高島靖男のインド日記
12月21日(日)  インドの食事事情
フルランチの盛り付け
 今回は私がインドでどんな食事をしているのかご紹介したい。ユニカイハツの入居しているオフィスビルの食堂(Canteen)は朝8時から夜8時まで営業している。写真はその食堂で毎日食べている昼食だ。値段は22ルピー(約60円)である。「フルランチ」と言うと写真の盛り付けが渡される。

以下簡単に紹介しよう。
(1)ダール・カレー(写真:茶褐色のカレー)
  「インドの国民食」ともいえる挽き割り豆のカレーである。ダールはごはんやチャパティに合わせるカレーとしての役割が主であり、そのまま食することがまれである。日本で思うほど辛いということはない。

(2)パパルPapar(写真:おせんべいに似た食べ物)
北インドでみかける。豆粉を練り、平たく伸ばして揚げたモノで味はない。やや厚めかつ直径10cm程度のパパルは主にチャイ(ミルク紅茶)につけて食べる。薄く20cm位に伸ばして乾燥させて揚げたモノは、ターリー(定食)に添えられることが多い。

(3)チャパティChapati、(写真:パパルに似ているが厚みがある食べ物)
 インド、パキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンにおけるパンのひとつ。直径12cmほどの円形で、薄く、クレープのような形状をしている。アーター(Atta) と呼ばれる全粒粉と水を捏ねて生地を作り、発酵させずに薄い円形にのばして焼いたものである。「ローティー」ともいう。日本ではカレーなどのインド料理に付くパンとしてはナンが最も有名であるため、ほとんどの日本人はインドでもナンが一般的だと認識している風潮があるが、これは誤りである。ナンは生地をタンドールの内側に張り付けて焼くが、大きなタンドールを持つ家庭は少ないため、実際には少しの燃料とタワーがあれば焼けるチャパティの方が一般的である。

(4)サンバールsambar(写真:黄色カレー)
 南インドで食べられるスパイスを使ったスープ。キマメ(Cajanus cajan)と野菜を煮込んで作られる。使われる野菜は季節のものが多く、ナス、大根、オクラ、カボチャなどといった様々なものを単独で、または適宜組み合わせて使用する。ライスとの相性がよく、ほぼ毎食といっていいほどに供される。日本でいえば味噌汁のような存在である。これ(に限らず香辛料を使ったインド料理の汁物)をいわゆる「本場インドのカレー」と解釈する日本人が多く、またインド人自身が外国人に対して「カレー」として紹介する事が多いが、誤解を招きやすい表現である。

(5)ダヒー(ヨーグルト)
 これも必ずついてくる。日本のように味はついていない。無味である。

(6)アチャール(ピクルス)
 これは相当辛い。マンゴーの漬物である。

(7)玉ねぎ
 インドに来る以前は、これほどインドの人が玉ねぎを食べるとは思っていなかったが、実に旨い。紫色で日本のサイズよりずっと小さい。

 上記が昼食であるが、4,5日も続けると飽きてくるのは致し方ない。さらにベジタリアンという地域では食材が非常に限定されてくるので、インド料理は日本人からするとバリエーションが少なく飽きてしまうのだ。先日も日本から御客が来たが、最終日は食事に一口も手を付けなかったそうである。疲労と食事の単調さ、加えて水に当たったのかもしれない。

 ついでにインドにおける日本食の普及度を記載してみよう。赴任する前は日本食など簡単に手に入るだろう、あるいは中国人、韓国人マーケットで代用できるだろうと高をくくっていた。というのも元会社国際部時代に世界各地を訪問したが、大体チャイナタウン、中国人マーケットがあるので日本食あるいはそれに類するものに不自由したことがなかった。だが、ここムンバイの田舎では全く話が違う。ムンバイ(西インド)は東洋というより、中近東と言った方が適格なのでは、と思う。赴任してから一度も日本人は勿論だが、中国人、韓国人にも会ったことはない。従って、当然のことながら東洋の食材は手に入らない。醤油だけは見かけたが、緑茶、コンソメスープの素ですら入手できないのである。以前にも記載したが私の住んでいるところはベジタリアン村である。食材はすべてベジタリアン用のものである。ノンベジタリアンの食材を探すのは困難を極めた。というのもヒテーシュさん一家はベジタリアンであり、3年ぶりに帰国したので現地の事情に疎かったのである。スパゲッティーを食べたいと思っても、スパゲッティーの食材が近所では売っていないのである。

 結局、探しあぐねて隣村、さらには鉄道で3駅離れたMaladというところまで行って購入しなければハム、チーズなどノンベジタリアンの食材は入手不可能であった。ただし、そんな場所に行っても日本食材は入手不可能である。ムンバイの日本人駐在員はどうしているのかというと、デリー(電車で17時間)あるいはチェンナイ(電車で24時間)に日本食材を扱う店があり、そちらに電話して空輸で取り寄せている、という話を聞く。また、会社によっては一年に一度シンガポールへ買出しを認めているところもある、と聞いている。そのくらい日本食材の入手は困難を極める。

 私も毎週家内に頼んで日本食材(缶詰、非常食、インスタント食など)を航空便で送ってもらっている。実はヒテーシュさんが炊飯器(パナソニック製品)を購入してくれたのであるが、日本の炊飯器のような圧力鍋でないのでお米は全部ポリポリで食べることは不能であった。以来、炊飯器は使用せず、となったので夕食は本当に食べるものにこと欠いている。

 唯一の楽しみがビール、ということになったが現地でアルコールを販売しているところを探すのが、またひと苦労である。アルコールはヒズー教信者の間で沢山の人に飲まれるということはなく、ごく少数派に属する。ヒテーシュさんは勿論飲まないのであちこち聞いてくれてやっと探し出した。インドの銘柄ではKingfisherが一番有名だ。外国ビールではFoster(オーストラリア)が主流である。中瓶の値段で比較するとKingfisherが50ルピー、Fosterが60ルピーである。大半が瓶詰めで缶入りは非常に少ない。缶入りをくれ、と言うと嫌な顔をされる。インド人の所得水準からすれば非常に高価であり、一般人の飲み物になるには相当時間がかかると思う。日本人からするとどちらもお世辞にも旨い、とは言えないが、Fosterに軍配があがる。日本のビールにお目にかかる日はいつになるのであろうか?

 最後にNISSINのTOP RAMENを紹介したい。スーパーマーケットへ行っても日本食材にはお目にかかれない、と書いたが、唯一例外がある。それが日清のTop Ramen(サイズは日本のインスタント・ラーメンより小さい)である。インドにインスタントものがこんなにあるのか、と目を疑ったが、インスタントラーメンは非常に人気のある食べ物である。MaggiとNissinがシェアを二分している。試しにMaggiとNissinの両方のRamenを食べてみた。日本人のテイストには断然Nissinが旨い、と感じる。だが、ヒテーシュさん曰く「小さいころからMaggiばかり食べていたのでMaggiが好きです」とのこと。食べ物、味というものは急に身につくものでなく生まれてからのものなので日本食(日本人テイスト)がインドに根付くには今後相当に時間がかかる、と見てさしつかえない。日清の営業マンが鉄道乗客に無料でカップヌードルを配布し普及活動をした、というのは有名な話で頭が下がる思いがする。

 ちなみにインドではベジタリアンとノン・ベジタリアンでは食品表示が違う。ベジタリアンの食材には緑色の丸、ノン・ベジタリアンは橙色の丸の表示が法律で義務つけられている。先日、間違ってベジタリアンのマヨネーズを買ってしまった。食べて気がついたわけであるが、ノン・ベジタリアンの多い日本人にはハッキリ言って食べられない代物である。インドでの食生活は日本人には決して楽なものでないことは確かである。

 全くの余談であるが、米国で活躍しているプロ野球選手がいるが、これは本当にスゴイことだと思う。日本の解説者、ファンは投手であれば勝星、打者であればホームラン、打率などだけを見て判断しているわけだが、実際には米国という文化全体を全部受け入れ、その環境・文化の違いとの戦いの中で力を出し切る、ということを意味している。日米での数値比較などどのような意味があるのか、と思ってしまう。私自身、インドで活躍するためにはインドの食生活が克服できないと困難であると実感している今日この頃である。日本を出る時の体重は57キロぐらいであったが、現在は53キロに減少している。肉・魚類、油を接取しないとこのような結果になる。また血圧は非常に下がった。醤油・味噌を使わない食事は血圧にはとても良いようである。
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