産物屋さん、レストランなどありそうなものであるが全く何もないのである。この国立公園自体、全く人的加工を施していない、自然のままなのである。よく考えてみればそれが本当の国立公園の姿なのかもしれない。
 またまた大きいIncredible India(信じられないインド)の看板がある。今回はよく意味がわかった。入場料金インド人5ルピー、外国人100ルピー。なんと20倍!!である。確かに信じられないインドである。100ルピーと言っても日本円で200円程度であるから大した額ではないがこの格差は何であろうか?ヒテーシュさんが冗談で言っていた。親戚のインド人(アメリカに移住して米国籍)がこの洞窟に一緒に行ったとき「話しかけないでくれ、話すと英語しか話せないことがばれて100ルピーとられる」、と言ったそうだ。

 
第3窟の内部
洞窟の中へ入ると100ルピーの不満は忘れてしまう。息を飲むすごさだ。よく2〜9世紀にこんな洞窟を作ったものだと感激してしまう。

中でも6世紀に造られた第3窟は最も保存状態がよく入口には高さ6mもの仏像(仏陀)が彫られ、中に34本の石柱で支えられた窟院が残っている。

寒さと暑さと飢えと渇えと
風と太陽と熱と虹と蛇と
これらのすべてのものに打ち勝って
牛の角のようにただ独り歩め
「仏陀の言葉」(スッタ・ニパータ)

 山の上から見るBorivali近辺の美しさに見とれ、そよぐ風に時間を忘れてしまう。帰途、100ルピーで何か得をしたような気分になった。まさにIncredible India(信じられないインド)であった。
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