高島靖男のインド日記
10月16日(木) ムンバイで暴動
 お腹の調子がよくない。実はムンバイへ来てからずっとお腹の調子はよくない。気をつけているのであるが現地の水が体に入ったのかもしれない。昨晩の魚は完全に煮えていなかったのか?焼くのが一番安全なのかもしれない。だが、日系社会でなくインド人が経営する会社、インド人の中で生活、仕事している限り完全に安全に過ごす、なんてことは不可能に近い。

市場
 昼は自宅でおにぎりを作って持っていくようにしていたが、昨日、4級クラスの連中が「新しい先生にお昼を御馳走する」と言ってくれた。従って、今日はおにぎりを持ってきていない。彼らは近くの店からランチを買ってきてくれた。上手そうである。チャパティ(ナンと似ているがもっと薄い生地)とカレーである。食べ方がわからなそうにしていると、一人がチャパティをちぎってカレーを付けて私の口に入れてくれた。正直、彼の手が清潔かどうか?確認にしようがない。親切にやってくれるものを拒む、これは出来ない。その後にもそんな経験を腐るほどすることになるが、日本人の感覚からすると自分の手でちぎったものを相手の口に入れさせるなんて、とても出来ない。アニタさんもよく親切で私の皿に自分の指を入れてナンをちぎってくれたり、カレーをつけてくれたりする。彼女にとっては神聖な右手なのである。観察しているわけではないが、彼らが「手を洗っている」いう雰囲気をあまり感じられないのである。リスクの塊である。免疫が先に出来るか、下痢をするか、どちらが先であろうか?日本にいる時、ヒテーシュさんから「インドに行くと他人の家に訪問すると、必ず水が出される。これを断ると、おれの水が飲めないのか!となる可能性がある。そんな時はお茶でもいただけませんか?」と言うといいですよ。とアドバイスされたことがある。今日のような場面ではどうするのであろう。もう彼がちぎってくれたチャパティはお腹の中である。先日もヒテーシュさん、アニタさんと道を歩いていると、ココナツのジュースを売っている露天商に出会った。ヒテーシュさんが「暑いから飲みましょう」と言って、3人分オーダーした。大きなココナツの実を斧で切ってストローを突き刺して直接飲むのである。以前、元会社の知人がインドに出張して、このようなジュースを飲んで数日苦しい思いをしたという記憶がよみがえった。本当は飲みたくない。でも、断れない。恐る恐る、「おいしい、おいしい」とウソを言いながら飲んだ。今晩は下痢が待っているのか??と一日中気が気でなかった。結局は下痢にはならなかったが常時お腹の調子は悪い。余談であるが、正露丸など効果はなく、ポカリスエットの粉末を水で溶かして飲むのが一番効果がある。離日直前、ガイドブックの「お役立ち情報」に載っていたので念のため持ってきたが絶大の効果がある。

 ここ2、3日で気がついたことがある。自分の反省である。インドに来てから、つい「安い」と言ってしまうことだ。これには他意は全くないのであるが、聞いているインド人にはどのように聞こえるのであろうか?馬鹿にしている、と聞こえてしまうのではないか?終戦直後、駐留米国人将校が発言していた言葉と同じなのではないか?無意識に人を傷つける、これは始末に負えない。気をつけなければ。

 夕方4時ごろ、突然、ヒテーシュさんが私の席に来た。深刻な顔をしている。「先生、今日は早く切り上げて5時には全員帰宅しようと思っていますので、よろしくお願いします。理由は政治的なことなのですが、車の中で説明いたしますのでよろしくお願いします」とのことであった。何のことかさっぱりわからなかったが皆帰り仕度を始めている。

 5時ちょっと過ぎにヒテーシュさん、私に加えDipalさんほか二人が車に乗り込んだ。帰る方向が一緒とのことであった。会社の外にでると、いつもと違ってリキシャが一台も走っていない。妙な雰囲気が町全体に漂っている。あっと言う間に高速に乗った。しばらくするとヒテーシュさんが説明してくれた。「今日、MNS (Maharashtra Nivnirman Sena=マハラシュトラ・新・ライオン党)の党首ラジ・タカレイという人が逮捕されたんです。この党は過激な党で、マハラシュトラ州に失業者が多いのは北から流入する難民を受け入れているからだと主張し、特にリキシャの運転手の大半が北からの難民であることからから、リキシャの運転手の首きりを先導しているのです。今日、裁判所が二つの罪状で彼を逮捕しました。一つは審議が今日終了しましたが、もう一つ審議の決着がつかず、今日一日独房に入ることになったんです。それに伴ってマハラシュトラ州各地でMNS支持者による暴動が発生し、特にリキシャをターゲットにした攻撃が予想されることからリキシャは一斉に休業となったのです。従って、足を奪われた通勤者などが列車になだれこんで大混乱になっているのです。今日、午後2時ころアニタが帰ろうとしたらリキシャが一台も見当たらず異常に気がついたんです」とのことであった。いやはやいろんなことが起こる!!30分もしないうちに我々が住んでいるボリバリに到着した。駅の近くで3人をおろし、帰宅した。6時前である。渋滞がなければこんなに近い距離なのだ。今晩はMNS関連のニュースを見ることとしよう。
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