高島靖男のインド日記
10月12日(日) インドで天ぷらを作る
 夕方6時の天ぷらを持って外に出た。黒山の人だかりである。テレビカメラ、警察の車もある。一体、何が起こったのであろう。今思い出せば昼間から外が賑やかだったような気がする。ヒテーシュさんのアパートの前に行くと、ヒテーシュさんが待っていてくれた。何が起こったのか聞いてみた。「はっきりしたことはわからないのですが四人の人が自殺したらしいです。二人は両親で68、67歳、残る二人は息子37歳と娘41歳だそうです。両親は服毒自殺で、子供二人は首つりのようです。金曜日の株式市場の暴落で自殺したのでは?というのがこの辺の人たちのうわさです」とのことであった。「この界隈で事件など起こったことがないので皆、興味本位で集まっているみたいです」。インドでもこんな自殺があるのか、と思ってしまった。後日談であるがやはり株による失敗で両親を姉が毒殺、弟とともに首つり自殺したことがわかった。クレジット・カードを62枚持っていたそうである。遺書はこの姉が残していた。

 ヒテーシュさんのアパートではアニタさんのお母さんが来ていた。どうもわざわざ来てくれたみたいであった。しかも日本のお米に似たインド米を持ってきてくれていた。とても英語が上手い。「何言語が話せるのですか?」と聞いてみた。「7言語です」とこともなげに答えた。「え〜!7言語ですか?文法も文字も全部違うのですよね?」と聞いてみた。「みな違います。でもインドの人は少なくとも3言語はできるんですよ」と言われてしまった。73歳とは思えないほど頭が切れる。後で知ったのであるが彼女は医者を現在もしているそうである。スーパーレディである。

 食事はカレーである。よく飽きないと思うほどカレー料理ばかりだ。でも、微妙にそれぞれの料理は違うようである。「天ぷらはとてもおいしいです」とヒテーシュさんの家族は褒めてくれたが、日本ではとても食べる代物を作ったわけではない。インドでは珍しいというだけの代物である。なにせ、天ぷらを揚げるための鍋がないのでフライパンに油を入れて揚げただけなのである。しかも、ベジタリアンとのことから野菜(じゃがいも、おくら、きのこ、ブロッコリ)だけである。全く、バラエティに富んでおらず個人的には手をつける気にならなかった。皆、おいしい、おいしい、と食べてくれた。申し訳ない気持ちで一杯であった。

 食事が終わると「散歩に行きましょう」ということで、近くまで手掛けた。昨晩通った不気味と思ったところである。昨晩とは大分違う印象であった。日本で言えば縁日の夜店という風情である。でもそれぞれが立派に店を構えているのであるから夜店と言っては失礼になる。リキシャと人だかりは言葉では説明し難い。犬も半端でなく沢山いる。もう狂犬病などと言っていては生活できそうにない。大半の犬は道で寝ている。しかも皆、太っている。近所の人が餌を与えているので野良犬でも皆、肥満犬である。餌を探す必要がないので寝ている、これが実情であった。ヒテーシュさんが「こっちに来てください」と言うので、いわれるままについていくと、日本で言えば祭壇のようなものがある。「これはお寺なんです」と教えてくれた。象の絵が中に貼ってあって、ロウソクが数本たっているだけである。「え〜っ!これがお寺ですか!!」と思わず言ってしまった。日本人の感覚から言えば単なる祭壇である。お寺とはこういうものだったのか?また、またその祭壇の前には例のごとく肥満犬が寝そべっている。かまれないか?と恐る恐るお参りをした。

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